普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その17)

更新日

投稿日

 前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の最後の3つ目の「常識を書き換える活動を組織の定常活動として組織に組み込む」の解説をしました。前回からの続きという位置づけで、今回もこのテーマを解説します。
 

1. なぜイノベーションにとって現場が重要か

 
 日本企業が大事にする言葉に、『現場』があります。私は『現場』は極めて大事だと思いますが、日本企業の『現場』重視には多少違和感がります。なぜなら、多くの場合、明示はされていませんが、「現場の重視」は「思考の軽視」とセットで語られるからです。「君は、頭で考えてばかりいて、現場を見たのか」という感じです。
 
 しかし、『現場』は思考のための材料を提供しているからこそ、重要なのです。その「思考のための材料」とは何か、それは、前回議論した『本質』を示してくれる材料です。現場がそのようになっているのには、必ず原因があります。
 
 世の中は、すべからく原因があってその結果があるという仕組みで動き、存在しています。その原因をたどっていけば、必ず『本質』に到達します。
 

2. 研究開発部門にとっての『現場』とは何か

 
 それでは研究開発部門にとっての『現場』と何でしょうか、もちろん研究開発の『現場』、すなわち研究室、実験室、試作室等は『現場』です。この『現場』は研究者の主要な活動の場ですので、『現場』重視と言わずとも、当然重視しています。
 
 しかし、もう一つ欠けている『現場』があります。それは『顧客』です。これまで何度か議論したように、民間企業で行う研究開発は最終的に大きな顧客価値を実現するものでなければなりません。なぜなら、顧客価値を実現し、それを提供するからこそ、『顧客』はその対価を払ってくれるからです。
 
 基本的に、それ以外に継続的に収益を挙げる方法はありません。顧客の『現場』は、「顧客は何に対し大きな価値を認識してくれるか」についての本質につながる材料に溢れています。
 

3. 顧客のニーズを聞いてもイノベーションにはつながらない

 
 顧客という『現場』を重視するという意味は、顧客のニーズに耳を傾けるということではありません。フォードモータを創業したヘンリー・フォードの有名な言葉に、「顧客に何が欲しいかと聞けば、彼らは足の速い馬が欲しいと答えるだろう」があります。
 
 つまり、顧客が自らのニーズを理解している範囲は極めて限定されています。いくら顧客にニーズを尋ねても、自明の答えしかかえってこないことは多いものです。この点は様々な調査から明らかになっています。
 
  イノベーションと組織活性化
 

4. 顧客の『現場』を理解するとは

 
 それではどうしたら良いでしょうか。顧客の『現場』を数多く訪ね、五感で顧客を認識することです。顧客の『現場』は、机上の想像・思考では絶対に思い至たらないような様々な事実の宝庫です。
 
 なぜなら、形式知化された知識は...
 前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の最後の3つ目の「常識を書き換える活動を組織の定常活動として組織に組み込む」の解説をしました。前回からの続きという位置づけで、今回もこのテーマを解説します。
 

1. なぜイノベーションにとって現場が重要か

 
 日本企業が大事にする言葉に、『現場』があります。私は『現場』は極めて大事だと思いますが、日本企業の『現場』重視には多少違和感がります。なぜなら、多くの場合、明示はされていませんが、「現場の重視」は「思考の軽視」とセットで語られるからです。「君は、頭で考えてばかりいて、現場を見たのか」という感じです。
 
 しかし、『現場』は思考のための材料を提供しているからこそ、重要なのです。その「思考のための材料」とは何か、それは、前回議論した『本質』を示してくれる材料です。現場がそのようになっているのには、必ず原因があります。
 
 世の中は、すべからく原因があってその結果があるという仕組みで動き、存在しています。その原因をたどっていけば、必ず『本質』に到達します。
 

2. 研究開発部門にとっての『現場』とは何か

 
 それでは研究開発部門にとっての『現場』と何でしょうか、もちろん研究開発の『現場』、すなわち研究室、実験室、試作室等は『現場』です。この『現場』は研究者の主要な活動の場ですので、『現場』重視と言わずとも、当然重視しています。
 
