3. 未来指向と現在指向
未来指向と現在指向に分けることができるというのを裏付ける理論があるので紹介しておきましょう。
未来指向であるビジョン型のモチベーション向上は世の中にあふれているので説明は必要ないでしょう。夢を具体化する手順、目標を現実化する手法など、いわゆる成功法則や成功哲学のほとんどは未来指向だといえます。
現在指向と考えられるのは、スタンフォード大学の J.D.クランボルツ教授が提唱している「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。これは、キャリア(将来の職業)の8割は偶然によって決まるといい、キャリアや人生はあらかじめ計画した通りや期待した通りには決してならないという内容です。未来のビジョンや目標にもとづいて行動するよりも、自分が大切に思っているもの、大事にしていることを基本にして、行動を起こして幅広くいろいろなことを吸収するのがよいというようなことを言っています。
図44.未来指向と現実指向
現在指向メンバーに対して必要となるのは、どんなプロジェクトにしたいのか、どのようなことを大切にプロジェクトを運営したいのか、といったことを PM が宣言することが大切です。もちろん、メンバーが共感できるものであることが前提です。
未来指向と現在指向のモチベーションの源泉例も紹介しておきましょう。
図45.モチベーション源泉の例
以上のことから、プロジェクト・メンバーの心をひとつにするには、メンバーが未来指向なのか、現在指向なのかで別々のアプローチが必要なのがわかります。未来指向のメンバーに共感してもらえるプロジェクト・ビジョンと、現在指向のメンバーに共感してもらえるプロジェクトの在り方とを考え、共有するのです。
たとえば、未来指向と現在指向の両方のメンバーの意識に働きかけるには、「現在の2倍の反応時間を達成して世界一の性能を目指す。さらに、仲間を尊重し気分よく仕事ができる工夫をするプロジェクトにする」と宣言し、実際の進め方を具体化するのです。もちろん、本当に共感できる内容かどうかというのは大切ですが、まずは、モチベーションの源泉には未来指向と現在指向があることを知り、その両方に働きかけるにはどうしたらいいのかを考えることが、プロジェクト・メンバーの心をひとつにするため...