1. 現代のワークショップ
ワークショップは元々、職人が集まって共同で何かを作るための「工房」「作業場」といった意味の言葉でしたが、現在は、チームダイナミクス理論を背景として、参加者が自ら参加・体験し、集団の相互作用の中で学びあったり、何かを創り出したりする、双方向的な学びと創造の方法論として理解されています。
現在、多くの会社において、現場の課題設定や問題解決の場面でワークショップが活用されています。また、最近では、会社という枠を越えて人々が集い、未来視点で社会の課題を捉え、その解決策を検討するための取り組みや、地域の抱える問題を住民自身が自分事として共有し、解決へ向けた行動を具体化していくための取り組みなど、社会活動における様々な場面でワークショップを応用する例も増えています。
ワークショップは、多様なバックグラウンドや異なる利害関係を持つ人たちが、ともに考え、行動する中で、お互いを理解しながら協働意識を高めると同時に、創造的な知恵を生み出すための方法論として用いられ、効果を発揮しています。しかし、一方で、会社によっては、単に人を集めて行うブレインストーミングや、企業内研修などで行われるグループディスカッションをワークショップと呼ぶ場合もあり、どちらかというと、その場限りで終わってしまう実務と離れたガス抜きの場というようなネガティブなイメージが先行し、その意味が誤解されている例も見受けられます。
2. ワークショップの発展
ワークショップは、アクションリサーチを提唱したクルト・レヴィンや、心理劇(サイコドラマ)の創始者として知られるヤコブ・L・モレノなどの心理学や教育学、さらには、環境デザインの分野で独特のワークショップ手法(ハルプリン流)を展開し、実践手法として大きく発展させた建築家のローレンツ・ハルプリンなど、実践にこだわる様々な分野の専門家の手により発展してきました。なかでも、ハルプリンは、RSVPサイクル(R:リソース、S:スコア、V:バリデーション、P:パフォーマンス)と呼ばれる方法を開発しました。これは、参加者がまず、ワークショップのテーマに関する経験や知識、アイデア、持っているイメージなどを出し合い(R:リソース)、議論と対話をとおして行動を決め(S:スコア)、その行動の結果を共有しながら(P:パフォーマンス)、振り返りと省察を行い(V:バリデーション)、その結果をさらに次のリソースとして展開していくという螺旋上昇プロセスで構成され、最初は誰でも参加できるオープンな形態から始まり、具体的な課題が見えてきた段階でタスクに応じたチームをつくるというものであり、それまでは曖昧だったワークショップの進め方が、実践的なプロセスとして具体化されたことで、その応用可能性が飛躍的に広がりました。
3. イノベーション戦略のキーツールとしてのワークショップ
弊社は、ワークショップを用いてコンサルティングを行います。弊社が、コンサルティングにワークショップを用いる理由は、お客様企業のメンバーとコンサルタントの関係を、創造的かつ創発的なものにしたいと考えているからです。世の中では、コンサルティングの場を「指導会」と呼ぶコンサルタントもいるようですが、弊社はそのような呼び方はしません。また、弊社は、コンサルタントのことを「〇〇先生」ではなく「〇〇さん」と呼んでくださいと、お客様企業の方々にお願いしています。既存の知識や方法論を教えたり、考え方や解き方をアドバイスしたりするようなコンサルティングであれば「指導会」という形でよいかもしれませんが、未知のものを想像し、具現化していくための取り組み、すなわちイノベーションの実践のためのコンサルティングには、そのようなやり方は向きません。お客様企業のメンバーとコンサルタントが、それぞれの役割を果たし、お互いを尊重しつつも、対等かつフランクにコミュニケーションができる関係、双方向で密度の高い相互作用が生み出されるチームをつくることが必要になります。そして、それは、お客様企業とコンサルタントという関係のみならず、企業内部の人と人との関...