改善のできる雰囲気は上司が作る 人材育成・組織・マネジメント(その13)

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人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説してきましたが最終回となります。

◆ 部下がイキイキと仕事をしていますか

1. 部下は上司の顔を見て、仕事に取り掛かかる

 職場において部下は仕事が始まるまでに、真っ先に上司の顔色を窺(うかが)っているのをご存じでしょうか。上司の顔色を窺って上司の考えていることをすぐに感じ取っています。人間は他の動物と違い、鋭い牙(きば)や爪(つめ)、強い腕力や脚力を持ち合わせていない分、悪いことや危険を察知する能力が発達したといわれています。部下は今日の仕事に着手する前に、上司の様子を見て仕事の段取りや心の準備を始めます。前日に不良や故障が発生した場合、その報告や相談を始業前にどうしようかと一生懸命に考えています。

 ところが上司であるあなたが、出勤前に夫婦ケンカなどで不機嫌な顔をしていたらどうでしょうか。部下はすぐに察知して、嫌な気分になって報告しようか迷うものと思います。不良や故障の嫌な報告ほどし難いものですが、部下が言い出しやすい雰囲気を上司のあなたは作っていますか。あなたが新入社員の頃を思い出してみてください。同じような感じだったことと思います。

 

 部下が報告しようかと迷っている時に、マーフィーの法則[1]はタイミング良く適用されます。報告しようと思ったら思いがけず他人から情報が伝わってしまい、上司は「なんですぐに報告しなかったのか」と急に鬼のような顔になって怒鳴り散らします。これではお互いに気分が良くありません。仕事も当然やる気がなくなり、生産性は落ち、疲れは溜(た)まり、悪魔のサイクルが回り始めます。そのような雰囲気を作っていたのは上司自身だと、当の本人はなかなか理解できないのです。

 上司はその職場の雰囲気を醸(かも)し出す源であり、まさに職場の鑑(かがみ)そのものです。部下からの嫌な報告や相談も、いつでも受け入れる体勢と心構えをしておくべきです。そのためにも上司はいつも笑顔でいたいものです。それができないならせめて上司から毎日率先して部下に声を掛け、嫌なことや悪いことをすぐにオープンに話ができるようにしたいものです。それだけでと雰囲気が変わるものです。

 

2. 部下の才能・能力・情熱を発揮させる環境づくり

 始業前のラジオ体操や清掃時間にも、部下の顔色や態度は十分読み取れるはずです。その時に調子の良くないそぶりをしている部下には、そっと声を掛けて何があったかを、部下から話し出せるように仕向けていきます。そのような察知能力を発揮したいものです。

 松下幸之助氏は、どんなに忙しくても相談する人が来れば、相手の正面に向かって話をすべて聞き、なおかつ知っていた話であっても「君の話は面白いなあ」、「勉強になったわ」などと聞き取る姿勢でいたそうです。なかなかできないことですが、それを知ってから著者も態度を改め取り組みました。やがて悪い情報もどんどん来るようになって、すぐに手が打てるようになり、被害を少なくすることができるようになりました。この話で自分の態度が変われば相手も変わることを気づかせてもらいました。

 仕事は自分一人でできるものではありません。そのために仲間と一緒に仕事に取り組むための組織がありますので、職場の雰囲気作りが大切になります。その仕掛け人こそが職場の上司自身です。限られたリソース(インプット)から最大の成果(アウトプット)を導き出すのが、上司に必要とされるマネジメント力です。7つのムダ[2]というものがありますが、その他に気づかない重要なムダがあり、それは従業員の持っている才能・能力・情熱を活かさないムダです。その鍵を握っているのが、上司自身です。

 上司は単に仕事ができるからといって上司になった訳ではありません。その組織のリソースを効率よくマネジメントし、部下育成することが本来の職務だと考えます。部下の持っている色々な才能・能力・情熱を最大限に活かすことが、部下が気づかなかった潜在能力をさらに活かすことになります。そして組織の力を大いに発揮させることができるのです。自分自身が気がついている顕在能力はごくわずかです。逆に見えない潜在能力は非常に多くあります。これは多くの心理学者や脳科学者によって明らかになっていますので疑う余地はありません。部下や組織の持っている潜在能力を、いかに最大限活かすかを上司は注力すべきです。

