ロボット開発事業を通じたSDGs達成への貢献
1.教育現場や環境、介護における課題解決に貢献したい
「人とロボットが共に成長する世界を創りたい」。株式会社リビングロボット(福島県伊達市・川内康裕 代表取締役社長)はロボットを人間のパートナーとして捉え「人に寄り添い、人と共に成長し、人と共に生きるロボット」の開発を通じ、時代と共に変化する教育現場や環境、介護といった社会的課題解決に貢献することを目標に、福島から国内外に技術やサービスを発信するベンチャー企業です。
同社の設立は2018(平成30)年。翌年には本社を東京から福島県に移転し「福島ロボットテストフィールド(南相馬市)」に入居。大手電機メーカーで通信関連や「ロボホン」などの商品開発に携わっていた川内社長を中心に、携帯電話やスマートフォン用ソフトウェア開発、AI技術開発者ら26人が大学や企業などと連携し、ロボット開発を進めています。今回はそんな「事業を通じたSDGs(エスディージーズ)達成への貢献」を掲げる同社の「教育・環境保全・働きがい改革推進」に向けた活動内容を紹介します。
2.「人の成長に合わせて、ロボットも成長する」がコンセプト
設立当初は、国内娯楽施設やホテルなどに案内役として設置される海外製ロボット言語の翻訳化のほか、九州大学と共同で5G通信と準天頂衛星システム「みちびき」[1]を取り入れた、屋外向けの案内ロボットを開発。これは、5Gによる全方位カメラ映像を用いて案内だけでなく、遠隔でも共体験が可能な次世代案内ロボットです。
現在、同社では「人の成長に合わせて、ロボットも成長する」をコンセプトに乳幼児から成人、高齢者がロボットを所有し、それぞれのライフスタイルに合わせた様々なサービスを提供しながら、情報やデータなどをクラウドに保管するシステム「PRP:Partner Robot Platform(パートナー・ロボット・プラットフォーム)」を展開。第一弾として考案された、乳幼児用の見守りロボットは現在も開発が進められています。
【写真説明】準天頂衛星システム「みちびき」を取り入れた屋外向け案内ロボット㊧と受付ロボットの「kebbi」(同社提供)
3.「質の高い教育を児童たちに」“あるくメカトロウィーゴ”
2020(令和2)年、小学校で新たにプログラミング教育が必須化されましたが、同社が開発したロボット「あるくメカトロウィーゴ」[2](以降、ウィーゴ)は、可愛(かわい)らしいデザインと同社独自のクラウドシステムを使ったプログラミング学習システムとして注目され、学校教育現場で利用されているほか、今年2月からは一般販売も始まっています。また、出張授業や地域イベントなどにも提供され「質の高い教育をみんなに(目標4、8、9、12)」の実現に向けた取り組みが行われています。
「クラウドシステムを使ったサービスの提供が最大のウリ(同社)」というウィーゴ。アプリを一切必要とせず、パソコン(以下PC)やタブレット端末があれば、児童がプログラムしたパーソナルデータはクラウド上に蓄積され、サービスやデータベースはブラウザを通して提供されます。また「教師が児童のPCやネットワーク設定などといった、事前準備にかかる手間を一切省き、より効率的・手軽に業務に取り組めるよう配慮した」といった点からも「働き手の労働環境の改善」に寄与しています。
ウィーゴは全長約13センチで重さは約230グラム。ロボット本体の関節など可動部に8個のモーターが搭載されるほか、Wi-fiやオートフォーカスカメラ、マイク、スピーカーなどを設け、プログラミングはビジュアルプログラミングシステム・Scratch[3]を使用。PCの画面上でパズルを組み立てるかのような感覚でプログラミングが行えます。現在「手を上げる」、「歩く」、「お辞儀する」といったさまざまな動作(約100通り)以外に、ユーザーが手動でロボット動作や動作時間を設定し、作動させることも可能です。また、ユーザーが作曲した音楽に合わせダンスさせることもできます。
【写真説明】パズルのようにプログラミングが行えるメカトロウィーゴ㊧とグループ学習のようす(同)
今年4月には、小中一貫校の月舘学園(同市)に「9年間を通じたICT教育」の一環として30台が導入され、授業以外に家庭学習でも利用されています。また、隣接する川俣町でも来年から中学校の授業(技術)での使用が決まっています。同県以外では、福岡県中間市の6小学校のグループ学習でも利用され、いずれも学校関係者や子どもたちからの評判は上々ということです。
