今回は、国際ポジティブ心理学学会(IPPA)の日本支部である日本ポジティブ心理学協会(JPPA)のプラクティショナーとして、理論や裏付けとともにポジティブ心理学の内容を何回かに分けて紹介したいと思います。
心の話題はポジティブ心理学をベースにしていますが、ポジティブ心理学というのは、アメリカ心理学会の会長も務めたマーティン・セリグマンらが創設した個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学の一分野で、一般の人が幸せで豊かな人生を送るための実践的な手法を科学的に研究することを特徴としています。
テレビなどのメディアや書籍、インターネットなどでは、心理学と称して様々なことが紹介されていますが、裏付けのないものや理論が曖昧なものが少なくありません。ここでは、国際ポジティブ心理学学会(IPPA)の日本支部である日本ポジティブ心理学協会(JPPA)のプラクティショナーとして、理論や裏付けとともにポジティブ心理学の内容を何回かに分けて紹介したいと思います。充実感、満足感、幸福感を実感できるよりよい日常を過ごすためのヒントになれば幸いです。前回のその1に続いて解説します。
3. 人生の満足度
何が幸福に関係するのかを明確にするのは単純ではありませんが、幸福を具体的に定義したもののひとつとして「主観的ウェルビーイング(Subjective Well-Being; SWB)」があります。
図189. 主観的ウェルビーイング(SWB)
主観的ウェルビーイングは、幸福とは自分の人生にどれだけ満足しているのか、ポジティブ感情をどれだけ頻繁に感じているのか、そして、ネガティブ感情が低いレベルになっているかだとしています。つまり、幸福感が高いというのは主観的ウェルビーイングが高いということであり、それは、人生の満足度が高くて、ポジティブ感情が多くネガティブ感情が少ないということです。
幸福感を決める重要な要素である「人生の満足度」は、心理学者エド・ディーナーが作った「人生満足度尺度(Satisfaction With Life Scale; SWLS)」を使って計測することができます。次に示す5つの質問に、1(まったくそう思わない)から7(強くそう思う)までの7段階で答えるというものです。
図190. 人生満足度尺度(SWLS)
人生の満足度はこの5つの質問に対する回答の合計点で判定します。以下がその判定方法です。
【合計点 人生の満足度】
30 – 35 とても満足している
25 – 29 満足している
20 – 24 どちらでもない
15 – 19 やや不満である
10 – 14 不満である
5 – 9 非常に不満である
さて、実際の人生の満足度を計測してみて、どう感じたでしょうか? 実は、人生満足度尺度は回答しているときの気分によって点数がかなり左右されます。また、考えている対象やその頻度、時間などによっても変化します。主観的ウェルビーイングで定義する幸福感は、様々な要因によって変わる気分の影響を受けるということです。
4. ライフライン・チャート
それでは、人生の満足度つまりは幸福感に何が影響するのかを「ライフライン・チャート」を使ってもう少し深く考えてみましょう。ライフライン・チャートとは、横軸に年齢、縦軸に幸せの度合い(幸福度)をとって、いろいろな出来事によって幸福度がどのように変化したのかをグラフ化したものです。自分がどのようなことに幸福を感じるのかを分析するために、今までのことを振り返ってみて、年齢とともにどのような出来事があったのか、それは幸せ(プラス)だったのか、不幸せ(マイナス)だったのか、その度合いはどのくらいだったのか、あなたのライフライン・チャートを書いてみましょう。
図191. ライフライン・チャート
自分のライフライン・チャートが書けたら、グラフの山の部分と谷の部分のそれぞれについて、具体的に何があったのか、何が良かった/悪かったのか、関係した人はいたか、その人とはどんな関係だったのか、どんなことが印象に残っているかなどを振り返ってみてください。さらに、これから先のグラフはどうなるのかも書いてみてください。いかがでしょうか? ライフライン・チャートを書くことで、何が自分の幸福に影響するのかが少し具体的になったのではないでしょうか。
5. 人生満足度にかかわる要因
他の人とライフライン・チャートを共有すると、何が幸せに関係するのかは人によって様々だということがわかります。ただ、多くの実証実験により、幸福感(主観的ウェルビーイング)に何が寄与するのかがある程度明らかになっています。この表は、それらの実証実験の結果をもとに心理学者クリストファー・ピーターソンが、他の要因の影響がない状態で幸福感や人生の満足度に影響する要因を統計的に分析して、強く影響する、中程度に影響する、弱い影響しかないの3つに整理したものです。
図192. 幸福度に関する相関
話題になりがちな年齢、性別、学歴、収入などの社会的属性は人生の満足度との相関は小さいことがわかります。つまり、幸福かどうかは年齢や性別、学歴、収入などにはほとんど関係しないということです。友人の数、結婚、外向性などは対人関係ということができますが、これらは中程度の相関な...