部分意匠など意匠特有の制度 意匠法講座 (その4)
2016-03-29
前回の第3回に続いて解説します。部分意匠制度は、独創的で特徴ある物品の部分の形態を登録して保護することにより、特徴ある形態を取り入れつつも全体としては非類似となる意匠の実施を排除できるようにして、意匠保護の強化を図るものです。
部分意匠の成立要件の主なものは以下のとおりです。
①物品と認められるものであること
部分意匠の意匠に係る物品が、意匠法の対象とする物品と認められなければなりません。例えば、コーヒーカップの把手の部分を対象とした部分意匠において、把手の部分」は意匠法上の物品ではありません。意匠に係る物品は「コーヒーカップ」となります。
②物品自体の形態であること
例えば、インターネットと接続することによって携帯情報端末(スマホ)の表示部に表示される画像は、物品自体の形態ではないので対象となりません。なお、画像を表示するためのプログラムがスマホに組み込まれた場合、携帯情報端末という物品の形態として把握可能なので、意匠法による保護対象となります。これも、一般に部分意匠として登録されています。
③一定の範囲を占めるものであること
一定の面積がなければならないということです。面積を持たない「稜線の形状」は登録の対象になりません。
図1に部分意匠の登録例を掲げます。実線部分が登録の対象です。
図1.「椅子」意匠登録第1545047号
意匠では、一つの意匠ごとに出願し、登録されることになっています。そして、一つの意匠とは、原則として一つの物品で成立します。たとえば「コップ」の意匠、「机」の意匠ということです。しかし、洋食器のセットや応接セットのように、複数の物品を統一感のあるデザインにする場合があり、そのようなデザインを保護するために「組物(くみもの)の意匠」という制度があります。組物として扱われる物品は特定されています。
図2に示す「洗面化粧台セット」は、「物」の数では下にある「化粧台」と上にある「鏡と収納だな」の二つになります。原則から見れば二つの物品の二つの意匠です。しかし、統一的にデザインされていることを重視して、一つの意匠として扱われます。
図2.「洗面化粧台セット」意匠登録第1441061号
スマホの表示部に表れる操作画像が画像をタップすることで変化する場合のように、意匠が特定された態様で変化する場合であって、変化の前後の態様に形態的な関連性が認められる場合は、1意匠として扱われます。「動的意匠」といわれることが多いようです。
図3はカーナビの画面です。左から右に画像が変化しますが、一つの意匠として登録されています。
図3.「カーナビ画面』 意匠登録第1353360号
意匠登録出願人は、先に出願した意匠(「本意匠」といいます。)に類似する意匠を関連意匠として出願し、登録を受けることができます(第10条)。関連意匠を登録することにより、類似する範囲を明確にしたり、保護範囲を拡大することができます。知財戦略において重要な検討事項です。ただし、本意匠の登録公報が発行される日の前までに出願しなければなりません。また、関連意匠にのみ類似する意匠は意匠登録を受けることができません(第10条2項)。
関連意匠の登録により、引き出しの配列が異なっても「本意匠の類似の範囲」であることが明確になっています。
意匠は、登録後3年間、その意匠を秘密にしておくことができます。これを秘密意匠といいます。特許であれば、出願後1年半で出願公開されて公表されるのと対称的です。コンセプトデザインなど実施(商品化)までに時間がかかるデザインを秘匿することが可能となっています。秘密期間を経過した後に、意匠を掲載した公報が発行されます。