 しかし、もう一つ欠けている『現場』があります。それは『顧客』です。これまで何度か議論したように、民間企業で行う研究開発は最終的に大きな顧客価値を実現するものでなければなりません。なぜなら、顧客価値を実現し、それを提供するからこそ、『顧客』はその対価を払ってくれるからです。
 
 基本的に、それ以外に継続的に収益を挙げる方法はありません。顧客の『現場』は、「顧客は何に対し大きな価値を認識してくれるか」についての本質につながる材料に溢れています。
 

3. 顧客のニーズを聞いてもイノベーションにはつながらない

 
 顧客という『現場』を重視するという意味は、顧客のニーズに耳を傾けるということではありません。フォードモータを創業したヘンリー・フォードの有名な言葉に、「顧客に何が欲しいかと聞けば、彼らは足の速い馬が欲しいと答えるだろう」があります。
 
 つまり、顧客が自らのニーズを理解している範囲は極めて限定されています。いくら顧客にニーズを尋ねても、自明の答えしかかえってこないことは多いものです。この点は様々な調査から明らかになっています。
 
  イノベーションと組織活性化
 

4. 顧客の『現場』を理解するとは

 
 それではどうしたら良いでしょうか。顧客の『現場』を数多く訪ね、五感で顧客を認識することです。顧客の『現場』は、机上の想像・思考では絶対に思い至たらないような様々な事実の宝庫です。
 
 なぜなら、形式知化された知識は、まだ認識されていない膨大な知識のほんの一部に過ぎないからです。そして、認識した一つ一つの背景には、必ずその認識した事象の背景の真の理由、すなわち『本質』があります。
 
 数多くの顧客の『現場』を知ることで、そして、その理由を徹底して考えることで、数多くの本質や複数の顧客に共通的にみられる本質を想定することができます。そのように数多くの本質を見出すことにより、イノベーションを創出し易くするという効果があります。
 
  

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
販路拡大、新規顧客獲得に必要なアライアンス戦略ガイド

  【目次】 1. アライアンス戦略の活用 1.1 アライアンス戦略の重要性と製造業への影響 中小製造業が販路を拡大...

  【目次】 1. アライアンス戦略の活用 1.1 アライアンス戦略の重要性と製造業への影響 中小製造業が販路を拡大...


【快年童子の豆鉄砲】(その26)

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!   ◆自社の真のコア・コンピタンス把握...

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!   ◆自社の真のコア・コンピタンス把握...


デザインによる知的資産経営:企業理念の具体化(その3)

 具体性のある企業理念の策定(見直し)と、企業理念を具体的な規範に落とし込む手法について解説します。今回は、その3です。   3.企業理念の...

 具体性のある企業理念の策定(見直し)と、企業理念を具体的な規範に落とし込む手法について解説します。今回は、その3です。   3.企業理念の...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
イノベーション成功のカギ 自動車、半導体と液晶の事例

 筆者が海外・国内の長年に亘るものづくりの改善・革新を指導してきた経験から編み出した戦略的かつ実践的な方法を、IPI(Integrated Process...

 筆者が海外・国内の長年に亘るものづくりの改善・革新を指導してきた経験から編み出した戦略的かつ実践的な方法を、IPI(Integrated Process...


ものづくり企業のビジネスモデルとは

1. イノベーションとビジネスモデル  イノベーションを「価値の創造と具現化」と定義しますと、「価値の創造」は、言うまでもなく新たな 顧客価値を創り...

1. イノベーションとビジネスモデル  イノベーションを「価値の創造と具現化」と定義しますと、「価値の創造」は、言うまでもなく新たな 顧客価値を創り...


‐経営計画立案の手順 製品・技術開発力強化策の事例(その37)

この項、経営計画立案の手順、第1回からの続きです。    (8)部門が複数存在する場合    企業内に部門が複数あるときには、次のような手順を踏み...

この項、経営計画立案の手順、第1回からの続きです。    (8)部門が複数存在する場合    企業内に部門が複数あるときには、次のような手順を踏み...