なぜ物流は宝の山なのか 物流改善ネタ出し講座 (その1)
2016-03-07
「物流は宝の山だ」と言われて久しい。多くの工場管理者の方がこの言葉を口にするのだが一方で物流改善が格段に進んだかというとそれは疑問です。未だに「物流は宝の山」という言葉が飛び交っているということは宝の山の存在に気づいていないのか、気づいたとしてもその在りかがわからない、あるいはその山の掘り方がわからないのかのいずれかではないでしょうか。生産工程の改善はある程度「やり尽くした」という発言が出たとしてもそれはおかしくありません。しかし工場改善を「やり尽くした」という言葉は真を突いていないと考えられます。なぜなら、図1のように「物流改善」という大物がまだ手つかずの状態で存在しているからです。今回の講座では一緒に宝の山を探し、その中に眠る宝を掘り当てる方法について考えていきたいと思います。
図1.手つかずの宝の山
製造会社のコア業務、つまり根幹となる重要業務は「生産」です。工場はいかに定められた品質の製品を納期とコストを守ってタイムリーに生産するかが求められています。これを達成することでお客様に満足いただき会社の収益向上に貢献していくことになります。だからこそ生産に関わるSQDC目標をきちんと定め、ルールを確立し、その実現のための人材育成も行っていくのです。では「物流」はどうでしょうか。不思議なことに多くの会社ではあまり注目されていません。工場の中では「ものを運搬する」役割という認識が強く、それは付加価値を生まないムダ作業であり、そこに資源を投入して物流を強化しようという考えには及ばないのが一般的でしょう。この考え方において物流はノンコア業務ということになります。ノンコア業務であればアウトソースし、限られた資源をコア業務である生産に集中したいという思惑が働くのも無理のないことでしょう。
こういった発想の延長線上に物流業務の外部への丸投げがあります。工場管理者の方たちは物流に関する経験も知識も少ない可能性が高いようです。そこでノンコア業務としての物流は外部の専門家に任せよう、そうすれば多分改善されるに違いない、と考えるのではないでしょうか。しかし自分たちで上手く出来ていない業務を外部に任せれば改善されるという発想は必ずしも正しいとはいえません。工場内外の物流業務をどのようにして欲しいのか、物流品質水準目標をどのレベルに置くのか、コストレベルはどう考えるのかなどしっかりとした戦略抜きにアウトソースしても期待外れの結果が待っているだけです。さらに外部に丸投げした途端に物流の知識や経験を積むことを忘れてしまいます。数年後には物流のことが本当に分からなくなってしまい、アウトソース先に不満があっても内製物流に戻すことすらできなくなってしまう恐れがあります。アウトソースはやり方次第で工場マネジメントに大いに貢献する手法なので、「正しいアウトソース」を心がけて頂きたいと思います。
物流をノンコア業務ととらえるか、コア業務ととらえるかは物流の機能のさせ方で変わってくると思われます。構内物流には三つの役割がありますが、図2のように、この三つの役割を実行させることで構内物流の位置付けをコア業務という位置づけに進化させることが可能です。それが第一の役割である「生産工程の作業性をとことん向上させるためにさまざまなサービスを実行すること」です。ものを容器から出して必要数だけ使う順番に並べて供給する作業はサービス業としての物流商品の典型です。また第二の役割である必要タイミングで供給・回収を行うことで「生産のペースメーカーとなり、生産統制に寄与できる物流」の存在も重要であると考えられます。第三の役割は「レイアウトや運び方を工夫して物流そのものを効率化すること」であり、さまざまな工程改善や作業改善を通して物流効率化を行っていくことになります。
図2.構内物流の三つの役割
この三つの役割の内、第一の役割と第二の役割では物流に負荷をかけることにより、生産ラインの品質向上と生産性向上という果実を刈取ろうという発想です。つまり物流を減らすことだけが物流改善ではないということに気づいていただきたいのです。物流でコストをかけても他で設けることができ、工場全体で収益向上につながればそれで良しとする考え方です。
上記の例のよ...
うに、宝の山の中には物流でコストをかけても工場全体で儲かるというアイテムが眠っていることもあります。したがって物流自体を効率化して儲けるネタと物流を使って他で儲けるネタの両方を掘り当てていければと考えています。皆さんには柔軟な発想で物流改善に取り組んで行っていただければ幸いです。それでは早速「宝の山」に向けて出発しましょう。
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。