チャンバー内のメンテナンスに、マグネット活用の可能性
2018-07-30
成膜装置のチャンバー内は、着膜により汚染が進み、異常放電や発塵の原因となります。そのため定期的に着膜をリセットする必要がありますが、密着性のより成膜技術で積層された膜は容易には剥離されません。
生産性の高いライン程、メンテナンスが大変な負担となっています。そこで検討したい、マグネットを活用した生産性改善を考えてみます。
成膜装置のチャンバー内は、ワークだけに膜がつくわけではなく、チャンバー内全体に付着します。この膜は、メンテナンス時に水分を吸着して真空度を悪化させたり、発塵源となったりします。またプラズマ状態を変える可能性もあります。そのため、定期的に膜を除去する必要があります。
通常は「防着板」と呼ばれるSUSなどでできた板をチャンバー(とくに成膜室)の内壁に設置して、チャンバー内壁に直接膜がつかないようにしています。防着板は定期的なメンテナンスで、スペア品と交換され、使用済みの防着板は薬液洗浄などで膜を除去して再生されます。
防着板の取り換え作業は、大型装置になると大変な重作業となり、時間もかかります。4m級の大型成膜装置は立型装置となることが多いのですが、チャンバー内作業が高所作業となり、防着板の取り換え作業のために足場を組みます。
板の取り付けは従来、ボルトで固定され、取り換えにはスパナを使用します。熱や着膜による応力を受ける防着板は脱落や変形が起こると装置の搬送トラブルとなりますので、しっかり固定される必要があります。しかし、ボルトの着脱作業は大変時間がかかります。またボルト締め付け作業でネジ部で少なからず発塵しますし、カジリなどが生じることも少なくありません。
そこで、防着板の取り付け方法の改良が検討されます。六角ボルトから蝶ナットへの変更や、クランプ機構を使った固定方法が発案されています。メンテナンス性は、品質や生産速度などの目に見えやすい課題と比較すると、改善が進まないケースもありますので、ぜひ積極的に検討をしたいところです。
防着板は、熱による変形、着膜による応力変形が発生しますので、チャンバーへのしっかりとした装着が必要です。安易に構造変更すると、脱落などのリスクがありますので、注意して進める必要があります。
便利で発塵性の少ない方法として検討したい技術が、2018年の日本ものづくりワールドで出展されていました。冶具やアタッチメントをワンタッチで交換できるマグネット保持ツールです。
このツールは名前の通り、磁力によって固定をします。レバーを回すと、マグネットの位置が変わり、固定とリリースが容易に切り替わります。この種のツールはプラントや機械加工装置で、重量物を含めた加工ワークや金型などのハンドリングに使用されています。この機構は成膜装置の...
防着板に応用すれば、メンテナンス作業の時間を大幅に短縮することが期待できます。
真空成膜装置へ応用するには、真空環境への対応、入熱への耐久性を持った材質選定、プラズマによる劣化の影響を受けない設計などが必要となります。大型の成膜装置への適用は、現状の防着板の更新や改造が必要になるため、新規設備導入時に検討をすることが近道となるでしょう。
成膜装置において、メンテナンス作業は品質確保上必要な作業であるものの、作業時間は稼働ロスとして扱われるために、作業を高速化するための工夫が欠かせません。扱いづらい所はどんどん改良していくことが必要で、それによって作業者の負荷軽減と安全の確保につながってきます。