ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けします。今回はパイプ加工を得意とする町工場有限会社大塚製作所を紹介します。
◉この記事で分かる事
・事業継承での技術・技能伝承について
【企業紹介】
有限会社大塚製作所は愛知県名古屋市で一貫製造、一貫生産を行っている製作所です。主にパイプを加工した商品作りを得意としており、職人一人一人が日本の品質にこだわり続け、創業からの歴史を踏まえ、着実な物つくりを行っているものづくり企業です
1,事業継承でポイントとなったのは技の継承
同社はパイプ加工を中心とした金属加工を得意とする町工場です。1964年創業から一貫して依頼者のニーズに技で応え、信頼を形成し現在では大手医療関連機器メーカーのサプライヤーとしての製造を行うなど堅実な経営を行っています。そんな同社ですが、創業者であり、職人でもある社長から、息子である専務へ事業を継承する事となった際に様々な課題が表面化しました。その中でも最も大きな課題は技(ワザ)の継承でした。工場の仕事は、当たり前ですが原料である材料や部品に付加価値を加える事で成り立っています。この付加価値を加えるプロセスで使われるのが保有している技と言えます。この技を継承できなければ事業自体の継承ができない事となり、土地や工場建屋、生産設備などの有形資産(ハード)の継承ができたとしても、設計技術や製造技術などの無形資産(ソフト)が継承できなければ製造ができない事は明らかです。
先端機器を活用して、技能の技術化にも取り組んでいる(大塚製作所社内研修の様子)
2,技(ワザ)を技術と技能に分けて捉えて継承に取り組む
同社では技のすべてを職人が担っている状態でした。したがって職人の技をほかの人に移転する為には学ぼうとする人が、仕事をする職人に付いて学び取るという形での学びが主体となり職人の育成に長い時間が必要でした。しかし、事業継承を行う上で長い時間をかける事ができない状況下で従来通りのやり方では目標を達成できない事になります。そこで次期社長(当時専務)の声掛けにより従来、技としていた職人の仕事を技術(資料により移転可能)と技能(体験・経験でのみ移転できるもの)の2つに分け、第一に「ワザの技術化」を行い技能比率を下げる、第二に「機械化」を行い技術仕事を人の手から解放、第三に「技能の理解」を行い訓練のメニュー化、技能マップの作成などに取り組みました。
1,ワザの技術化
職人が難なくこなす加工であったとしても、経験の浅い者には難易度が高い加工となる場合があります。同社ではそのような職人の仕事をスマートフォンで撮影し、作業要素ごとに分解。分解した要素を「技術作業」「技能作業」に分け、すべての工程の技術/技能の割合を明らかにしました。そうして従来「職人技」としてひとくくりだったものを「技術」「技能」に分解し、技術に関する内容の手順書を作成する事でワザの技術化を行いました。
2,機械化
工場は材料や部品に手を加えて付加価値を与える場と言えます。付加価値を与える際に技術作業と言えるものは率先して機械化し、人間でなければできない事、人間が行う事でより高い付加価値が与えられるものを特定し、機械化の対象工程を決定しました。同社ではロボット溶接機、コンピュータ制御のパイプベンダーなどがこれに相当します。
3,技能の理解
技術化、機械化により人間の可処分時間を確保したうえで、職人技の技能に関する部分の教育、訓練に取り組まれました。職人技の多くは技能であり、実際の体験を通じてでしか移転できない技であることから、一定の教育訓練時間が必要になります。同社は事業継承の予定にあわせ、計画的に技術化、機械化を進めた事もあって職人技の伝承に時間を使う事ができたのは、ものづくり企業の事業継承をスムーズに進めるためのヒントと言えると考えます。
まとめ
・事業継承で重要になるものの一つに技(ワザ)の継承がある
・技(ワザ)は技術と技能に分類でき、技術は資料で、技能は体験で会得できるものと考えられる
・機械化は技術に相当する工程作業で行いやすい。
【インタビューにご協力いただいた方】
有限会社大塚製作所 代表取締役社長 大塚 正晃 氏
【会社概要】
・社名 有限会社大塚製作所 ・住所 愛知県名古屋市 ・創業 1964年7月 ・従業員数 17名