現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。前回まで三度にわたり、KETICモデルの思考の中の「位置(関係)で整理する」を解説しました。今回はこれまでの解説を踏まえ、このような思考でどうイノベーションを実現するかを考えたいと思います。
アナロジー的な発想を含めて、空間的位置関係からイノベーティブな発想をする方法として、以下があると思います。事例を含めて解説をしていきます。
1.対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、その上で従来とは逆の思考をする
(1) 上下の例
「真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか」という、SASのCEOであるヤン・カールセンが著した本があります。彼はこの本の中で、逆ピラミッドの組織図を提唱しています。通常組織図は一番上の頂点にCEOが、現場の社員はピラミッドの底辺に、そして真ん中に中間管理職が置かれます。
しかし彼は、一番上には常に顧客と接する立場にある現場の社員が、そしてその下に管理職が、最後に一番下にそれを支える形でCEO置かれるべきであるという主張をしました。まさに従来の常識の上下を逆に考えたものです。
2.対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、自分のいる側とは別の側から見てみる
(1) 遠近の例
現在、私はある会社の社外取締役をしていますが、この会社は海外に数多くのグループ会社をもっています。この状況に前回解説した「遠近」を当てはめてみると「近」は日本の本社の社員、「遠」は海外のグループ会社の社員と考えることができます。
この会社の日本にいる社員は常に「近」の立場で「遠」を見ているわけですが「遠」から見た「近」は全く別の景色を見ている、もしくはそもそも「遠」の社員は「近」のことはほとんど認識・関心がないことも想定されます。
後者に関しては、私は面白い体験をしたことがあります。米国の国内線に乗った時に、隣の席の米国のビジネスマンとの会話となり、彼にその会社の本社はどこかと聞いたところ、彼は悪びれる風もなく、知らないと答えたことがありました。日本では自社の本社がどこにあるかぐらいのことは、全ての社員が知っていることですが、きちんとしたスーツを着たビジネスマンからそのような答えを聞いて、大変驚いた経験があります。
「遠」の立場で「近」を見るようにすると「近」の人たちには想像がつかなかったような、それこそイノベーティブな価値創出に結びつくような「近」の「遠」のマネジメント上の問題点やその解決策などが、浮かびあがる可能性があります。
3.対象に空間的位置関係を示す言葉を当てはめて、その空間的位置関係を構成する構造を変えることを考える
(1) 内外の例
「内外」も空間的位置関係を示す言葉です。通常「内」と「外」の間には「外」の影響を排除し「内」に安定的な環境を維持するための遮蔽物...