トヨタ生産方式の導入はなぜ難しい

 

1、トヨタ生産方式:高いハードル

 トヨタ生産方式(TPS=Toyota Production Sysytem) は実によく話題になりますが、いざ導入しようと思うとかなりハードルが高いものです。

 

 私はトヨタ時代、TPSをあまり意識しませんでした。トヨタ内ではTPSベースが当然のことですので、普通に進めている業務は、この考え方に基づいています。導入の難しさに気付いたのは、トヨタからサムスンに移ったあとでした。サムスンの方にTPSを説明しようと試みるのですが、どうにも通じません。常識の違いがあるように感じました。

 典型的な事例は「在庫を減らしましょう」との説明です。「いずれ売れるものだし、万が一に想定外のトラブルで手元に商品がない場合は機会損失になるのだから、減らさなくていいでしょう」と言われます。トヨタでは在庫を減らすことは当たり前で、その必要性の議論になどはなりません。

 

 TPSは哲学的、あるいは宗教的な側面があるようです。すなわち、信じる者は救われるということです。TPSを導入する際は徹底的に、そして本質的に導入する必要があります。

 ハードルは極めて高く、成果に繋がるまでにも多くの期間を要します。その覚悟がなく「トヨタは儲かっている会社だから、うちの会社もTPSを導入して利益率を上げよう」という程度では頓挫(とんざ)します。

 しかし、導入の意思のある方には丁寧にご説明し、実際の現場で一緒に活動すると、きっと理解を得られるとも思っています。

 

2、トヨタ生産方式:カイゼンの主役づくり

 あなたが製造を担当している工程でカイゼン活動が始まりました。カイゼンのプロと言われる人たちがライン側に来て、何やら調査を始めました。

 あなたはどう感じますか? 

 落ち着かないですね、場合によっては不安を通り越して反発も感じるかもしれません。

 あなたの製造ラインでは不良が多発している上に価格競争力も無いようです。せっかくならば、長年慣れ親しんだこのラインでの仕事を続けたいと考えています。カイゼン活動で競争力を復活できるなら、ぜひとも取り組みたいと考えました。

 

 カイゼンの主役は、現場ラインの人がベストです。カイゼン活動には、ノウハウや着眼力も必要なので、プロの支援が必要かもしれません。真のプロなら、まずは製造ラインの現地現物活動と共に、現場の方々を味方に付ける理解活動から始めるはずです。

 ただ、何をお...

いても開始時の理解活動のハードルが高いのです。中途半端な理解なら、何かの折に反発を買って活動が頓挫してしまうでしょう。

 トヨタ生産方式の展開の難しさは、そもそもの理解を得ることの難しさにもあります。

 当たり前ですが、トヨタでの日々の活動ではこれらの理解活動は全く不要でした。しかし、このカイゼン活動を仕入先など他社に展開する場合、まずはカイゼンの主役づくりが入り口となります。

 

 【出典】技術オフィスTech-T HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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