Gainは見えにくい 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その87)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 

 今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素である「自律性」と「有能感」の内、後者の実現手段として「 有能感獲得に向けて積極的に活動する」について解説します。

 前回に引き続き、あなたが「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げるかどうか」について判断を下す場面を想定してお話します。

 

(2)Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと可能性を想定する

 

【「現在主義の陥穽」に注意する】

 この点は「普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その85)GainとPainを網羅的にリスト化する」で解説した次の(1)~(5)に関係しています。

  • (1) GainとPainを網羅的にリスト化する
  • (2) Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと得られる可能性を想定する
  • (3) Painを幅広に想定し、そのインパクトと起こる可能性を評価する
  • (4) Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える
  • (5) GainとPainとを天秤にかけ最終的に取り組むかどうかについて意思決定する

 そのため、本来はここではなく「(1) GainとPainを網羅的にリスト化する」のところで最初に触れておいた方が良かったと思います。しかし重要なことですので、ここで解説をしたいと思います。

 「現在主義の陥穽(かんせい)」とは、現在の状況や今もっている過去からの経験を過度に前提として考えてしまうことをいいます。もちろん今後のこと、未来のことを考える場合、我々が持っているのは、過去から現在までの知識や経験だけです。したがって、当然「現在」の知識・経験に大きく依存して今後のことを想定するわけです。

 しかし今後は過去や現在の延長ではない可能性には、大きなものがあります。人類の生活は、何十憶年という長さをもつ地球の歴史に比べ、何十年という極めて短期間で劇的に変わってきています。我々の思考も同様です(もちろん不変の部分も沢山あるわけですが)。

 したがって「現在」から考えざるを得ないのですが、「現在」通りに将来は展開しない可能性もあることを、意識的に考え今後のことを考える必要があります。

 

【 GainはPainより見えにくい 】

 日々生活していると「楽しいこと、Gain」より「心配なこと、Pain」に注意が行きがちです。これは人間をサバイバルさせるためにできている昔からの脳の構造によるものと思います。したがってGainに関しては、頭に自然に浮かんでくるものだけでなく、頭に相当負荷をかけて一所懸命丁寧に考えなければなりません。

 Gainを数多く出すには、例えばGainを20個出すというような、目標を設定して集中して強制的に考えたり、ポジティブな性格の友人に、自分の意見を言ってみるなどといった考え方もあります。それにより、自分の考えが整理されるという効果と、その人からポジティブなフィードバックが得られるという2つの効果があります。

 

【 期待すると実現する 】

 Gainの姿を明確にすることで、そこへの期待が高まり、結果としてそのGainが実現する可能性が高まります。なぜかというと、これは心理学でもその効果が知られているように、その実現に常に関心を持ち、その期待実現に向けて積極的に行動するようになるからです。

 この効果には、私自身の実体験があります。

 10年ほど前、人生で大きな窮地に追い込まれたことが...

技術マネジメント

 

 今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素である「自律性」と「有能感」の内、後者の実現手段として「 有能感獲得に向けて積極的に活動する」について解説します。

 前回に引き続き、あなたが「新事業創出チームメンバー社内公募に手を挙げるかどうか」について判断を下す場面を想定してお話します。

 

(2)Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと可能性を想定する

 

【「現在主義の陥穽」に注意する】

 この点は「普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その85)GainとPainを網羅的にリスト化する」で解説した次の(1)~(5)に関係しています。

  • (1) GainとPainを網羅的にリスト化する
  • (2) Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと得られる可能性を想定する
  • (3) Painを幅広に想定し、そのインパクトと起こる可能性を評価する
  • (4) Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える
  • (5) GainとPainとを天秤にかけ最終的に取り組むかどうかについて意思決定する

 そのため、本来はここではなく「(1) GainとPainを網羅的にリスト化する」のところで最初に触れておいた方が良かったと思います。しかし重要なことですので、ここで解説をしたいと思います。

 「現在主義の陥穽(かんせい)」とは、現在の状況や今もっている過去からの経験を過度に前提として考えてしまうことをいいます。もちろん今後のこと、未来のことを考える場合、我々が持っているのは、過去から現在までの知識や経験だけです。したがって、当然「現在」の知識・経験に大きく依存して今後のことを想定するわけです。

