私が足繁く通っていた、中国の工場の女性クリーン化担当の話です。その工場は上海から車で2時間ほどのところにあり、約1万人の社員を抱えていました。その女性は若いのですが、各職場のクリーン化担当を束ね、指導育成しながらも、通常は、管理・監督者やその他のスタッフの教育、クリーン化関係のルール化、標準化、教育テキストの作成・改訂、クリーン資材の評価などを担当し、日常的に沢山の問題、課題に対応しながらも、絶えず現場のあるべき姿を追い求めていました。
私が現場診断、指導に出掛けると、彼女が通訳と共に立ち合います。彼女の悩みを聞くと、「中国はゴミを捨てる文化。親からもゴミはその場に捨てなさいと教わります。従って従業員にゴミを拾いなさいと言う躾は非常に難しいです。」と言います。一般のメンバーも、「ゴミを片付けてしまうと掃除する人の仕事が無くなってしまい、かわいそうだ。だからゴミを捨ててやっている」と言っていました。こんな風土ですから苦労するわけです。
彼女は、クリーン化について熱心に勉強していました。また、女性の通訳もクリーン化教育の講師が出来るほど勉強していました。その通訳に、どうしてそんなに一生懸命勉強するのかと聞いたところ、先生の指導時の話を現場の人に正しく伝える義務がある。単に日本語の勉強をした、通訳が出来るだけではその役目は果たせないと言うんです。診断・指導時回りに集まる各職場のクリーン化担当も良くメモを取り、また人を押しのけても指摘個所をきちんと確認しようとしていました。質問も良く出ました。
日本では、最近こういう光景はあまり見ることが出来ません。遠くで腕組みしていたり、指摘個所を真剣に観察する人は少ないと感じます。
私が日本で仕事をしている時、この中国の女性クリーン化担当からこんな質問が来たことがありました。「しばらく運転を止めていたクリーンルームを稼働することになった。稼働するまでの手順はどうすればいいか?」と言うものです。日本人の質問は大体ここまでで終わってしまいます。ところが、彼女は続けて、「私はこういう理由から、こういう項目をこういう順序でやるべきだと考えています。ついては、私がやろうとしていることに手落ちがないか、確認・アドバイスを欲しい。」と言うのです。内容は完璧でした。
このメールを見て、本当に感心しました。彼女と話してみると、生産が縮小されれば、クリーンルームを無駄に稼働させたくないので停止させる。しかし生産が急に拡大する場合、特に日本の意思決定が遅れても、如何に生産拡大に迅速に対応できるかを考え、手順だけでなく効率的な立ち上げも常に考えているとのこと。若いクリーン化担当ではあるが、経営的な見方もしていたのです。
危機感を感じる東南アジアの成長
私は、中国の幾つかの工場やシンガポール、インドネシア、タイなどの工場を指導して歩きましたが、総じて一生懸命話を聞き吸収しようと言う姿勢の素晴らしさを感じます。彼らにしてみると、日本からわざわざ指導に来る。その日本人から直接話が聞けるので、最高の勉強の場であるわけです。その真剣さはひと昔、あるいはふた昔前の日本の姿です。今、こういう姿を日本で見ることは難しいのです。
そこに東南アジアの国々の成長を感じることが出来ます。色々な指導で東南アジアに出向いている方の中にも、現地の5Sや改善などの普及、定着状況を見て、そのレベルがかなり高いと感じておられる方も多いと思います。実際にその場に出向いた方でないとその凄さは実感できないでしょう。こういう場面に遭遇すると、日本は追い越されていると、脅威を感じることがあります。
海外の診断・指導で工場に入る時、いつも通訳が付きます。ところが先方では、現地の言葉だけでなく、英語、日本語もきちんと話せる人が多いのに気が付きます。自分は先生と呼ばれ指導していても、日本語しか話せない。ふと日本人よりも、現地の人の方...
私は指導に出掛ける時、国内よりもむしろ海外の方が緊張します。インドネシアでもセミナー実施時、かなりレベルの高い質問が沢山出て、回答に苦慮したことがありました。こんなことまで掘り下げて考えているんだと。真剣勝負と言うことですが、日本ではこんなに白熱したやり取りは経験がありません。
上から目線の割に、現実はかなり追い越されていると危機感を感じることが度々ありますが、その話を持ち帰っても、日本では中々信じてもらえません。ここに危機感のなさを感じます。
経営者、管理者の皆さん、もう一度現場を見直し、真に体質の強い現場を作りませんか。景気が上向きの今がチャンスです。今からしっかりした利益体質の基盤作りをしておけば、景気が減速した時に差が出ると感じています。