社員の力量を野球選手で考える

【目次】

◆ ウチの社員はプロかアマチュアか
  1、どのレベルが「プロ」か
  2、「プロ」レベルの人が具体的にやっていることは
  3、どうやったら「プロ」レベルの社員をつくれるのか
  4、ソフトや機械が高度に進化した現在、目指すべき職人の姿とは

◆ ウチの社員はプロかアマチュアか

 今回は、以前クライアント先で受けたある質問を元に、自社の設計者や加工者など、他社の社員と比べてどれだけの水準なのかについてみていきたいと思います。

 以前受けた質問とは「ウチの社員の力量は野球でいうと、プロ選手なのか、はたまた草野球のレベルなのか、どのあたりなのでしょうか」というものでした。この質問をされるお気持ちについては、とてもよく分かります。実際に多くの会社で、社長職や部長職などをやらない限り、複数の会社間での社員の力量を推し量るということは現実的には難しいと思います。しかも同じ業界ばかりでとなるとほとんど無理だと思います。そうなると、この業界の現場で行っている設計や組み立て、機械加工の実務がわかる経営コンサルタントに質問するしかないというわけで、今回の質問をされた心境についてはとても理解できます。

1、どのレベルが「プロ」か

 私は30年近くこの業界の仕事を現場の実務レベルで見てきましたので、結論からいいますと「プロ野球」レベルの人というのは、ほんの一握りしかいないと思っています。そもそも高校野球のレベルでも、例えば私のような野球の素人から見れば、しっかりとプレーが成立しており、緻密で複雑なルールも頭に入っている高校生の皆さんの野球レベルは相当高いと思っています。

 これならば、工作機械やCAD/CAMの操作が一通り頭に入っており、手にもなじみ、要求された品質と納期でモノづくりができると思いますので、業界以外の人から見ても相当レベルの高いモノづくりができているように見えるのではないでしょうか。

 一方、プロ野球選手となると「野球の上手い人の中でも、さらに飛び抜けて上手い人」という位置づけになると思いますので、この定義でこの業界に当てはめてみますと「設計ができる人のなかでも、飛び抜けて設計が上手い人」「加工ができる人の中でも、飛び抜けて加工が上手い人」となります。

 「飛び抜けて」まではオーバーだとしても、実際に取扱説明書通りに加工や設計ができる人はゴマンといるわけで、その中でもさらに上手に仕事をされる人が、今回の例えでいう「プロ野球」レベルになると思っています。

2、「プロ」レベルの人が具体的にやっていることは

 そもそも私は「納期通りにモノを作る」のは社会人として当たり前のことだと思っています。もちろん、昨今の極めて厳しい短納期要求や、ひと昔前に比べると一桁上がった厳しい寸法公差など、そもそも「納期通りにモノを作る」自体、現在は容易なことではないことも分かっています。

 ですから、あの厳しい練習を経て試合に臨む、レベルの高い高校生の皆さんの野球レベルでのお仕事は充分成立していると思っています。ですが「プロ野球」レベルとなりますと、社会人としては当たり前の「納期通りにモノを作れる」を上回る技術者ということになりますので、さらに上のレベルで「正確に、かつ短いリードタイムで、高品質なモノを作るための取り組みをしている」という人たちになります。

 この業界ですと色々な人がいます。例えば、

 この中には、今現在では高度に進化した工作機械やCAD/CAMの機能により不要になったものも多くあります。それでいえば、私自身も20代のとき、EXCEL VBAを使って、金型を部品単位に分解せず、組図の状態のCADデータから各プレートや部品の穴あけNCデータを作るお手製CAMを作ったことがあります。

 ただし今現在では、それに代わる便利なソフトがたくさん市販されていますから、今同じ状況にあったら自作しようとは思わないと思います。しかし、今必要か必要でないかが論点ではなく、無いなら自分で作ってでも、必要な機能や効率化を図ろうというバイタリティーがあるかないかが、今回のテーマです。

3、どうやったら「プロ」レベルの社員をつくれるのか

 一体どうやったら「プロ野球」レベルの社員をつくれるのか、これは冒頭でお話ししたクライアント先の企業でも受けた質問です。これは先天的な素養の要素が大きいと考えています。つまり、そういった人材を「育成する」というよりは「元々そういった素養を持っているか」の要素が大きいということです。

 それはさておき「指示を受けたから」ではなく、趣味に近い感覚で、APIやVBA、マクロ、工作機械のパラメーターなどを駆使して、オリジナルの仕組みやプログラムシステム、加工方法や条件などを作り出せるかということになります。

 これについて、自ら進んでやるような方たちは、指示を受けた仕事としてやると、とたんにモチベーションが下がってしまうことがあります。そこで改善など自由に使って良い時間があった場合、こうしたオリジナルのツールを、プログラム言語や機械パラメーターなど、一般の作業者が持っていないスキルを駆使して、何か作り上げる。こうした取り組みをしている人を「プロ野球」レベルの作業者だと私は考えています。

 ですから「どのように育成するか」という質問においては、

 こうした取り組みを会社の仕組みとして促していくことが、良いのではないかと思います。

 ただし前述したように、後天的に育成するというよりも、先天的にそういったことが好きかどうかの要素がかなり大きいため「できる人・出来ない人」は発生すると思います。「出来ない人」は、スキルの問題もありますが「オリジナルのものがなくても仕事はできる・モノは充分作れる」という言い訳をする人が多いこともあります。

 しかしこれは今要る要らないといった目先のことではなく、他社のエンジニアと比べてより競争力を自社に持たせていくための投資という要素と、長期に考え、取説の枠を超えた技術にチャレンジして...

いけるエンジニアを一人でも多く自社に根付かせていくためという意義を持っています。

 これまで私が多くの金型メーカーや部品加工メーカーを見てきた中では、こうした「プロ野球」レベルの技術者が一人でもいるという会社と、一人もいないという会社は完全に分かれます。

4、ソフトや機械が高度に進化した現在、目指すべき職人の姿とは

 御社はいかがでしょうか。たしかに、今のCAD/CAMや工作機械には、人のスキルをサポートする機能が本当に増えてきて、人間の泥臭い技術・技能を使わなくても、ある程度、品質の高いモノづくりができるようになりました。

 しかしそこに頼り過ぎると、行きつくところは、月給30万、40万の職人ではなく、時給でお仕事をされるパート社員さんにより、できるだけ人件費を抑えたモノづくりをした方が良いという考えが加速していきます。

 事実そういった加工現場も増えてきました。もちろん新規採用が難しくなったという背景もあります。かつては「給料がいいから製造業で働く」という考え方もあったと思います。ところが「機械の性能が上がったから、人のスキルには頼らなくなった」というのであれば、技術者一人ひとりの差別化をする要素はなくなってしまいます。

 ではどこでその差別化の要素を見せるのでしょうか。私は今回挙げた「プロ野球」レベルと定義したようなことだと思います。もちろん誰もができることではありません。でも、職場に一人や二人はいてもいいのではないでしょうか。こういった人が職場のロールモデル(お手本)になると思います。参考になれば幸いです。

 最後に、今回のお話しは、実際のプロ野球や高校野球のレベルを評価したり、報酬の有無などに触れるものではありません。例えの表現として使わせていただいただけです。

◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

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