 しかし今後は過去や現在の延長ではない可能性には、大きなものがあります。人類の生活は、何十憶年という長さをもつ地球の歴史に比べ、何十年という極めて短期間で劇的に変わってきています。我々の思考も同様です(もちろん不変の部分も沢山あるわけですが)。

 したがって「現在」から考えざるを得ないのですが、「現在」通りに将来は展開しない可能性もあることを、意識的に考え今後のことを考える必要があります。

 

【 GainはPainより見えにくい 】

 日々生活していると「楽しいこと、Gain」より「心配なこと、Pain」に注意が行きがちです。これは人間をサバイバルさせるためにできている昔からの脳の構造によるものと思います。したがってGainに関しては、頭に自然に浮かんでくるものだけでなく、頭に相当負荷をかけて一所懸命丁寧に考えなければなりません。

 Gainを数多く出すには、例えばGainを20個出すというような、目標を設定して集中して強制的に考えたり、ポジティブな性格の友人に、自分の意見を言ってみるなどといった考え方もあります。それにより、自分の考えが整理されるという効果と、その人からポジティブなフィードバックが得られるという2つの効果があります。

 

【 期待すると実現する 】

 Gainの姿を明確にすることで、そこへの期待が高まり、結果としてそのGainが実現する可能性が高まります。なぜかというと、これは心理学でもその効果が知られているように、その実現に常に関心を持ち、その期待実現に向けて積極的に行動するようになるからです。

 この効果には、私自身の実体験があります。

 10年ほど前、人生で大きな窮地に追い込まれたことがあります。その時にしたことが、自宅から歩いて30分ぐらいのところにある神社へのお参りです。その窮地から脱するため、かなりチャレンジングな複数の目標を設定しました。そして、その目標達成を神社で祈るというか誓うということを、2年間程続けました。驚くことに、いずれの目標も達成することができました。

 これは神様のお陰ではなく、このような行動で、自分自身をその達成に向けて強く動機付けすることができたからだと考えています。

 

【 注意点:「人間はGainが起こる確率を高く見積る傾向がある」】

 しかし一方で「人間はGainが起こる確率を高く見積る傾向がある」ということも、心理学の研究で分かっています。Gainの可能性を想定する場合にも、この点に注意する必要があります。

 次回に続きます。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その183) 妄想とイノベーション創出

・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコム...

・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコム...


技術文書の品質管理(その3)技術文書の品質管理に必要なこと

【目次】 今回は「技術文書の品質管理に必要なこと」について「内容が明確に伝わる技術文書の書き方」の考え方に基づき解説します。 &n...

【目次】 今回は「技術文書の品質管理に必要なこと」について「内容が明確に伝わる技術文書の書き方」の考え方に基づき解説します。 &n...


有能感獲得の活動 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その84)

 前回エドワード・デシの4段階理論における第3段階を実現する活動として、「(その1)有能感への貢献:目的達成が自分自身の成長につながることを理解する」...

 前回エドワード・デシの4段階理論における第3段階を実現する活動として、「(その1)有能感への貢献:目的達成が自分自身の成長につながることを理解する」...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
‐市場の観察から開発テ-マを得る‐  製品・技術開発力強化策の事例(その6)

 前回の事例その5に続いて解説します。新技術が社会に普及し始めると、それに関連した新商品を顧客の要求に即応して供給出来ないで、新技術搭載製品の供給不足が起...

 前回の事例その5に続いて解説します。新技術が社会に普及し始めると、それに関連した新商品を顧客の要求に即応して供給出来ないで、新技術搭載製品の供給不足が起...


研究開発部門にスパークを起こすとは

◆市場を継続的に長く、広く、深く知る  企業の研究開発部門は、「金ばかり使って、良い技術が全然出てこない」と非難されることが多いようです。企業にとっての...

◆市場を継続的に長く、広く、深く知る  企業の研究開発部門は、「金ばかり使って、良い技術が全然出てこない」と非難されることが多いようです。企業にとっての...


設計者の流出防止策は 中国企業の壁(その21)

        前回、中国企業の設計者には、設計者としての考え方、知識、経験、どれもが不足している。そのために設計に起因する不良が発生し大きな問題に...

        前回、中国企業の設計者には、設計者としての考え方、知識、経験、どれもが不足している。そのために設計に起因する不良が発生し大きな問題に...