コスト・ベンチマーキングを用いたコストダウンの進め方

コスト・ベンチマーキングを用いたコストダウンの進め方を解説します。
 

1.ベンチマーキングとは

 ベンチマーキングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。ベンチマーキングでは、マネジメントや業務プロセス、情報システムなどについて、自社のやり方とその業界や他の業界も含めて、もっとも優れた実行方法とを比較して、分析することによって、そのギャップ(差)を明らかにします。
 
 そして、明らかになったギャップを埋めるための改善をすることによって、会社の効率の向上を図ることを狙いとしています。この比較の対象には、自社の中の他部門や事業所間、業界の中の競合他社、そして業界を越えたトップレベルの会社などが考えられます。
 
                               
 
 このベンチマーキング技法について製品コストの面から検討していくことが、コスト・ベンチマーキングです。そして、コスト・ベンチマーキングでも、所属する業界あるいは他の業界も含めて、もっとも優れた実行方法となる比較すべき基準(コスト基準)をどのように設定するかが成功のカギとなります。このコスト基準設定にあたってのポイントについて整理しておきます。
 

(1)理論的・科学的であること 

 製品のコストを算出するにあたっては、その構成要素(原価要素)と算出方法が重要になってきます。原価の構成要素には、材料単価、材料使用量、単位時間当たりの加工費、所要時間などがあります。製品売価を算出するための計算式を図1に示します。会社に残る付加価値の部分が加工費です。加工費は、所要時間と単位時間あたりの加工費(加工費率)からなります。
 
                        
図1.製品コストの求め方
 
 そして、所要時間のベースになるものが、標準時間です。標準時間は、作業の環境や条件、手順など前提条件によって変化しますので、実行可能で最適な条件を設定することが必要です。さらにこの標準時間は、時間測定や動作研究などによって求めた時間であり、これだけの時間があれば作業が遂行できるという「あるべき姿」です。このように理論的・科学的に裏付けを持つことが必要です。
 

(2)技術面の基準は現行に妥協しない

 技術面とは、モノ作りに関する技術(固有技術)のことで、作業で使う設備機械の能力や性能、治工具、作業方法などのことです。この基準設定では、自社内、取引先や協力会社、設備機械メーカー、国内のトップレベル、世界のトップレベルなどが考えられます。そして、技術面の基準の設定では、現状の自社の技術力を受け入れるのではなく、実現可能な理想状態を前提に設定して行くほうがよいでしょう。
 

(3)管理面の基準はその企業の能力を前提に期待する姿を

 管理面は、管理技術のレベルを指しており、製品を作るための作業や設備機械での作業者の能率や設備機械の稼働率などの高さが対象になります。この基準設定でも、自社の管理能力を認めるのではなく、その業界の一般的な水準を参考に、より高い能力を基準に設定することです。
トヨタに代表されるアンドンは、設備機械の稼働率を高めるための手段として理解されていると思います。そして、管理面では、アンドンを用いていかに稼働率を高く維持できるかという能力になります。
 

(4)労務費の基本は、高能率高賃金とする

 単位時間当たりの加工費(加工費率)に占める労務費の割合は大きいものです。そして、労務費は、企業にとって大きな投資であり、企業ごとに、個人の技能レベル、年齢などの属性などが違い、賃金レベルを変化させるものです。この賃金レベルについて、現在の自社を基準に考えると企業によっての違いが出てくることになってしまいます。このため、自社レベルを中心に考えるのではなく、客観的な基準の設定することです。その考え方は、同一労働同一賃金であるとともに高能率高賃金であることです。
 

(5)基準は、固定化するものでなく、年々、改定をする

 また、基準は、一度決めたら、固定的にするものではなく、新設備の出現や性能向上など技術の進歩、管理水準の改善に伴い、改定するものということです。コスト・ベンチマーキングを進めるにあたって、もっとも優れた実行方法となる比較すべき基準として上記を考慮することです。
 
 そして、コスト基準から求められるコスト(これを標準コストといいます。)を用いてベンチマーキングを実践することになります。つまり、標準コストを現状コストの比較を行い、差額の大きい要因からその原因を追究していくことになります。これを差額解析といいます。差額解析における比較で発生する差額要因を掲げます。
 

(1)材料費の差額

・材料単価の違い 
 調達方法によって、材料の仕入れ先や材料の購入量、支払条件などによって、当然、材料単価は、異
   なってきます。
 
・材料使用量の違い 
 標準材料使用量に対して、正味材料使用量の計算方法の違い、材料の取り方や部品の組合せで、材料余
   裕率や歩留り率が違うことなどです。
 

(2)加工費の差額

・加工費率の違い 
 設備費の面では、使用する設備機械、1年間の総稼動時間、設備機械について定めた経済耐用年数の違
   いなどです。労務費の面では、直接の作業者の熟練度、年齢構...
成、自動化のレベル、地域や年令などに
   よる職務別賃金、直間比率の違いなどです。
 
・段取り時間の違い 
 外段取り時間、内段取り時間の管理基準や計算基準の違いなどです。
 
・加工時間の違い 
 使用する設備機械、使用金型・治工具の種類や大きさなど、ワークエリアや作業姿勢などの作業方法
   設備機械の加工速度や使用刃物などの作業条件、持ち台数、取り数などの管理基準や計算基準の違いで
   す。
 

(3)その他の差額

 購買部門の場合には、発注方法、納入方法、仕入先の利用目的、材料支給方法に起因するものがあります。このような差額要因をより具体的に把握して、対策を立案し、実行することです。これによって、コスト全体との整合性を持って、利益の最大化を図ることができるのです。
 
 コスト・ベンチマーキングを進めるにあたっては、分ければわかるという考え方が大切です。たとえば、標準値と現状値の材料費を比較し、材料単価と材料使用量に分けた、材料使用量に大きな差異がみられたとします。つぎに材料使用量を検討するときに、どのような材料を用いるのか(定尺材、定尺材ならどのサイズか、)材料の取り方は、材料余裕量はいくら見るのかといったように分けて考えていくのです。その結果、差異が明らかになってきます。
 

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