人的資源マネジメント:技術者育成のパフォーマンス(その6)

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 前回のその5に続いて解説します。
 

3. 個人と組織とのエンゲージメント

 
 組織の価値観と個人の価値観の重なりである共有ゾーンを増やすにはどうしたらいいでしょうか。ここで質問です。
 
 「仕事をする上で大切なこと、大事にしているものは何ですか?」
 
 いかがですか、すぐに答えることができましたか。答えるまでにしばらく時間がかかりましたか。それとも、答えることができませんでしたか。
 
 実は、この質問に答えることができる人はそんなにはいないのです。エンゲージメント・コンサルティングでは、一人ひとりにこの質問をするのですが、多くの人は「う~ん」と考え込んでしまいます。開発すべき製品のこと、解決すべき技術課題のこと、気になっている人間関係などはすぐに答えることができますが、自分が大切にしていることをはあまり考えることはないでしょうし、自分の価値観を言葉にすることに至ってはほとんどないでしょう。
 
 だからこそ、共通ゾーンを見つけ、増やすために最初に取り組むべきことは、自分の価値観を明確に意識することなのです。先ほどの質問に答えることができるようになる必要があります。
 
 自分のことなのに自分の価値観を知ることは簡単ではなく、エンゲージメント・コンサルティングでは1対1のセッションで引き出しているのですが、次の質問に答えることからはじめるといいでしょう。
 
      •  「これまでで満足感、達成感が高かった仕事は何ですか?」
      •  「仕事でうれしいとき、楽しいときはどんなときですか?」
      •  「これから先、どんな仕事をどんな風にやりたいですか?」
      •  「どんな人たちとどんな環境で仕事したいですか?」
      •  「それは何がいいのですか? どんなところがいいのですか?」
 
 こんな質問をきっかけにして、何が好きなのか、何が大切なのかを深掘りしていきます。質問に答えるとき、何となくうれしい気分になっているはずです。そのうれしい気分の素(もと)を追求する感じです。
 
 メンバーを持つ立場なのであれば、メンバー一人ひとりに対して前述のような質問しながら、その人固有の価値観を引き出す必要があります。繰り返しますが、大切なのは上の立場から組織の価値観を伝える(押しつける)のではなく、メンバーの価値観を引き出すことです。
 
 このときに注意しなければならないのが、価値観は人それぞれということです。自分の価値観をモノサシにしてはいけません。その人のことを尊重することが大切です。
 
 たとえば、1対1のセッションをした中に「定時に会社を出てスッキリした気分になりたんです」という人がいました。私のモノサシを持ち出してしまうと、「いやいや、仕事を片付けることでスッキリしようよ」となってしまうのですが、そうすると、さらに深掘りしてその人の価値観を引き出すことは難しくなります。
 
 ちなみに、この人の場合は「スッキリ」することを大切にしているのであって、定時に帰ることが大切なわけではないのです。でも、本人も何が大切なのかよくわかってなく、定時に帰ることができないことがストレスの原因にもなっていました。セッションでは、「スッキリ」することが大切なのがわかったので、定時に帰ることができなくてもスッキリする方法を工夫することで、共有ゾーンを考えました。
 
 人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 
 マネジャーやリーダーの立場であれば、自分の組織やグループ、チームのビジョン、価値観は明確になっていると思いますので、メンバー個人の価値観を明らかにできれば、次にやることはいよいよ「共有ゾーン」を見つけることです。
 
 個人の価値観は人それぞれですから、共有ゾーンもメンバーにより違います。ですから、一人ひとり個別に共有ゾーンを探す必要があります。このときのコミュニケーションは先ほどのやりとりとは違い、次のようになるはずです。
 
・君は◯◯を大事にしているよね。今後どうなりたいと思っている?
・ところで、うちのグループは何を大事にして、何を目指していると思う?
・それでは、どちらも満足させるためには何ができるだろう?
 
 マネジャーやリーダーであれば、このような質問によって共有ゾーンを見つけることになりますし、メンバーの立場であれば、次のようなマネジャーやリーダーに提案するようなスタイルで共有ゾーンを見つけることになります。
 
・このグループは◯◯を大事にしながら、◯◯を目指していると考えています。
・私は◯◯を大切にしていて、◯◯をやりたいと思ってます。
・私が◯◯をすることでグループの◯◯も満足できると考えます。
 
