技術企業の高収益化: 本当に大切なことに時間を費やせているか

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人的資源マネジメント

◆ 高収益経営者の時間配分術はどんなものか

 「会社の経営が、なんだかしっくり来ないんですよ」。これは、とある社長(以下、A社長)の言葉です。「会社の経営」というと、かなりザックリした表現ですが、これを言った時のA社長は、まだそのくらいの整理しかできていなかったようです。確かに、モヤモヤが言葉にならない時ってあります。A社はここ数年の間、商品を出すことは出していたそうですが、A社長はその状況にモヤモヤとした違和感を感じていたそうです。

 そこで、A社長はモヤモヤを解消しようと私のセミナーに参加。そこからA社と私の付き合いがスタートしました。最初の打ち合わせでは、問題意識を話してもらったのですが、そこで冒頭の言葉が飛び出したのです。話を聞くと、A社長の「なんだかしっくり来ない」というモヤモヤは、A社長の直感からきているようでした。

 A社長はオーナー社長です。もしかすると、読者の皆さんは「オーナー経営者の直感は当たるもの」と思っていませんか。コンサルタントとして実際にさまざまな会社を見ていると、そうとも限らないというのが実感です。当たる場合もあれば、当たらない場合もあります。

 私が聞いたA社の現状はどうだったかといえば、過去数年、A社では曲がりなりにも複数の新商品を投入していました。新商品を投入しているだけでも及第点といいますか、多くの中小企業が自社商品を出せない中で、新商品を出しているだけでもマシだったと思います。しかし、それらの商品がヒットしたかというと、売れ行きはあまり芳しくなかったのです。

 とはいえ、会社は黒字。しかも利益率は高い方。一般的には満足してもおかしくない数字です。そのため、A社長のモヤモヤは、平均より上の利益水準であることや新商品が出せていることが原因ではないようです。

 では、何が原因だったのか。A社長は冒頭にあった「会社の経営」としか表現しませんでしたが、原因は社長の直感にあるようです。私は、今回はA社長の直感が当たっているように感じました。

1、顧客要望対応

 A社長は言いました。「中村先生はセミナーで、『顧客要望対応は間違っている』って言ったじゃないですか? あれにピンと来ましてね、やり方が間違っているんじゃないかと思うんですよね…」。そこで、過去数年の商品開発の歴史を紐解くと実に興味深い事実が分かってきました。商品開発をしてきたといっても、既存商品の小改善や仕様改良にとどまっており、大幅改善とか新しい商品というイメージではありませんでした。クルマでいえば、マイナーチェンジ程度。新モデルはおろか、フルモデルチェンジもなかったという感じです。

 私は確かに、セミナーなどで「顧客要望対応は間違っている」と言っています。しかし、このフレーズは誤解を生むこともあるようです。なぜかといえば、世の中の仕事の大半は顧客要望対応だからです。顧客要望対応を仕事にしている人に「間違っている」といえば、聞いた人は気持ち良くないに違いありません。しかし、A社長の直感には触れたようで「ピンと来た」というわけです。

2、自分のしたいことが分かっているか?

 A社長が顧客要望対応のマイナーチェンジに時間を割こうと思えばいくらでもできたと思います。もっといえば「モヤモヤを解消しよう」と積極的に思っていなかったとしても、普通は顧客要望があれば対応してしまうものです。

 A社長が顧客要望に対応する時間を取っていたとしたら、A社長がモヤモヤを感じることはなかったでしょう。顧客のためにマイナーチェンジを繰り返し、それに満足していれば、セミナーに来ることはなかったと思います。

 しかしA社長は違和感を感じていましたし、セミナーにも参加しました。重要なことなので、繰り返しますが、自らのモヤモヤを信じて行動したことでピンと来たのです。

 A社長は経営者です。前述の通り、一般的には満足できそうな自社の利益水準でしたが、それには満足しませんでした。A社長は本当に自分がしたいことが何なのかをよく分かっていたのだと思います。そのため、目先の顧客要望対応型マイナーチェンジに違和感を感じ、モヤモヤを優先させて行動したのだと思います。

 その後A社長とは、コンサルティングの進行過程で懇親の機会が何度かありました。そんな時に、私が決まって聞くのがセミナーに参加した理由です。

 一般的な水準よりも高い利益を出し、世間並みの研究開発プロセスだったのに、なぜセミナーに参加したのか理由を聞くと、A社長はサッパリした表情で言いました。

 「セミナーに行きたかったからですよ」

3、限られた時間をどこに投入するか

 私は不意打ちを食らった感じでした。「利益率を高めたかったいから」とか「問題を感じていた」とか、合理的な理由があるのかな、と思っていたからです。

 「セミナーに行きたかったから」とは、私には意外な言葉で、笑いを隠せませんでした。笑ったというのは、何だか愉快になったからです。

 もちろん、背景には利益率を高めたいとか、画期的新商品を出したいという合理的理由があるでしょう。しかし、そういったことはさておき、自分の気持ちをありのままに話すA社長に対して、私は好感を持ちました。

 「セミナーに行きたい」という気持ちがあるから行く、それで良いと思うのです。

 もちろ...

