現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」について解説していますが今回は、前回に引き続き「類似」について考えてみたいと思います。
1. 島精機会長・島氏の事例からみる2つの示唆
前回、例として挙げた島精機製作所(和歌山県)会長・島正博氏が行った、2つのアナロジーによるイノベーション発想は、実はそれぞれ全く逆の方向から発想されたものです。
印刷の3原色を利用した例は「コンピューターを利用して複雑な柄出しの方法を考えなければならない」と、悶々(もんもん)としていた時に、その解決策として思い付いたものです。すなわち『課題』が先にありきの例です。一方で、手袋の一体編みからセーターの一体編み機を思いついたのは、一体編み機で作られた手袋を見て、それがセーターと類似していたため、セーターの一体編み機を思い付くという『解決策』が先にあったものです。
ここから、両者の「類似性」からイノベーションを発想する方法には、上記2つの方向性があることになります。今回は、これを解説します。
2. 『課題』先にありきのイノベーション発想
まず一つ目の『課題』先にありきの発想ですが、今認識している課題の解決法や類似の課題が解決された事例を、世の中に広く求めるというものです。以下に示す3ステップで考えるのがよいと思います。
(1) 課題を明確にする
最初にすべきことは、自分が直面している課題を明確にすることです。
ここで課題は、現状で直面している問題(Pain)と実現できればいいもの(Gain)の2つを意味しています。Painの例では、漠然と不安に思っているようなことがあれば、またGainの例では「もっと」と思っているのであれば「何がどういう状態になっていたらよいか」を明らかにすることです。
(2) 課題を強く認識する
次にその課題を強く認識することです。先に述べた島会長が色の三原色に着想を得た例では、同氏が「悶々」と悩んでいた事実が、イノベーションにつながりました。課題を強く認識するということは、心の作用ですので、なかなか直接的に自分でそうしようと思っても、できないものです。そのために「何かどのような状態になっていたらよいか」について思いを巡らせ、そのような状況をありありと想像し、それを反芻(はんすう)する場に、常に身を置くことではないかと思います。
(3) 問題の解決策を広く世の中に求める
課題を明確にし、それを強く認識すると、どうしてもそれの解決策を深く考えるという...