4.「尊厳を傷つけない介護」目指し開発“ライフスメルセンサー”
介護用品として開発された「ライフスタイルセンサー(以下スメルセンサー)」は「尊厳を傷つけない介護」を目的に、介護時のデリケートな問題「排泄(はいせつ)介助」に着目。被介護者と介護者双方の負担軽減などを目指し、排泄時の匂い検知と排泄予測(通知)に的を絞り、開発されました(目標3、8、9、12)。
【写真説明】排泄時の匂い検知だけでなく、AIによる排泄時間の予測を可能としたライフスメルセンサー(同)
スメルセンサーには「排泄を検知するものとそうでないもの」を識別するため、センサーチップ内(カートリッジ)に10通りのデータが組み込まれています。また、ジャイロや時間、加速度などを測定するセンサーが内蔵されているため、要介護者が排泄する前の体の振動や揺れ、食事の時間などといった日常動作の傾向をAIが繰り返し学習し、予測される排泄時間の前に通知が送られる仕組みとなっています。
同センサーは今年9月、同県内の介護福祉施設や老人ホームなど計9施設に導入され、匂い検出のモニタリングが行われています。同社の川内社長も「介護現場では、定時の巡回(介護)が中心となっているため“排泄直後”に認識することは難しい上、5~10分遅れると皮膚のかぶれなどを引き起こしてしまうため、リアルタイムで状況が把握できるスメルセンサーの導入は、現場からとても歓迎されている」と話しています。これまで、おむつに装着し学習(検証)を重ねたところ、匂いについては100%が検出できたそうですが現状、部屋に設置した際は他の匂いも検出してしまうため現在、これら課題解決に向けた取り組みが進められています。
5.福島県産ヒノキと伝統工芸を取り入れ、林業再生に貢献“伊達組子版”
除菌脱臭機は伊達市内の有限会社白井木工所と共同で、既存製品の樹脂パネルを同県産のヒノキを使い、同市伝統工芸の組子細工を取り入れた木製パネルに置き換えたもので、地元林業の持続的(サステナビリティ)経営の実施を促進するほか、同市のふるさと納税の返礼品として利用されています(目標3、9、12、15)。
【写真説明】福島県産ヒノキを使った「除菌脱臭機 伊達組子版」㊧日本の伝統技術・伊達組子が埋め込まれている(同)
6.ゴールの2030年はあくまでも通過点
これまで、事業を通じたSDGs貢献に取り組んできた同社ですが、地域社会貢献では体験プログラム(無料)の実施や出前授業、イベントへの参加(ワークショップなど)を行っています。同社も「“使ったことない分野(プログラミング)は怖い”といった意識があるかもしれないが、実際使ってみたら簡単でおもしろいという感覚をぜひ、体験してほしい」と話しています。
今年5月には「身体などにハンディキャップを持っていても、一人ひとりの学びたいという気持ちに応えたかった」と、福島県立相馬支援学校にメカトロウィーゴ20台を寄贈。同社も「児童それぞれが自身のペースで好きな動きやプログラミングを学ぶという、一見バラバラな学習のようにみえるが、最終的に“ロボット操作のために必要な考え方”をみんなで共有することができる。自学自習といった点からも、欠かせない要素です」といいます。川内社長も「細々ではあるが、今後もこのような取り組みを続けていきたい」と話しています。
2030年の目標に向け、同社は「地球上の誰一人として残さないという視点からも、ロボット開発事業を通じて未来の子どもたちの将来につながる教育を提供できるよう尽力したい。また、超高齢化社会となっていく中で、尊厳を持った介護ができるような世の中になるよう努めたい。2030年はあくまでも通過点で会社が継続する限り、開発は続いていきます」と意気込みを話してくれました。
記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂
【記事中解説】
[1] 準天頂衛星システム「みちびき」…準天頂軌道の衛星が主体となって構成されている日本の衛星測位システム(衛星からの電波によって位置情報を計算するシステム)。内閣府公式ページより引用。
[2] 「あるくメカトロウィーゴ」© MODERHYTHM / Kazushi Kobayashi
[3] Scratch…MIT(マサチューセッツ工科大)メディア・ラボの研究チームによって作られた無料のプログラミング言語。簡単な入力とマウス操作で、ブロックをつなぎ合わせながらプログラミングできることが最大の特徴。