私が好きなNHK BSの番組に「中井精也の絶景!てつたび」があります。この番組は、中井さんという写真家が日本中や時に海外を旅して、ローカル線の鉄道の写真を撮る番組です。この番組でいつも感心するのが、動いている鉄道車両を自然などを背景に撮影するのですが、いずれの写真もその構図や色彩の組み合わせがすばらしく感動的なのです。
現在、イノベーション実現に向けての「思考の頻度を高める方法」を解説していますが、そのための2つ目の要素「同じ一つの行動をするにしても思考の頻度を増やす」さらにはその中の3つの視点の内、前回は、味覚についてでした。今回は視覚を対象とします。
【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その154)へのリンク】
◆関連解説記事 行動を起こすことで得られるのは、情報や経験だけでなく、そのコンテキストや新たな感覚・感情や充実感
11.視覚は最も活用されている感覚
(1)なぜ写真家は数少ないシャッターチャンスを捉え、感動的な写真がとれるのか?
中井さんの話に戻ると、鉄道車両は常に動いていて、また刻々移り行く自然(雲の動きや日照)を背景としていて、またローカル線なので本数も限られているため、多くの場合撮影のために与えられた時間の中では撮影の瞬間は2度と決ません。しかし、その瞬間を切り取り、感動を生み出す鉄道写真を撮るのです。なぜ中井さんはそれができるのでしょうか?
中井さんは、どういう構図で撮るのかを含め、撮る写真をそれが実際の写真の画像として物理的に生まれる前に(鉄道車両が実際にその場に登場する前に)、頭の中で事前に明確に再現できているはずです。なぜ中井さんにはそれができるのでしょうか?
(2)3つの要因
これは私の想像ですが、中井さんは、人に感動を与えるまた自分が感動する鉄道写真がどういうものが感覚として持っている(写真理論は当然のこと)。その感覚を生み出すために、過去の観察から得た膨大な鉄道車両や周りの風景・環境のイメージを、頭(心?)の中に持っている。また、その膨大な鉄道車両や周りの風景・環境のイメージを材料に、事前に頭の中でバーチャルな映像を作り上げることができる。つまり、まだ現実に存在していないものを、事前に頭の中で映像の形で思考し再構成しているのです。
実は、これらは中井さんのような写真家でなくても、普通の人も日常生活の中で、多かれ少なかれ実際に行っていることです。しかし、創造的な人たちは、このような能力、すなわち頭の中で映像的に発想し、それをシミ...