【目次】
1、加工現場のエースになるための心得とは
(1) 今ここにいる全員がいなくなっても、ものづくりができる準備をしている
2、「心技体」(プラス結果)
1、加工現場のエースになるための心得とは
金型メーカーや部品加工メーカーの加工現場には、いわゆる「エース」と呼ばれる生産性の高い作業者が、1人や2人いたりします。
加工現場の人員は、このエースと呼ばれる人と、普通もしくはそれよりも生産性が劣る一般的な社員から成り立っていますが、できれば管理職の人や経営者さんとしては、できるだけ多くのエース社員を増やしたいと思っていると思います。では一体どこからエース社員と一般社員の能力差がついてくるのでしょうか。
もちろん高い生産性を発揮するためには、それなりの知識と技能を兼ね備えなければいけませんが、そもそもそういった知識や技能を持とうとするモチベーションはどこから湧いてくるのか、今回はその心根の部分に触れていきたいと思います。ではここからエース社員さんが持っている、もしくは持つべき考え方、心得について順にみていきたいと思います。
(1) 今ここにいる全員がいなくなっても、ものづくりができる準備をしている
まずこれは私自身の経験に基づくものです。例えば加工現場では、ワイヤーカットやマシニングセンター、研削加工機、CAD/CAMなど様々な仕事がありますが、いつまでもその他大勢の中の1人で大丈夫だと考えている人と、もし仮にこの現場のいる人たちが急にいなくなり、最悪1人になってしまっても、何とかものづくりが継続できるように、知識と技能を備えておこうと考えている人とでは、仕事へのモチベーションに大きな差が開いてきます。
前者はいわゆるコバンザメのようなタイプで、何かと無理難題に当たっても、人に頼りがちな傾向があります。こういったタイプはもちろんエースになる日はなかなか訪れません。一方、後者のような「いざとなったら自分がやる」というタイプは、そのいざという時のために、積極的に必要となる知識・技能を得ようとしています。
その結果、高い生産性でものづくりができる人になりやすい傾向があると思います。「あの仕事はやってくれる人がいるから自分はいいや」。こういった考えでは、加工現場のエースは目指せません。まずは一つ目として「いつでも自分ができるように備えておく」という心構えができているかどうか、これは大きなポイントだと思います。
(2) 次は違う方法でやってみる
これは量産部品の加工というよりは、単品や小ロットの部品加工で必要になる考え方です。一度やった加工で、工程や使用した工具などについて、次に再度加工する時には方法を変えてみるということです。何のためか、それはやはりコスト削減・リードタイム短縮のためです。これも当たり前といえば、当たり前のことなのですが、意外に多くの人がこの考えでものづくりができていません。
私がまだ現役の加工者だった時のことです。部下に単品部品の加工を手ほどきして、それが無事に終わり、数日経って再度リピート受注し、再製作することになった時のことです。
「前と同じ方法でいいっすよね?」部下は私にこう尋ね、当たり前のように前回やった方法で加工しようとしていました。もちろん量産加工では、品質管理の面から一度取り決めた加工方法は、勝手に現場で変更して良いというものではありません。
しかし単品部品加工の現場では、ほとんどが加工者にその方法は一任されています。また加工順序や使用する工具も、一度行った方法は一例に過ぎず、選択肢は沢山あります。
- 荒取り加工面は仕上げ後の表面には表れません。変形・歪みの起きない範囲で、もっと効率化できないか?
- 仕上げ面はきれい過ぎないか?図面指示からすればもっと送りピッチ・送り条件を上げられないか?
- 段取り回数はもっと減らせないか?一回の掴(つか)みでもっと加工部位を増やせないか?
