これまで五感を一つ一つとりあげ、それぞれの感覚のイノベーション創出における意義と、そこに向けての強化の方法について解説してきましたが、前回から体感での思考とアナロジーとの関係を考えています。今回も前回に引き続き、体感での思考とアナロジーとの関係を、蜘蛛の巣を漁網ととりもちのアナロジーの例に基づき、考えていきます。
【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その164)へのリンク】
1. アナロジーとは
アナロジーとは説明しにくい物や事を説明する場合に、すでに知っている他のもっとわかり易い物や事になぞらえて説明することです。たとえば蜘蛛の巣を説明する場合に(蜘蛛の巣を見たことの無い人を対象にと仮定して)、蜘蛛の巣は魚の網にとりもちがくっついているようなものなどと、その人がすでに知っていると思われるものを例に説明することです。
2. アナロジーの発想法への利用
しかし、アナロジーは説明しにくいものの説明以外に、発想法としても活用できます。蜘蛛の巣の例で言うと、バイオミメティクス(生体模倣科学)という概念がありますが、これは植物や動物の構造を利用して有用な材料やものを創出しようというものです。たとえば、蜘蛛の巣の特徴から何か有用なものができないかを考える場合、蜘蛛の巣ととりもちのついた漁網をアナロジーとしてとらえてみると、そこから面白い発想をすることができます。
3. 蜘蛛の巣の例
具体的には、アナロジーを利用してアナロジーの対象と比較して以下のように「類似点/異なる点」×「優れる点/劣る点/どちらでもない点」などマトリクスで考えてみることで、イノベーションを誘発するような、さまざまな蜘蛛の巣の特徴を明確に理解することができます。
4. アナロジーと体感での思考の関係性
蜘蛛の巣を漁網ととりもちのアナロジーで考えると、漁網ととりもちについてすでにもっている知識や体験に基づき、また加えてそれ以外のこのプロセスの中から連想される過去の体験をも含めて活用することで、蜘蛛の巣というものについて広く思考することができます。
ここで、自分の関連する体験や知識を総動員し、まさに体感で思考するのに有効な方法が、自分が対象物になったと考えてみることです。それにより、自分で体験したことを、最大限に活用して考えることができます。それを蜘蛛の巣を漁網・とりもちのアナロジーの例に適用すると以下のようになります。
(1)自分が蜘蛛になったと仮定して
- 漁網のような網状の遊具で遊んだ体験から、人間の2つの足、2つの手だけでは、網の上で移動するには、四つん這いにならなければならず、また足元・手元が揺れるので、動くのに大変苦労する。
- 同じような遊具の体験から、網を持つ握力が十分ないと、移動などままならない。
- その点、蜘蛛は8本の足があり、また足には沢山の毛が生えていて、ものに吸着させることができ、また足先はかぎがたの爪となっていて、糸状のものに引っ掛けることができるという特徴をもち、網状のものの上でも、スムーズに移動できる。
(2)自分が網にひっかかった獲物と仮定して
- 漁網のような網状の遊具で遊んだ体験から、蜘蛛のような手足の構造を持たない(人間のような)生き物は、上の理由で動きがとれず、すぐに蜘蛛の餌食になってしまう。
- ガムテープなど粘着性のものを扱った経験から、網に粘着性のものが付着していると、 ますます厄介になる。
- どこか高いところから落ちた経験があると、蜘蛛の巣や獲物を虎視眈々と狙っている蜘蛛から逃れる方法は、網をすぐに切断して、そこから重力を利用して落ちるしかないな、などと考えることができる。
- しかし、ガムテープなどのべたべたする粘着性のあるテープを切った経験から、ナイフやハサミのようなものでは、切断するにも苦労することがわかる。
(3)自分が漁師になったと考える
- 網状になっていても、水中などでは抵抗があり、網を動かすには大きな力がいる。空気中でも程度の差こそあれ、同じような抵抗がある可能性がある。
- ゴミなどがひっかかったら、もっと大変になる。
- ゴミなどがひっかかったら、後の手入れが大変だ。網にとりもちがついていると、ますます大変になる。
(4)自分が網になったと考える
- 自分...