 

3. 職場をイキイキとさせるコツ

 この潜在能力を引き出すために筆者がやっている方法は2つあります。1つ目は楽しくやる、そして2つ目はチームワークで取り組むです。本質とは実に簡単なことです。筆者がこれに気づき、納得し確信を持つまでに30年以上もかかりました。それを実施するには意識をプラス志向にすることです。その方法としてワイガヤ方式[3]とかブレインストーミング(ブレスト)などもありますが、要は部下たちを楽しくワクワクさせることです。それが職場をイキイキとさせます。

 職場がイキイキした雰囲気になっていくと、自然に潜在能力の花が開き出します。こういった雰囲気作りは、上司の重要な環境整備になります。どの職場においても、この雰囲気作りで大きな成果を得ることができます。見えないコトが、実は非常に大切だったのです。改善も実はちょっとしたヒントで次々とできるようになります。

 そのきっかけ作りは些細(ささい)なことなのですが、些細だからこそ気づかないのです。これらは考えてみると、お金をかけないでもできる簡単なことだったのです。簡単なことゆえに気づかなく、分からないものなのです。でもこれが納得できると不思議に改善がドンドンとできるようになります。何かキツネに騙(だま)されたよ...

人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説してきましたが最終回となります。

◆ 部下がイキイキと仕事をしていますか

1. 部下は上司の顔を見て、仕事に取り掛かかる

 職場において部下は仕事が始まるまでに、真っ先に上司の顔色を窺(うかが)っているのをご存じでしょうか。上司の顔色を窺って上司の考えていることをすぐに感じ取っています。人間は他の動物と違い、鋭い牙(きば)や爪(つめ)、強い腕力や脚力を持ち合わせていない分、悪いことや危険を察知する能力が発達したといわれています。部下は今日の仕事に着手する前に、上司の様子を見て仕事の段取りや心の準備を始めます。前日に不良や故障が発生した場合、その報告や相談を始業前にどうしようかと一生懸命に考えています。

 ところが上司であるあなたが、出勤前に夫婦ケンカなどで不機嫌な顔をしていたらどうでしょうか。部下はすぐに察知して、嫌な気分になって報告しようか迷うものと思います。不良や故障の嫌な報告ほどし難いものですが、部下が言い出しやすい雰囲気を上司のあなたは作っていますか。あなたが新入社員の頃を思い出してみてください。同じような感じだったことと思います。

 

 部下が報告しようかと迷っている時に、マーフィーの法則[1]はタイミング良く適用されます。報告しようと思ったら思いがけず他人から情報が伝わってしまい、上司は「なんですぐに報告しなかったのか」と急に鬼のような顔になって怒鳴り散らします。これではお互いに気分が良くありません。仕事も当然やる気がなくなり、生産性は落ち、疲れは溜(た)まり、悪魔のサイクルが回り始めます。そのような雰囲気を作っていたのは上司自身だと、当の本人はなかなか理解できないのです。

 上司はその職場の雰囲気を醸(かも)し出す源であり、まさに職場の鑑(かがみ)そのものです。部下からの嫌な報告や相談も、いつでも受け入れる体勢と心構えをしておくべきです。そのためにも上司はいつも笑顔でいたいものです。それができないならせめて上司から毎日率先して部下に声を掛け、嫌なことや悪いことをすぐにオープンに話ができるようにしたいものです。それだけでと雰囲気が変わるものです。

 

2. 部下の才能・能力・情熱を発揮させる環境づくり

 始業前のラジオ体操や清掃時間にも、部下の顔色や態度は十分読み取れるはずです。その時に調子の良くないそぶりをしている部下には、そっと声を掛けて何があったかを、部下から話し出せるように仕向けていきます。そのような察知能力を発揮したいものです。

