開発現場における本当の危機(その1)

更新日

投稿日

1. 労災に見るメンタルヘルス

 
 毎年、厚生労働省が出している労災補償状況のレポートがあり、この中で精神障害関連の労災補償状況についてまとめているセクションがあります。これを見ると、製造業における職場環境の改善が急務であることがわかります。
 
 精神障害関連の労災補償状況報告では、労災補償の請求件数、決定件数、支給決定件数という3つの数字が報告されています。決定件数というのは、業務上なのか業務外なのかの決定を行った件数で、支給決定件数はその中でも業務上として認定された件数です。今回はこの2つの数字ではなく、メンタルヘルスの問題を抱えていると申請した請求件数に注目することにします。請求件数は申請者の意志が最も反映されている数字であり、実際の職場状況に近いと思われるからです。
 
 まず注目すべきは請求件数の推移です。平成17年度から最新データの平成21年度まで増加傾向にあり、職場でのメンタル問題は年々悪化していることがわかります。職場におけるメンタルヘルスの重要性が高まり、それなりの対応は進んでいるように感じますが、問題はより大きくなっているのが現状です。必要な人に必要な対策が届いていないということだと考えられます。
 
  メンタルヘルス
 

2. 製造業におけるメンタルヘルス問題

 
 次に、請求件数について業種別の構成比について見てみると、その他を除くと製造業が最も高い割合を占めていることがわかります。実は、平成20年度も同じで製造業は全体の 18%を占めています。製造業と近い情報通信業も含めると全体の約 1/4 になります。
 
 ここまで見ただけでも、メンタルヘルス問題の認識は高まっているものの問題は年々悪化していること、そして、最も多くのメンタルヘルス問題を生じているのが日本を支えている製造業であること、これは見過ごすことができない問題です。
 
 日本のものづくりが危ない、ものづくりを見直そう、ものづくりへの原点回帰など、製造業に対するかけ声は高まるばかりですが、そこで働く技術者などの個人への配慮は置き去りにされているのではないでしょうか。少なくとも、組織としての改善や改革は進んでいても、技術者を含めた製造業で働く人々に対する業務環境や職場環境の改善は進んでいないということでしょう。
 
 製品開発を支えている技術者たちは、内外の様々な仕組みや変化に対応することが期待されています。技術者の基本的な資質である、技術が好き、ものづくりが好き、というだけでは、今の技術者は...

1. 労災に見るメンタルヘルス

 
 毎年、厚生労働省が出している労災補償状況のレポートがあり、この中で精神障害関連の労災補償状況についてまとめているセクションがあります。これを見ると、製造業における職場環境の改善が急務であることがわかります。
 
 精神障害関連の労災補償状況報告では、労災補償の請求件数、決定件数、支給決定件数という3つの数字が報告されています。決定件数というのは、業務上なのか業務外なのかの決定を行った件数で、支給決定件数はその中でも業務上として認定された件数です。今回はこの2つの数字ではなく、メンタルヘルスの問題を抱えていると申請した請求件数に注目することにします。請求件数は申請者の意志が最も反映されている数字であり、実際の職場状況に近いと思われるからです。
 
 まず注目すべきは請求件数の推移です。平成17年度から最新データの平成21年度まで増加傾向にあり、職場でのメンタル問題は年々悪化していることがわかります。職場におけるメンタルヘルスの重要性が高まり、それなりの対応は進んでいるように感じますが、問題はより大きくなっているのが現状です。必要な人に必要な対策が届いていないということだと考えられます。
 
  メンタルヘルス
 

2. 製造業におけるメンタルヘルス問題

 
 次に、請求件数について業種別の構成比について見てみると、その他を除くと製造業が最も高い割合を占めていることがわかります。実は、平成20年度も同じで製造業は全体の 18%を占めています。製造業と近い情報通信業も含めると全体の約 1/4 になります。
 
 ここまで見ただけでも、メンタルヘルス問題の認識は高まっているものの問題は年々悪化していること、そして、最も多くのメンタルヘルス問題を生じているのが日本を支えている製造業であること、これは見過ごすことができない問題です。
 
 日本のものづくりが危ない、ものづくりを見直そう、ものづくりへの原点回帰など、製造業に対するかけ声は高まるばかりですが、そこで働く技術者などの個人への配慮は置き去りにされているのではないでしょうか。少なくとも、組織としての改善や改革は進んでいても、技術者を含めた製造業で働く人々に対する業務環境や職場環境の改善は進んでいないということでしょう。
 
 製品開発を支えている技術者たちは、内外の様々な仕組みや変化に対応することが期待されています。技術者の基本的な資質である、技術が好き、ものづくりが好き、というだけでは、今の技術者は勤まらないのです。しかし、技術者がこのような環境に適合できるように、職場レベル、あるいは、プロジェクトレベルで効果的な支援をしているわけでもなく、従来の OJTレベルか、集合教育レベルのものしかないのが現状です。技術者個人の能力や力量に頼っているということであり、これでは問題の解決になっていないのは先に見たとおりです。
 
 次回もこのテーマで解説を続けます。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!


「人的資源マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
技術士第二次試験対策:業務内容詳細で書く事とは(その3)

  前々回は「具体的な文を書く」、前回は「能動態の文を書く」でした。今回は「短い文を書く」です。 【特集】技術士第二次試験対策:技術士第...

  前々回は「具体的な文を書く」、前回は「能動態の文を書く」でした。今回は「短い文を書く」です。 【特集】技術士第二次試験対策:技術士第...


技術企業の高収益化: いい経営者になろうと決意しているか

   「もしもし」と大きな声を出しつつ、スマホを耳に当てて会議室を出ていったのは、A社長でした。場所は昼下がりのA社会議室、検討課題は開発...

   「もしもし」と大きな声を出しつつ、スマホを耳に当てて会議室を出ていったのは、A社長でした。場所は昼下がりのA社会議室、検討課題は開発...


技術企業の高収益化: 技術プラットフォームとは

◆ 儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす  「うちは、技術プラットフォームの意識が希薄で情けないですよ」数年前のこと、こう話されたのは、とあ...

◆ 儲かる会社は技術プラットフォームを使いこなす  「うちは、技術プラットフォームの意識が希薄で情けないですよ」数年前のこと、こう話されたのは、とあ...


「人的資源マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その12)

    『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネ...

    『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネ...


人的資源マネジメント:縦の関係、横の関係(その2)

 前回のその1に続いて解説します。前出の図85 の内容そのままでメンバーをアサインするだけかと予想していたのですが、予想はうれしい方向に外れ、それぞれのプ...

 前回のその1に続いて解説します。前出の図85 の内容そのままでメンバーをアサインするだけかと予想していたのですが、予想はうれしい方向に外れ、それぞれのプ...


英英辞典活用のススメ

 業種や企業規模を問わず、今や海外企業とのビジネスの機会はぐっと増えました。海外顧客、サプライヤー、海外生産など立場は違えど異文化コミュニケーションは必須...

 業種や企業規模を問わず、今や海外企業とのビジネスの機会はぐっと増えました。海外顧客、サプライヤー、海外生産など立場は違えど異文化コミュニケーションは必須...