社員に目標管理制度を徹底したところ、極端な状況では、社員が自分のことしか考えなくなり、結果だけを求めプロセスを気にかけなくなるなど、職場での制度の運用に問題がある状況をよく聞きます。今回は、目標管理制度を理想とする方向に向けるためにどうすべきかを解説します。
1. 目標管理制度の現実
(1) 社員同士のコミュニケーション
目標管理制度を導入している企業は多いと感じます。しかし自分の取り組みテーマで困っていることがあっても周囲に相談すると、その考えやアイデア等が使われてしまったり、他に公開されてしまう恐れがあり、なかなか本音で相談できない。特にこの経験のある人は、相談することなく自分自身で解決しようとする傾向があるようです。
これではベクトルが合わず、個人プレーになってしまう訳ですから、他者の考えも合わせた完成度の高いテーマ解決に至らないのです。また解決に至る進捗が遅くなるので、頑張った割には評価され難いようです。つまり総合力が発揮できず、スピードも遅い。テーマ解決に時間がかかりすぎると、テーマや成果の価値が下がることもありえます。
(2) 成果が見えにくいテーマ
私がこれまで推進してきたクリーン化のように地味に、地道にコツコツやる仕事は、成果が見えにくいのです。従って企業によっては評価されない場合もあります。そのため、クリーン化など地味な活動からは、早く抜け出したいという本音も聞かれます。
それよりも、立場によっては、加工条件の変更で、歩留まりが数%上昇することが見込めるなど、数字やデータで成果を示せる場合、上司にも説得しやすく、そう言うテーマになびきやすいのです。途中のプロセスは省略するので、成果が早く得られるのですが、表面的な活動になりやすいことになります。
優秀な人なら、プロセスを省いても成果が得られますが、あくまでも個人プレーです。これを周囲のメンバーが見て真似をしても、経験の少ないメンバーの場合、成功の確率も低く、思い付きで結果を出そうとして、逆に遠回りすることにもなります。アプローチを大切にすべき指導が必要です。また事務系や間接作業などの評価はどうするかも課題です。
(3) 上司の部下評価、育成の能力の不足
- 上司も、昨日種を蒔いたのだから、今日は芽が出て、明日は花が咲き、その翌日には収穫ができるだろうと言わんばかりに成果を要求する人もいるようです。これも成果主義の弊害であり、アプローチを省略したり、成果が出しやすいテーマ選定に偏る原因にもなります。
- 折角良く頑張ったり、成果を出しても、評価されないことがあります。上司の目標管理への理解不足や、部下の質問に答えられず、その分威圧的に抑える場合などもあるようです。こうなると、上司と部下の関係が崩れ、また部下のやる気を削いでしまい、簡単には元に戻りません。また、個人のテーマのバランス(難易度)の確認が必要です。簡単なテーマを与えられた場合、成果を出しやすいのですが、逆に難しいテーマの場合は時間がかかり、相談も必要になります。そういう面をどう解決するかです。
(4) 正しく評価されない
目標管理制度では、成果、実績、業績が評価され、それが賃金、給与等に反映されると思います。この場合、その予算もあると思います。良く頑張って、本来なら評価されるべき人であっても、もっと頑張った人がいると言われ、評価されないケースが出て来る。これもやる気を削ぐ結果になります。
また、他職場とのレベル合わせも必要になります。あの程度で高い評価をされたとか、頻繁に評価される人と、他職場では、それよりも頑張っていると思われる人が評価されないアンバランスの発生です。
このようなことから、仲間意識が薄れ、助け合う雰囲気も薄れるかもしれません。これでは、ベクトルを合わせ、総合力を発揮するということにはなりません。
(5) 評価、フォローの不足
定期的なフォロー、確認面接などがされていない場合もあるようです。スタート時の面接に加え、途中での進捗や障害、困りごとなどフォローしているか。最初と最後だけでは、成果が出ない場合もありますが、そのプロセスの評価もされないので、本人にとっても会社にとってもマイナスになります。
2. 目標管理制度の見直し
(1) 目標管理制度のメリット、デメリットの研究と対策
目標管理制度の仕組み、内容がメリット、デメリットを含めどのくらい検討されているでしょうか。ある企業では、人事部門が起案し、十分時間をかけ(例えば半年とか)検討、その後その制度を使う側でも検討してもらい、完成度を高めています。さらに試行期間を設け、使って見て出て来た不具合を是正してさらに完成度を高めます。これに途中で発生した不具合事例加え、改善しスパイラルアップ、継続していくという事例があります。
(2) 目標管理制度の管理監督者の教育(理解度、評価、フォローアドバイスの仕方など)
目標管理制度は会社の業績向上が主たる目的のようにも感じますが、加えて、目標を達成する過程、プロセスを大切にし、上司も部下を育成する機会だと考えます。そのための管理監督者教育も重要です。目標管理の用紙(目標管理シート)は、フォローする側の落ちも無いよう十分にそして多面的に検討されているでしょうか。成果が見えにくい業務はどうフォローするのか。それをどう評価するのか。管理監督者の教育(理解度、評価、フォローアドバイスの仕方など)が、重要です。
(3) 目標管理シートの活用
この用紙には、...
目標設定時や中間フォロー時の記録ができるようにしておきます。目標設定時や中間フォロー時ごとに面接し、上司の指導内容も記録しておくのです。本人の他、現場でも保管、加えて人事部門にも提出しチェックをできるようにしておくことです。こうすると、定期的なフォロー、テーマ解決のプロセス確認ができます。これは部下育成のチャンスでもあるのです。人事部門にも提出、保管することで、過去の実績や指導内容も確認できるので、説得力があり公正な昇格、昇進にも繋がります。上司の対応の記録も残るので、上司の評価にも活用できます。
3. 評価の事例
事例ですが、アジアのある工場では、オペレータに対し、グループと個人両面の評価をやっているところがありました。良く頑張ったグループは評価される。しかしその中で、協力しない(足を引っ張る)メンバーがいたとすれば、そのメンバーは評価が悪くなる。逆に、グループの成果は悪くても、中に頑張ったメンバーがいれば、そのメンバーは個人として評価(救済)するということでした。海外の工場では使えるかもしれません。
4. 多くの人が納得できる目標管理制度へ
今一度、目標管理制度の目的とあるべき姿の確認、メリット、デメリットの洗い出しをして、進め方の見直しをしましょう。人間は機械ではないので、心に沁みる、多くの人が納得できる人事制度を探って頂きたいと思います。