エースと呼ばれるような人は、毎回このようなことを考えていたりします。もちろん難易度の高い加工品では、速さ・効率性よりも、確実性・精度・正確さで「今よりもっと」を考えています。「前と同じでいいっすよね?」この考えでは、加工現場のエースは目指せません。ぜひ「いつもいろんな選択肢を考えている」エースを目指しましょう。
(3) 見積もりができて初めて一人前
これも昔からこの業界でいわれていることです。図面通りのものが何とかできるようになった、でも時間はどれだけかかるか分からない。これでは一人前とはいえません。
しかもエースと呼ばれるくらいの作業者になると、一般的な社員さんよりも早くものづくりができるという存在なので「自分ならこのくらいの工数、でも他の人ならその1.5割増しくらいかな」これがいえるくらいになればエース級だといえます。
まずは、目の前にある図面の加工にどのくらいの工数がかかるか「材料取りで何分、前加工で何時間、平面研磨仕上げで何分、仕上げ加工で何時間、最後の手仕上げで何分」といった具合いに、自分や仲間の行う作業工数が読めることが前提です。
「やってみないと、どれだけかかるか分かりません!」もちろん、社内で初めてやるような難しい案件ではこういったこともあるかと思いますが、普段やっているような案件でこのままの姿勢では、いつまでたってもエースにはなれません。まずは、自分の仕事の見積もりができるようになりましょう。
(4) すべて習得するまでに期限をつける
これはエース級の皆さん全てがやっているというわけではありませんが、特にこれを意識している人のパフォーマンスが極めて高かったため、項目の一つとして入れました。最近はほとんどこの業界でいなくなりましたが、独立開業することが目的であったり、ある程度技術を習得した上で取り組みたいプロジェクトがある、あるいは若くして高い給与をもらえるようになりたいなど、何らかの強い目的のため、社内の全工程の仕事を、例えば5年とか10年など次のステップに繋げるため、全て習得するまでの期限を決めている人がいます。
これを実現してきた人を見ていると、極めて仕事のパフォーマンスが高い人が多いと感じます。
ジョブローテーションへの積極性や、一つひとつの技術に対しての理由付け・根拠への探求心も極めて高いのです。仮に独立開業などリスキーな目標を持たなくても、習得に期限を付けることは良い効果をもたらすと思います。「今の仕事、いつまでやるんだろ??まぁいっか」。こういった意識では、いつまでたっても加工現場のエースにはなれません。
自分勝手に次々と色々な工程の仕事を渡り歩くことはできませんが、その準備のため、上司と自分のキャリアを共有しておく、そういった処世術もなければ、これもまたエース級の社員とはいえないと思います。エースを目指すためには、目の前の仕事にただ流されるのではなく、自分の将来のキャリアを見据えたうえで、今の仕事にどう取り組むか考えていきたいものです。
(5) 時には趣味として新しいことに取り組む
これは働き方改革や労働基準法の観点からいうと、本来望ましいことではないのですが、エース級に仕事ができる人は、仕事とプライベートの切り分けを過度に切り分けていないことがあるというお話しです。
私自身もそうだったんですが、何か目新しいことに取り組もうと思った時に、会社からそのための時間をもらえなかったりします。ではそこで「仕事上のことだから、プライベートではやらない」と言って諦めますか?エース級と呼ばれる人たちは、そこに過度なこだわりを見せないことが多いのです。
例えば、会社で許可が下りようが下りまいが、見にいきたい展示会があればプライベートの時間とお金を使って見に行くし、EXCELやACCESSのマクロを使った仕組みを作りたいと思えば、会社で時間をとれなくても、趣味と同じ感覚でプライベートの時間を使って勉強し、プログラムします。もちろんこれは会社から強要すると法律違反です。あくまでも強要されることなく、エース級と呼ばれる人たちは「仕事だから許可されないとやらない」ではなく、自主的にやっている人もいるというお話しです。
(6) 余力を持っている(伝家の宝刀がある)
これはいつも...
余裕はないので、ミスや見落としなどが起こるリスクは高くなります。エース級と呼ばれる人たちは、いっぱいいっぱいにならない程度に少し余裕を持って仕事しても、一般の人より早く仕事をこなすことができます。
一方、本当に切羽詰まった時は、余力の部分を発揮して一気に仕事を間に合わせることもできます。逆にいつもいっぱいいっぱいで仕事をしている人、またそれでも他の人より仕事が遅いという人が、エースになる日は遠そうです。そういう方は一度、自分の仕事のやり方を見直してみるべきでしょう。
(7) 他者を助ける余力がある
これはエースの能力そのものとは別の話かもしれませんが、前述したように余力を持っているということは、ピンチになってる同僚や部下を助ける余力があるということです。部下や同僚から尊敬されているエース社員は、ピンチに陥っている人のところへ行って相談に乗ってあげたり、オーバーフローしそうな分の図面を引き取って、助けています。それができるのも、自分の仕事が計算どおり早く回せてないといけません。
また人格的にも本当にエース社員と呼ばれる人は、損得なしに他者を助けてあげる気前の良さと、それができるスキルの高さを兼ね備えていなければ、誰もそう呼ばないでしょう。「自分の仕事は終わったんで先に帰ります」。いつもこのセリフを言っている人は、いつまでたってもエース社員とは呼ばれないでしょう。他者を助けられるだけの余力を持ち、それでも一般社員よりも確実で仕事が早い。こういう人がエース社員だといえます。
2、「心技体」(プラス結果)
以上、ここまでエース社員が持つべき7つの心構えをみてきました。とはいいましても、もちろん心構えだけでなく、知識とスキルと結果(実績)を持ち合わせていなければ、誰もそう認めないでしょう。つまり月並みな言い方ですが「心技体」(プラス結果)を兼ね備えなければ、ということです。