人的資源マネジメント

◆ 高収益経営者の時間配分術はどんなものか

 「会社の経営が、なんだかしっくり来ないんですよ」。これは、とある社長(以下、A社長)の言葉です。「会社の経営」というと、かなりザックリした表現ですが、これを言った時のA社長は、まだそのくらいの整理しかできていなかったようです。確かに、モヤモヤが言葉にならない時ってあります。A社はここ数年の間、商品を出すことは出していたそうですが、A社長はその状況にモヤモヤとした違和感を感じていたそうです。

 そこで、A社長はモヤモヤを解消しようと私のセミナーに参加。そこからA社と私の付き合いがスタートしました。最初の打ち合わせでは、問題意識を話してもらったのですが、そこで冒頭の言葉が飛び出したのです。話を聞くと、A社長の「なんだかしっくり来ない」というモヤモヤは、A社長の直感からきているようでした。

 A社長はオーナー社長です。もしかすると、読者の皆さんは「オーナー経営者の直感は当たるもの」と思っていませんか。コンサルタントとして実際にさまざまな会社を見ていると、そうとも限らないというのが実感です。当たる場合もあれば、当たらない場合もあります。

 私が聞いたA社の現状はどうだったかといえば、過去数年、A社では曲がりなりにも複数の新商品を投入していました。新商品を投入しているだけでも及第点といいますか、多くの中小企業が自社商品を出せない中で、新商品を出しているだけでもマシだったと思います。しかし、それらの商品がヒットしたかというと、売れ行きはあまり芳しくなかったのです。

 とはいえ、会社は黒字。しかも利益率は高い方。一般的には満足してもおかしくない数字です。そのため、A社長のモヤモヤは、平均より上の利益水準であることや新商品が出せていることが原因ではないようです。

 では、何が原因だったのか。A社長は冒頭にあった「会社の経営」としか表現しませんでしたが、原因は社長の直感にあるようです。私は、今回はA社長の直感が当たっているように感じました。

1、顧客要望対応

 A社長は言いました。「中村先生はセミナーで、『顧客要望対応は間違っている』って言ったじゃないですか? あれにピンと来ましてね、やり方が間違っているんじゃないかと思うんですよね…」。そこで、過去数年の商品開発の歴史を紐解くと実に興味深い事実が分かってきました。商品開発をしてきたといっても、既存商品の小改善や仕様改良にとどまっており、大幅改善とか新しい商品というイメージではありませんでした。クルマでいえば、マイナーチェンジ程度。新モデルはおろか、フルモデルチェンジもなかったという感じです。

 私は確かに、セミナーなどで「顧客要望対応は間違っている」と言っています。しかし、このフレーズは誤解を生むこともあるようです。なぜかといえば、世の中の仕事の大半は顧客要望対応だからです。顧客要望対応を仕事にしている人に「間違っている」といえば、聞いた人は気持ち良くないに違いありません。しかし、A社長の直感には触れたようで「ピンと来た」というわけです。

2、自分のしたいことが分かっているか?

 A社長が顧客要望対応のマイナーチェンジに時間を割こうと思えばいくらでもできたと思います。もっといえば「モヤモヤを解消しよう」と積極的に思っていなかったとしても、普通は顧客要望があれば対応してしまうものです。

 A社長が顧客要望に対応する時間を取っていたとしたら、A社長がモヤモヤを感じることはなかったでしょう。顧客のためにマイナーチェンジを繰り返し、それに満足していれば、セミナーに来ることはなかったと思います。

 しかしA社長は違和感を感じていましたし、セミナーにも参加しました。重要なことなので、繰り返しますが、自らのモヤモヤを信じて行動したことでピンと来たのです。

 A社長は経営者です。前述の通り、一般的には満足できそうな自社の利益水準でしたが、それには満足しませんでした。A社長は本当に自分がしたいことが何なのかをよく分かっていたのだと思います。そのため、目先の顧客要望対応型マイナーチェンジに違和感を感じ、モヤモヤを優先させて行動したのだと思います。

 その後A社長とは、コンサルティングの進行過程で懇親の機会が何度かありました。そんな時に、私が決まって聞くのがセミナーに参加した理由です。

 一般的な水準よりも高い利益を出し、世間並みの研究開発プロセスだったのに、なぜセミナーに参加したのか理由を聞くと、A社長はサッパリした表情で言いました。

 「セミナーに行きたかったからですよ」

3、限られた時間をどこに投入するか

 私は不意打ちを食らった感じでした。「利益率を高めたかったいから」とか「問題を感じていた」とか、合理的な理由があるのかな、と思っていたからです。

 「セミナーに行きたかったから」とは、私には意外な言葉で、笑いを隠せませんでした。笑ったというのは、何だか愉快になったからです。

 もちろん、背景には利益率を高めたいとか、画期的新商品を出したいという合理的理由があるでしょう。しかし、そういったことはさておき、自分の気持ちをありのままに話すA社長に対して、私は好感を持ちました。

 「セミナーに行きたい」という気持ちがあるから行く、それで良いと思うのです。

 もちろんコンサルティングを受ける過程は社員も関係する話ですから「〇〇したいから」だけで仕事をすることはなかなかできません。コンサルティングでは、合理的な理由を提示しながら技術戦略を策定したり、高収益の仕組みを作ったりします。

 しかし、そのコンサルティングを受けることを決めた当の本人(A社長)は合理的な理由を語らず「〇〇したかったから」という理由で導入を決めたというのは面白い話だと思いませんか。一般的には、モヤモヤとした状態のまま冴えない気分で日常を過ごすことも多いものです。気をつけていなければ、自分のしたいことが分からず、モヤモヤを放置してしまいます。そうこうしているうちに、感覚が麻痺してモヤモヤすら感じなくなってしまうことがあります。

 経営者ではなくても、顧客要望や上司の命令などのノイズが多いと、自分のしたいことが分からなくなります。日常に翻弄されることを無意識のうちに選択している人もいるでしょう。私達の時間には限りがあります。限られた時間を自分が大切だと思えることに投入してほしいと思います。

 あなたは、自分のしたいことが何なのか、はっきりと自覚していますか?

 

【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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