【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】
- 1. 間接部門のプロセス改善とは
- 2. 現場は全てを物語る
- 3. 明日の仕事は今日の改善、それを今日やる
- 4. お互いをつないで考えてみよう
- 5. 教育と訓練
- 6. 教育投資のリターンとは
- 7. 社風が会社の見える部分を変える
- 8. 課題解決と組織内の人間関係
- 9. 社内のコミュニケーション不足
- 10. 現場が意識することで見えるお客様の変化
- 11. 中間管理職に改善推進者になってもらうためには
- 12. トップが毎日、自ら現場に出向く
- 13. 改善のできる雰囲気は上司が作る
工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説します。今回はその第9回目となります。
◆ 職場間の交流を活性化し改善につなげる
1. 視点を変えるため、他の職場を観察
自分の職場にいつもいて同じ作業を続けている(マンネリ化)と何も見えなくなってくるものです。何が悪いのか、何が問題なのか感じなくなってしまいます。脳は同じ状態が継続すると一部の機能だけしか使われないため、何も感じなくなってしまいますが、変化を感じることで、それまで使われていなかった脳機能が活性化され、物を感じたり、これまで見えていなかったものが見えてきたりするそうです。たまに他の職場に足を運ぶことで、新しい発見以外に、逆に自分の職場のことが見えてくるなど、色々な気付きが生まれるものです。少し環境を変えるちょっとした勇気があればよいのです。
例えば、気分転換は物の見方や考え方を変えるきっかけになるものです。ただし何気なく見ても何も感じることはできません。明確な目的や意識を持たない限り見えてこないものです。要は視点を変えて、観察をするように「観る」機会を持つことです。自分から勝手に他の職場に行くのは職場放棄になってしまいますので、このような仕組みを設定してあげるのはトップや上司の大切な仕事だと思います。
社員はいつも会社の入り口から自分の職場に直行するのが習慣になっています。そのために他部門を観察することなどは考えも及ばないと思います。だからいつまで経っても変化がなく、改善の進まない職場に陥ってしまうのでしょう。
外部の企業や協力工場、仕入先などへ社内から出ることは非常に視点を変えやすく効果もあります。しかし相手の事情もあるので、すぐに対応はできないものです。そこで、社内であれば合意も取りやすいと思いますので、実施してみてはいかがでしょうか。ただ「それならば簡単だ」、「いつでもできる」と思って安心してしまうと、いつまで経ってもできませんので気を付けてください。
そのためには、まず他部門に行って「観察する」という既成事実を作ってしまうことです。そうすると次のステップに踏み出しやすくなります。小さな一歩は大きなステップになります。0×100=0ですが、1×100=100になります。「0」と「1」は、意味としては非常に違うものなのです。まず踏み出す勇気を持ち、即行動することです。
2. 他部門からメンバー集い、観察項目を意識しながら探す
いきなり他部門に行って問題点を探すことは、脳の意識の部分というか、センサーがまだ起動していない状態のまま、観察することになってしまいます。これではエンジンを掛けないままでは、車は発進しないことと同じです。まず脳にもアイドリングしてあげるのです。その方法を紹介します。
まず他部門から色々なメンバーを集います。観察メンバーは数人から最大8人が理想です。これ以上多くなるとまとまらないためです。次に集まったメンバーにちょっとした、頭にスイッチを入れる仕掛けの講義をします。
はじめは、部屋の中を見渡してもらい「10秒間で赤い物を5つ探してください」と参加者に伝えます。そうすると参加者は、部屋の赤い物に注目して探し始めます。そして全員に目を閉じてもらいます。そこで問題を出します。「赤いものは5つありましたか?さて問題です。この部屋に青い物はいくつありましたか?」と改めて問題を出します。メンバーからは「そんなのいんちきだ!」と反発するかもしれませんが「さて幾つありましたか?」と答えを求めます。「5つ思い出した人は、手を挙げてください」と促しますが、ほとんどの人は手を挙げることができません。でも10秒で5つ思い出した人には、大きな賞賛の拍手を贈りましょう。赤い物と限定すると、それ以外のものは目に入っても、脳のフィルターがふるいにかけてしまいます。このような事例を2つ、3つ出して挙げると、一気にスイッチが入ってきます。
このようにある目的や意識を持たないことには、人は何も感じないものなのです。このことを踏まえて、これから現場に行く前に観察する項目を意識することを再認識してもらいます。それは、職場でよく忘れ去られる「安全」、そして「5S」(作業環境、表示・標識を含め)、「品質」、「人間工学(作業姿勢、振り向き作業、重筋作業などの見方)」、「ムダ(付加価値を生まない作業、仕事)」、「仕事のやり方(技術的な見方)」の項目です。あまり多くあっても混乱するだけなので、4~5つくらいの項目にしておきます。職場によって特殊なものがあればアレンジしてよいでしょう。
3. 観察し合うことで職場間交流が生まれる
準備するものはノートとペンだけです。できれば画板があればノートが支えやすいでしょう。人の動きに集中して、人の動く導線を1時間追跡しながら、ノートにその軌跡を描いて行きます。それは対象から一時も目を離さないためです。その際に大切なことは、一切しゃべらないこと、改善案を考えないことです。その時に先ほどの5つの項目をノートに書いて置けばすぐに反応でき、記入することができます。
15~20分も経つと、それまで知らなかった職場の作業が次第に見えてきます。また観察している人も緊張感が取れて普段の動きをしてきます。そうすると今までになかった行動を取り始めます。治工具を探しに職場を離れたり、作業指示が不十分で確認のために他の人と話しを始めたりします。想像もしていなかったことが次々に発生して...