‐操作性改善‐ ‐修理情報活用‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その1)

1.機械の操作性の改善

 自社の機械を購入してくれた顧客を訪問し、操作性について苦情を聞くことを中心に営業活動をしている機械メ-カがあります。多品種少量の生産が主体になってきた時代を反映して、段取り替え時間が長くなる苦情が多くなってきている事への対応です。
 
 顧客の使用状態を観察し、段取り替えが短時間で出来るような機械を開発し、需要家から歓迎されている事例です。機械メ-カ-の設計者は性能を重視した機械を開発することに考えが傾き易いが、実際の現場では、段取り替えが大変で、その作業に60分も費やし、実際の稼働時間は20分程度、この作業時間帯で見る限り、稼働率は{20/(60+20)}=25%になる。これでは性能の良い機械が却ってあだになっています。実際にこのように低い稼働状況におかれている機械で採算が取れる訳がありません。そのような損失を抱えている中小企業は非常に多いです。
 
 性能の良い機械になるほど、段取り替え時間を長く費やす傾向があるので、この点に着目して顧客の生産実態に適した機械を開発している事例があります。また、S社ではチップマウンタ-(プリント基盤の実装機)で目的に適う機械が国産品で見つからなかったが、輸入品でそれを見つけだし、ヨ-ロッパから輸入して段取り替え時間の大幅な短縮が図られ、生産性の向上を果たしました。性能が少々低下しても、その代わりに、機械の段取り替え時間が大幅に短縮できる機械を必要としている需要家は少なくないのです。性能が低下すると機械の価格が安くなるのが一般的な傾向であり、多品種少量の受注が多い企業に適しています。
 

2.機械の修理から問題点を吸収

 顧客の指示した修理仕様に基づき、機械の修理を受託し、様々な故障の修理の過程でその機械の問題点を知り、これを手掛かりにして製品開発に取り組み、性能の良い機械を開発して機械メ-カ-に成長した事例は珍しい事ではありません。
 
 N社は環境関連の分析機器の修理を大手の企業から依頼され、修理を一手に引き受けていました。この分析機器は大手メ-カ-の製品ですが、修理は全面的にN社に外注していました。分析機器の修理を行っている過程で、電子回路の改善を行えば、精度が大幅に上がり、かつ、分析スピ-ドも早くなる可能性があることを突き止め、早速開発に着手しました。開発が完了し、特許申請に際して発注元に相談したところ、「その製品の生産を全面的に任せたい。販売は当社が引き受けるが、N社での販売も構わない」このような結果が得られたのは、N社に対する信頼が高かったこと、その分析機器の市場が大きくなかったこと、等がN社に幸いしました。
 
 その後N社では携帯型、据え置き自動分析型等に機種の展開を図って、事業の柱になる製品に育て上げています。機械の修理から事業を起こし大企業になった例や中堅企業に成長した例はかなりあります。修理の業務は機械の問題点を見つけるのに最適の立場にある。最近、機械のレトロフィット設計を事業にする企業が出現しているのは、時代の流れを反映して良い着眼点です。N社の経営理念の中に「ノウハウを蓄積し、社会に貢献」と謳われていて、経営理念を実践している行動様式が魅力的です。
 
 説得力のあ...
る経営理念を掲げ、経営者が経営理念に背かない行動を取り企業内をリ-ドすることで、幹部社員の開発行動も経営理念に沿うようになります。その結果、 集中的に問題に取組む行動様式が育ち、 観察力が鋭くなり効果的に研究開発を進め得る経営体質が培われます。
 

3.事例の要点

 顧客に正面から尋ねて有用な情報が得られることは少ないです。また、得られた情報を表面的に捉える事なく、掘り下げ、真の問題点を捉えるため、一次、二次情報と段階的にまとめ上げて行くノウハウを蓄積する事が重要です。段階を経てまとめ上げられ、開発テ-マが決定すると秘密にしなければならない事項が出てくるが、一次情報の段階では社内に広く伝達するようにして、顧客志向の視野の広い従業員が育つように務めることが肝要です。
 

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