普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その194) 隣接可能性とは?

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普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その194) 隣接可能性とは?

【目次】

     

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    これまでは「妄想を積極的に促す方法」について、解説してきました。今回からテーマを変えて「隣接可能性」について解説します。

     

    1. 隣接可能性(Adjacent Possible)とは

    隣接可能性とは、どのようなものでしょうか?Chat GPTに聞いてみたところ、以下の説明がありました。

     

    隣接可能性(Adjacent Possible)とは、生物学者スチュアート・カウフマン(Stuart Kauffman)が提唱した概念で、現在の状況から「すぐに到達可能な」新しい可能性の範囲を指します。簡単に言えば「今すぐ実現できる、次のステップとしてあり得る可能性」のことです。

    (中略)

    創造性の刺激

    「まったく新しいものを考える」のではなく「今あるもののすぐ隣にある可能性」を考えることで、新たな発見が生まれやすくなります。

     

    2. 隣接可能性はイノベーションにおける必須の道具

    シュンペーターによる有名なイノベーションの定義に「イノベーションとは、既存の知識の新しい組合せ(新結合)」がありますが、組合せの対象の既存の知識はどのようなプロセスで新結合されるのでしょうか。

     

    新結合は現実には、それまで「現状で意識していない」「遠くに離れている」2つの知識が、(何かのきっかけで)瞬時に遠くから手元にもってこられ、そこで新結合されるものではないと思います。実際に目の前にあるものや情報に触れて、「これと〇〇を組み合わせると面白くないかい?」と発想することで生まれるように思えます。

     

    すなわち、新結合の対象の2つの知識の内、きっかけになる新結合の片割れは、そもそも最初にそこにないといけません。その片割れに触れることで、その片割れの「何か」...

    普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その194) 隣接可能性とは?

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      これまでは「妄想を積極的に促す方法」について、解説してきました。今回からテーマを変えて「隣接可能性」について解説します。

       

      1. 隣接可能性(Adjacent Possible)とは

      隣接可能性とは、どのようなものでしょうか?Chat GPTに聞いてみたところ、以下の説明がありました。

       

      隣接可能性(Adjacent Possible)とは、生物学者スチュアート・カウフマン(Stuart Kauffman)が提唱した概念で、現在の状況から「すぐに到達可能な」新しい可能性の範囲を指します。簡単に言えば「今すぐ実現できる、次のステップとしてあり得る可能性」のことです。

      (中略)

      創造性の刺激

      「まったく新しいものを考える」のではなく「今あるもののすぐ隣にある可能性」を考えることで、新たな発見が生まれやすくなります。

       

      2. 隣接可能性はイノベーションにおける必須の道具

      シュンペーターによる有名なイノベーションの定義に「イノベーションとは、既存の知識の新しい組合せ(新結合)」がありますが、組合せの対象の既存の知識はどのようなプロセスで新結合されるのでしょうか。

       

      新結合は現実には、それまで「現状で意識していない」「遠くに離れている」2つの知識が、(何かのきっかけで)瞬時に遠くから手元にもってこられ、そこで新結合されるものではないと思います。実際に目の前にあるものや情報に触れて、「これと〇〇を組み合わせると面白くないかい?」と発想することで生まれるように思えます。

       

      すなわち、新結合の対象の2つの知識の内、きっかけになる新結合の片割れは、そもそも最初にそこにないといけません。その片割れに触れることで、その片割れの「何か」により触発されて、自分も普段はその存在を意識していない、自分の頭に長年の時間をかけて蓄積されてきた膨大な情報や経験を納めた蔵の中から、組合せの対象になる関連する情報をスキャンし引き出してくる。そういうプロセスを常に頭の中で行い、その何百、何千、何万の繰り返しの中から、組み合わせが「新しく」かつ「何か大きな価値を生む」数少ないものがイノベーションになるということだと思います。

       

      すなわち、上で述べた「その片割れに触れることで、その片割れの「何か」により触発されて」の部分が、まさに隣接可能性によってなされるものです。したがって、この隣接可能性がどう生まれるか、どうしたら生まれやすくなるかは、イノベーションを生み出す上で極めて重要な部分ということになります。

       

      すなわち、イノベーションを起こすために、重要なことが(1)最初の片割れに触発されるというのはどういうことなのか?(2)どうしたら触発の頻度を高めることができるのか?ではないかと思います。この2点を考えるために、まずは、どう情報が頭の中に蓄積されるのか、また触発とはどのようなメカニズムで行われるのかについて、多少脳科学的に考えてみたいと思います。

       

      3. 記憶のメカニズム

      人間は何か新しいモノやコトに遭遇すると、脳の中でその情報を五感や言語、感情や経験に関わる部分に分解・整理し、脳の中のそれぞれをつかさどる領域にあるそれ専用のニューロンとシナプスを利用して、蓄積します。

       

      たとえば、赤ちゃんがリンゴを初めて経験しその表面をなめてみた時、それを「お母さんに差し出された」「赤い」「つるつる」した「表面はちょっと固いつるつるした少し弾力のある」「口に入れると美味しそうな」「球体」という情報などに遭遇します。赤ちゃんの脳は、リンゴとそのリンゴに遭遇した経験を「 」で記述したような要素に分解・整理し、その情報をそれぞれの要素をつかさどる脳の領域、具体的には大脳皮質(知識)、海馬(経験)、偏桃体(感情)などの中のニューロンに別個に蓄積します。

       

      加えて、脳の中では、それらそれぞれの領域の中のニューロンに蓄積された情報要素は、各ニューロン間のシナプスによる結びつきにより関連付けられ(ネットワーク)、「お母さんに差し出された」「赤い」「つるつる」した「表面はちょっと固いつるつるした少し弾力のある」「口に入れると美味しそうな」「球体」という情報全体は、ネットワークとして蓄積されます。

       

      そして、その赤ちゃんがまた次の機会に再度リンゴに遭遇すると、そこで得られた新な情報は、すでに蓄積された上のリンゴに関わるネットワークに付加されたり、修正されたり、結びつきが強化(それにより思い出しやすくなるなど)されることで、全体のネットワークは進化・拡大していきます。(逆に、リンゴに遭遇する機会がないと、各要素間シナプスの結びつきが弱くなるということも起こりますが。)

       

      このように、遭遇した情報はそれを構成し、また関連する情報要素のネットワークとして脳の中に蓄積され、またその後の学習や経験により、そのネットワークは修正し、拡大し、また強化されます。

       

      4. 脳における触発の意味:スプレッディング・アクティベーション

      次にある情報により触発され、何かを思い出したり、気づきを与えるプロセスは、どのようなものなのかを考えてみたいと思います。

       

      上述したように情報は脳内の別個に蓄積された要素のネットワークとして存在していますが、人間の脳はネットワークを構成するその中の一つの要素が活性化されると、そのネットワークを構成する他の要素も活性化することがわかっています。この機能には、スプレッディング・アクティベーション(Spreading Activation)という名称がつけられています。

       

      具体的には、リンゴの例で言えば、何かの機会に赤い玉の絵を見ると、頭の中に過去にリンゴに遭遇した時に蓄積された「赤い玉」をつかさどるニューロンが刺激を受け(活性化)、同じように頭の中にリンゴのネットワークとして「赤い玉」と共に蓄積されているリンゴの映像や甘酸っぱい味が、一緒に想起(活性化)されます。

       

      次回に続きます。

       

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      この記事の著者

      浪江 一公

      プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

      プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


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