前回は「学習」を通じて「成長」することの重要性をお伝えしました。実務を通して人はもっとも成長するものであり、そのための仕組みを作ることが大切だということをお伝えしました。そして、その仕組みの実現は、技術者の成長の仕組みを製品開発の仕組みの中に組み込むことがポイントになるということをお伝えしました。このような仕組みを実現するには、従来からの標準化や開発プロセス構築などとはちがった視点が必要になります。今回は、この新しい観点について考えてみます。前回のその2に続いて解説します
◆ 採用試験を見直した Google
前回は Google の事例を紹介しました。どんなに優秀な技術者が集まっていたとしても、成果を出すことができるかどうかは、チーム・マネジメントがカギだということでした。引き続き、今回も Google の事例を紹介します。
1. Google の採用試験
次の問題、いくつ回答できますか?
・マンハッタンにガソリンスタンドは何軒ありますか?
・尋ねたり手伝ったりしてくれたりする司書もいなく、その分類方式もわからない初めて行く大きな図書館で特定の本がどこにあるか、どのようにして探しますか?
・あなたは5セントコインほどのサイズに縮んでしまいました。質量は今現在の密度を維持しています。そのあなたはガラスのミキサーに投げ込まれ、ミキサーの刃が 60 秒後に動き出します。さぁ、あなたはどうしますか?
・正20面体を三色で塗り分けしていった場合、何通りのパターンになりますか?
これらは Google の入社試験で出された問題です。難しいクイズ番組で出てくるような難問、奇問ばかりですね。Google は優秀な人材を選抜するために、採用試験でこのような問題を出して、論理性や柔軟性、発想力などを見ているということで一時期、話題になりました。
しかし、今ではもうこのような採用試験はやっていません。その理由を人事担当副社長がニューヨーク・タイムズに語っています。
In Head-Hunting, Big Data May Not Be Such a Big Deal
前回の事例もそうですが、Google がすばらしいのは、様々な試みをすると同時に、その有効性を詳細にデータ収集して分析するところです。この記事によれば、採用試験についても採用後数年に渡ってデータ収集を行い、仕事で成果を出す人材の採用のためには何が有効なのかを調査、分析したということです。簡単に内容を紹介します。
2. 採用試験の有効性
(1) 難問・奇問は効果なし
論理性や分析力などを見極めるために、前述のような難問・奇問を出題しても、その回答能力は、入社後の仕事のパフォーマンスにまったく関係がないことがわかりました。難問・奇問は、優秀な候補者を判断することには何も寄与せず、採用する側の自己満足でしかなかったと厳しく評価しています。
(2) 優秀な採用者はいない
優秀な人を採用できる人とはどんな特性や属性を持つのかについても分析しています。結果は、優秀な人材を採用できる特別な人はいないということでした。優秀な人材を採用時に判断できる特性や属性はないのだから、今では、採用する側に裁量を与えることはやめて、共通の項目にもとづいて候補者を評価することにしているということです。
(3) リーダーにもっとも重要なのは一貫性
採用がもっとも難しいのがリーダーであり、それは、リーダーの資質が曖昧で明確に定義できなかったためでした。しかし、調査・分析によれば、一貫性がもっとも重要であることがわかったということです。
これは、前回紹介した事例の Project Oxygen も関係しているでしょう。リーダーやマネジャーの重要性について、インタビューの中で次のように強調しています。
一貫性のあるリーダーのもとでは、チームメンバーは与えられた条件や前提が明確なので大きな自由度を持つことができ、やりたいことができる。そうでないリーダーのもとでは、どんなときにもリーダーの目が光っている大きな制限や拘束のもとにあるため、やりたいことができない。
(4) 従業員がマネジャーを評価する
採用試験とは関係ありませんが、インタビューの中ではマネジャーの重要性についてさらに言及しています。メンバーの評価こそがマネジャーの評価なのだと言っています。
Google では年2回、従業員がマネジャーを評価する「Upward Feedback Survey(上司へのフィードバック調査)」がある。この調査では、マネジャーがチームに対して敬意を持って接しているか、そして、明確にゴールの要点を示しているかを評価する。評価はマネ...