 松下幸之助氏は、どんなに忙しくても相談する人が来れば、相手の正面に向かって話をすべて聞き、なおかつ知っていた話であっても「君の話は面白いなあ」、「勉強になったわ」などと聞き取る姿勢でいたそうです。なかなかできないことですが、それを知ってから著者も態度を改め取り組みました。やがて悪い情報もどんどん来るようになって、すぐに手が打てるようになり、被害を少なくすることができるようになりました。この話で自分の態度が変われば相手も変わることを気づかせてもらいました。

 仕事は自分一人でできるものではありません。そのために仲間と一緒に仕事に取り組むための組織がありますので、職場の雰囲気作りが大切になります。その仕掛け人こそが職場の上司自身です。限られたリソース(インプット)から最大の成果(アウトプット)を導き出すのが、上司に必要とされるマネジメント力です。7つのムダ[2]というものがありますが、その他に気づかない重要なムダがあり、それは従業員の持っている才能・能力・情熱を活かさないムダです。その鍵を握っているのが、上司自身です。

 上司は単に仕事ができるからといって上司になった訳ではありません。その組織のリソースを効率よくマネジメントし、部下育成することが本来の職務だと考えます。部下の持っている色々な才能・能力・情熱を最大限に活かすことが、部下が気づかなかった潜在能力をさらに活かすことになります。そして組織の力を大いに発揮させることができるのです。自分自身が気がついている顕在能力はごくわずかです。逆に見えない潜在能力は非常に多くあります。これは多くの心理学者や脳科学者によって明らかになっていますので疑う余地はありません。部下や組織の持っている潜在能力を、いかに最大限活かすかを上司は注力すべきです。

 

3. 職場をイキイキとさせるコツ

 この潜在能力を引き出すために筆者がやっている方法は2つあります。1つ目は楽しくやる、そして2つ目はチームワークで取り組むです。本質とは実に簡単なことです。筆者がこれに気づき、納得し確信を持つまでに30年以上もかかりました。それを実施するには意識をプラス志向にすることです。その方法としてワイガヤ方式[3]とかブレインストーミング(ブレスト)などもありますが、要は部下たちを楽しくワクワクさせることです。それが職場をイキイキとさせます。

 職場がイキイキした雰囲気になっていくと、自然に潜在能力の花が開き出します。こういった雰囲気作りは、上司の重要な環境整備になります。どの職場においても、この雰囲気作りで大きな成果を得ることができます。見えないコトが、実は非常に大切だったのです。改善も実はちょっとしたヒントで次々とできるようになります。

 そのきっかけ作りは些細(ささい)なことなのですが、些細だからこそ気づかないのです。これらは考えてみると、お金をかけないでもできる簡単なことだったのです。簡単なことゆえに気づかなく、分からないものなのです。でもこれが納得できると不思議に改善がドンドンとできるようになります。何かキツネに騙(だま)されたように感じるかもしれませんが、心配いりません。多くの実例がありますので、どの職場でもできるようになります。

 自分よりも優れた部下を何人育成できたかが、上司の評価であることに気づけば、何をしたらよいのかが分かってきます。つまり上司の意志の問題なのです。現場改善をできるようにするには、部下が改善のできる雰囲気を上司自らが作りだすことです。心のスイッチをプラスにONにする意志を持ち、それを行動に移すことです。職場の雰囲気がガラッと変わります。

 

 今回で、人材育成・組織・マネジメントの連載を終わります。

 【用語解説】

 [1]マーフィーの法則:経験則・法則の形式で表明したユーモア、失敗する可能性のあるものは失敗する。起こる可能性のあることはいつか実際に起こる。など。
 [2]7つのムダ:トヨタ生産方式で提唱されている概念。7つのムダとは、次の通りです。

  •  造り過ぎのムダ
  •  在庫のムダ
  •  運搬のムダ
  •  不良をつくるムダ
  •  加工そのもののムダ
  •  動作のムダ
  •  手待ちのムダ

   [3]  ワイガヤ方式:本田技研工業がミーティング時に行っていた手法。立場の相違に捉われず、同じ組織に属する者たちが気軽に「ワイワイガヤガヤ」と話し合うこと。 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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