イノベーション 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その141)

投稿日

技術マネジメント

 

イノベーションの活動を行うことを妨げる「失敗のコストのマネジメント」の解説をしていますが、今回もこの解説を続けたいと思います。

 

具体的には、ここまで考えてきた「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「心理的コスト」の内、心理的コスト(その2):エネルギーをセーブしたいと思う人間の基本心理が存在にどう対処するのが良いのかを考えていきたいと思います。

 

【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その140)へのリンク】

1.イノベーションのための最初の一歩を踏み出すことを妨げる「めんどくささ」

人間はめんどくさがりです。人間のこのような特徴を善意に捉えると、そもそも太古から人間は、常に危険な環境に身を置き、危機に直面した時にその状況に即時に対応できるように、常に備えておかなければならない、ということがあるように思えます。そのため、危機のない状況にあるときには、エネルギーを温存し、危機に備えるということがあり、それが「めんどくさがる」ということとも理解できます。

 

2.「めんどくささ」を払拭する方法

人間が本来持つめんどくささを払拭し、行動を起こすにはどうしたら良いのでしょうか?それには、私は次の5つがあると思います。

  • (1)仕事を細かく分割する
  • (2)隣接可能性の効果を信じる
  • (3)第一歩を踏み出したことを自分自身でほめる
  • (4)時間を掛けても良いと考える
  • (5)行動を重視する習慣・カルチャーを作る

では、前回、(1)(2)まで解説しましたので、今回は、(3)からです。

 

(3)第一歩を踏み出したことをほめる

前回「めんどくささ」を払拭する方法として、「仕事を細かく分割」して、まず第一歩を踏み出す。そうすれば、後から継続して起こる「隣接可能の効果を信じ」て思考・活動すれば良いという議論をしました。つまり、第一歩を踏み出せば、後は極論すると「自然に」当初予想していないような展開が期待できるということです。

 

しかし、そうであっても、それでもこの第一歩を踏み出すのが気持ち的に難しい。どうしたら良いのか?それは、結果はどうあれ、第一歩を踏み出すという行為そのものを、個人レベルでは自分自身でほめるという習慣を作る、また企業サイドでは、研究者が第一歩を主体的に踏み出したことをほめるという仕組みを作ることが必要ではないかと思います。

 

後者に関しては、企業においてはやりっぱなしで散らかすだけの人は、評価はされないという価値基準が、特に日本企業においては極めて強いように思えます。もちろん難題に対し、あきらめず根気よく取り組むことは大変重要です。しかし、そのような価値基準が第一歩を踏み出すことを躊躇させ、結果的に面白いアイデアを殺してしまうことにもなることも忘れてはなりません。

 

(4)時間を掛けても良いと考える

そもそもイノベーションは簡単に生み出せるものではありませんので、短期でいついつまでにこのイノベーションを起こすという目標設定は、その点あまり適正とは言えません。時間を掛けても良いと思えば、様々なことにトライをできますのですし、隣接可能性の効果を利用して、アイデアが発酵し発展することを待つこともできます。ですので、鷹揚に構えて、まずはやってみようと思えるような環境を作れば、最初の一歩を踏み出すハードルも随分下がると思います。

 

しかし、この点については、切羽詰まらないと良いアイデアがでない、という人がいるのも事実です。エネルギーを集中するには、自分自身を切羽詰まった状況に置くということが必要である。また、特に忙しい人達にとって直前にエネルギーを集中し、良いアイデアが出たという経験は、まさに達成感、さらには快感を感じるもので、そのようなことができる人にとっては習慣になりがちということもあると思います。

 

一方で、このアプローチの問題点は、このアプローチではアイデアは自分自身の既存の知識のみを基にせざるを得ず、さまざまな他の可能性を試すということができません。この問題点の存在は、あきら...

技術マネジメント

 

イノベーションの活動を行うことを妨げる「失敗のコストのマネジメント」の解説をしていますが、今回もこの解説を続けたいと思います。

 

具体的には、ここまで考えてきた「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「心理的コスト」の内、心理的コスト(その2):エネルギーをセーブしたいと思う人間の基本心理が存在にどう対処するのが良いのかを考えていきたいと思います。

 

【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その140)へのリンク】

1.イノベーションのための最初の一歩を踏み出すことを妨げる「めんどくささ」

人間はめんどくさがりです。人間のこのような特徴を善意に捉えると、そもそも太古から人間は、常に危険な環境に身を置き、危機に直面した時にその状況に即時に対応できるように、常に備えておかなければならない、ということがあるように思えます。そのため、危機のない状況にあるときには、エネルギーを温存し、危機に備えるということがあり、それが「めんどくさがる」ということとも理解できます。

 

2.「めんどくささ」を払拭する方法

人間が本来持つめんどくささを払拭し、行動を起こすにはどうしたら良いのでしょうか?それには、私は次の5つがあると思います。

  • (1)仕事を細かく分割する
  • (2)隣接可能性の効果を信じる
  • (3)第一歩を踏み出したことを自分自身でほめる
  • (4)時間を掛けても良いと考える
  • (5)行動を重視する習慣・カルチャーを作る

