モノづくりは感性を磨くこと
2015-11-16
小林弘美さんという方は、日本アマチュア女子ゴルフで、30回以上出場されています。新聞記者がインタビューで、現役で長続きできる秘訣を聞きました。その答えは、「感性を磨くこと」だそうです。例えば、テレビで見る他のスポーツからヒントを得たり、雑巾がけなどの日常雑務の一つひとつをゴルフに結び付けたりして、問題意識をもちながら思考しているそうです。また、普段から、意識を指先に集中させて、指先の感覚を鋭くしていることでパッティングの感覚を訓練していると言っていました。
広辞苑で、感性とは、①外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性、②感覚によって呼び起こされ、それに支配される体験内容などと定義されています。筆者は、「美しさ、生命の大切さ、悲しみ、人情など心的な価値を素早く感じとれること」を言うのだと理解しています。感性は、人間にとって、感動や生きることの源泉として、欠かせない特性なのです。いままで、それは曖昧で、工学に結びつけられていませんでした。感性をモノづくりに取り入れる感性工学が、多くの大学で教えられるようになってきました。これは、おもてなし文化をもつ日本の強みです。「○○のようなモノが欲しい」というお客様ニーズに、どう感動させられるかになります。図1 は、感性工学の「浴び心地」をテーマにしたTOTOのシャワーの事例です。デザインだけでなく、約35%節水するという機能も向上させています。
図1.浴び心地をテーマに開発されたシャワー
筆者が入社した企業では、2年間の自律性を重視したモノづくり実習がありました。内容は、機械系の基礎技術を中心に、ヤスリ掛け、熱処理、キサゲ加工(図1)、板金、精密測定、旋削、フライス、研削、仕上げ、NC加工など。教えられたのは、安全教育、機械の操作方法、加工の基本だけでした。自身で気づき、そこから何かをつかまなければならないように仕向けられました。知識やスキル習得が目的ではないのです。実務を経験して分かったことですが、技術者の感性そのものを鍛えていたのです。
これまでのハードウェア商品開発企業は、機能競争か価格競争で熾烈な下克上を戦っています。これに対して、デザイン重視で消費者に感動を与えようとしている企業も増えてきました。お客様に感動を与えられるモノづくりこそ時代の要請なのだと思います。筆者が10年前から教鞭をとる大学のものづくり講座では、マーケティング、QFD(品質機能展開)、TRIZ(発明的問題解決法)などのスキルだけでなく、製品開発を実践しながら、造形的デザイン性も含め、魅力的仕様を追求します。モノゴトに好奇心を持ち、どうしてそうなるのかを考え抜き、造形することで感性を体得します。 本当の感性は、ものごとに対し好奇心をもって接し、なぜだろ...
う、どうしてこうなるのかを解明する努力から磨かれるのだと思います。人間の5感を使って挑戦してみることが早道なのです。
この文書は、 2015年4月23日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。