 大切な...
 前回のその5に続いて解説します。
 

3. 個人と組織とのエンゲージメント

 
 組織の価値観と個人の価値観の重なりである共有ゾーンを増やすにはどうしたらいいでしょうか。ここで質問です。
 
 「仕事をする上で大切なこと、大事にしているものは何ですか?」
 
 いかがですか、すぐに答えることができましたか。答えるまでにしばらく時間がかかりましたか。それとも、答えることができませんでしたか。
 
 実は、この質問に答えることができる人はそんなにはいないのです。エンゲージメント・コンサルティングでは、一人ひとりにこの質問をするのですが、多くの人は「う~ん」と考え込んでしまいます。開発すべき製品のこと、解決すべき技術課題のこと、気になっている人間関係などはすぐに答えることができますが、自分が大切にしていることをはあまり考えることはないでしょうし、自分の価値観を言葉にすることに至ってはほとんどないでしょう。
 
 だからこそ、共通ゾーンを見つけ、増やすために最初に取り組むべきことは、自分の価値観を明確に意識することなのです。先ほどの質問に答えることができるようになる必要があります。
 
 自分のことなのに自分の価値観を知ることは簡単ではなく、エンゲージメント・コンサルティングでは1対1のセッションで引き出しているのですが、次の質問に答えることからはじめるといいでしょう。
 
      •  「これまでで満足感、達成感が高かった仕事は何ですか?」
      •  「仕事でうれしいとき、楽しいときはどんなときですか?」
      •  「これから先、どんな仕事をどんな風にやりたいですか?」
      •  「どんな人たちとどんな環境で仕事したいですか?」
      •  「それは何がいいのですか? どんなところがいいのですか?」
 
 こんな質問をきっかけにして、何が好きなのか、何が大切なのかを深掘りしていきます。質問に答えるとき、何となくうれしい気分になっているはずです。そのうれしい気分の素(もと)を追求する感じです。
 
 メンバーを持つ立場なのであれば、メンバー一人ひとりに対して前述のような質問しながら、その人固有の価値観を引き出す必要があります。繰り返しますが、大切なのは上の立場から組織の価値観を伝える(押しつける)のではなく、メンバーの価値観を引き出すことです。
 
 このときに注意しなければならないのが、価値観は人それぞれということです。自分の価値観をモノサシにしてはいけません。その人のことを尊重することが大切です。
 
 たとえば、1対1のセッションをした中に「定時に会社を出てスッキリした気分になりたんです」という人がいました。私のモノサシを持ち出してしまうと、「いやいや、仕事を片付けることでスッキリしようよ」となってしまうのですが、そうすると、さらに深掘りしてその人の価値観を引き出すことは難しくなります。
 
 ちなみに、この人の場合は「スッキリ」することを大切にしているのであって、定時に帰ることが大切なわけではないのです。でも、本人も何が大切なのかよくわかってなく、定時に帰ることができないことがストレスの原因にもなっていました。セッションでは、「スッキリ」することが大切なのがわかったので、定時に帰ることができなくてもスッキリする方法を工夫することで、共有ゾーンを考えました。
 
 人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 
 マネジャーやリーダーの立場であれば、自分の組織やグループ、チームのビジョン、価値観は明確になっていると思いますので、メンバー個人の価値観を明らかにできれば、次にやることはいよいよ「共有ゾーン」を見つけることです。
 
 個人の価値観は人それぞれですから、共有ゾーンもメンバーにより違います。ですから、一人ひとり個別に共有ゾーンを探す必要があります。このときのコミュニケーションは先ほどのやりとりとは違い、次のようになるはずです。
 
・君は◯◯を大事にしているよね。今後どうなりたいと思っている?
・ところで、うちのグループは何を大事にして、何を目指していると思う?
・それでは、どちらも満足させるためには何ができるだろう?
 
 マネジャーやリーダーであれば、このような質問によって共有ゾーンを見つけることになりますし、メンバーの立場であれば、次のようなマネジャーやリーダーに提案するようなスタイルで共有ゾーンを見つけることになります。
 
・このグループは◯◯を大事にしながら、◯◯を目指していると考えています。
・私は◯◯を大切にしていて、◯◯をやりたいと思ってます。
・私が◯◯をすることでグループの◯◯も満足できると考えます。
 
 大切なのは、一人ひとりと向き合い、お互いを尊重しながら、お互いの価値観を明確にして、一緒に共通の価値観を見つけることが基本であり、その基本を押さえておけば、きっとよいコミュニケーションができ、その結果、エンゲージメントが高まるはずです。
 
 製品やサービスの開発現場にはいろいろなグループやチームが存在しますが、それぞれで今回解説したようなエンゲージメントの取り組みができるようにすること、それが「人づくり」指向の開発プロセス構築のカギのひとつです。
 
 エンゲージメントには、エンゲージメント・リングという使われ方があるように、婚約という意味があります。組織と個人とがお互いが好き合って婚約するくらいになると、組織で良い仕事をすることができるのだと思います。
 
  

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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