では、前回、(1)(2)まで解説しましたので、今回は、(3)からです。

 

(3)第一歩を踏み出したことをほめる

前回「めんどくささ」を払拭する方法として、「仕事を細かく分割」して、まず第一歩を踏み出す。そうすれば、後から継続して起こる「隣接可能の効果を信じ」て思考・活動すれば良いという議論をしました。つまり、第一歩を踏み出せば、後は極論すると「自然に」当初予想していないような展開が期待できるということです。

 

しかし、そうであっても、それでもこの第一歩を踏み出すのが気持ち的に難しい。どうしたら良いのか?それは、結果はどうあれ、第一歩を踏み出すという行為そのものを、個人レベルでは自分自身でほめるという習慣を作る、また企業サイドでは、研究者が第一歩を主体的に踏み出したことをほめるという仕組みを作ることが必要ではないかと思います。

 

後者に関しては、企業においてはやりっぱなしで散らかすだけの人は、評価はされないという価値基準が、特に日本企業においては極めて強いように思えます。もちろん難題に対し、あきらめず根気よく取り組むことは大変重要です。しかし、そのような価値基準が第一歩を踏み出すことを躊躇させ、結果的に面白いアイデアを殺してしまうことにもなることも忘れてはなりません。

 

(4)時間を掛けても良いと考える

そもそもイノベーションは簡単に生み出せるものではありませんので、短期でいついつまでにこのイノベーションを起こすという目標設定は、その点あまり適正とは言えません。時間を掛けても良いと思えば、様々なことにトライをできますのですし、隣接可能性の効果を利用して、アイデアが発酵し発展することを待つこともできます。ですので、鷹揚に構えて、まずはやってみようと思えるような環境を作れば、最初の一歩を踏み出すハードルも随分下がると思います。

 

しかし、この点については、切羽詰まらないと良いアイデアがでない、という人がいるのも事実です。エネルギーを集中するには、自分自身を切羽詰まった状況に置くということが必要である。また、特に忙しい人達にとって直前にエネルギーを集中し、良いアイデアが出たという経験は、まさに達成感、さらには快感を感じるもので、そのようなことができる人にとっては習慣になりがちということもあると思います。

 

一方で、このアプローチの問題点は、このアプローチではアイデアは自分自身の既存の知識のみを基にせざるを得ず、さまざまな他の可能性を試すということができません。この問題点の存在は、あきらかです。したがって、切羽詰まらないと良いアイデアがでないという人も、思考法を十分な時間を確保し、「時間を掛けて」イノベーションを起こす方向に転換することは、多いに効果のあることと思います。

 

それでは、時間を掛けても良いと考えるようにするためにはどうするか?それは長期で目標を立てるということです。長期で目標を立てることにより、その達成までに十分な時間を確保することができます。また、十分な時間を確保することができるために、短期や中期では達成できないような高い目標を設定でき、それがまたそれがイノベーションを誘発するという、副次的な大きな効果も期待できます。

 

次回に続きます。

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
プラスチック材料の特性を考慮した強度設計(その1)

 プラスチック材料の特性を考慮した強度設計について、2回に分けて解説します。   1.プラスチック材料で精度の高い強度設計を行うには &n...

 プラスチック材料の特性を考慮した強度設計について、2回に分けて解説します。   1.プラスチック材料で精度の高い強度設計を行うには &n...


大学へのマーケティング 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その51)

        今回は新規事業のアイディアを出す上で、マーケティング対象となりえる大学へのアプローチについて...

        今回は新規事業のアイディアを出す上で、マーケティング対象となりえる大学へのアプローチについて...


メンバーの個性を生かす 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その21)

        最近、宇宙飛行士である金井宣茂氏のインタビュー記事を読みました。記事のタイトルには『現場では...

        最近、宇宙飛行士である金井宣茂氏のインタビュー記事を読みました。記事のタイトルには『現場では...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
精密鍛造金型メーカーが自社技術を起点に新商品開発に取り組んだ事例

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...

※イメージ画像 1. 自社技術起点に新商品開発  今回は、精密鍛造金型メーカーとして創業し、現在は研究開発から部品製造まで精密鍛造に関するトータル...


進捗管理の精度を上げる:第2回 プロジェクト管理の仕組み (その14)

 実際の進捗管理方法について、基本メトリクスセットの中の「作業成果物」から紹介します。作業成果物とは開発作業を進める中で出力されるもののことです。ハードウ...

 実際の進捗管理方法について、基本メトリクスセットの中の「作業成果物」から紹介します。作業成果物とは開発作業を進める中で出力されるもののことです。ハードウ...


‐産学交流からの開発テ-マと市場の観察‐  製品・技術開発力強化策の事例(その7)

 前回の事例その6に続いて解説します。産学交流による開発テ-マの探索や共同開発に関心が寄せられています。 大学には基礎研究の面で優れた開発テ-マの候補にな...

 前回の事例その6に続いて解説します。産学交流による開発テ-マの探索や共同開発に関心が寄せられています。 大学には基礎研究の面で優れた開発テ-マの候補にな...