4. 実オペレーションからSCMへ
【この連載の前回:物流は認知されているか、地位向上を考える(その1)へのリンク】
◆ 物流会社の最低要件
「物流」という言葉が「ロジスティクス」となり、今では「サプライチェーン・マネジメント」と称されるまで発展を重ねてきました。
これは「物流管理業務」の範囲拡大を示しているといえます。すなわち言葉が変わろうと、従来からやらなければならない仕事が無くなったわけではないのです。従来から存在していた「地点間輸送業務」もあれば「倉庫保管業務」も当然のことながら今でも、また将来にわたっても存在し続けることでしょう。
ここでポイントとなるのが「物流の地位向上」です。従来からの業務はそれはそれで必要なのですが、それについて、今までと同じやり方を繰り返すだけでは、ユーザーから高い評価を受けることは難しく、より顧客にとって、付加価値のあるものに変えていかなければならないと思われます。
物流とは輸送と保管を統合的に捉えたものだといえます。物流倉庫を複数の地域に分散して保有することで、お客様に対する配送リードタイム短縮と配送コストの低減につながります。しかし一方で複数の物流倉庫を持つことによるデメリットも存在します。それは在庫の増加と倉庫オペレーションコストの増加です。
つまり片方を立てればもう片方が立たずという「トレードオフ」の関係にあると考えられるのです。そこで輸送と保管を統合的に把握し、オペレーションを行うことで「トータルメリット」を享受しようという考え方で「物流」という概念が生まれたのです。
よく「物流会社」や「運送会社」「倉庫会社」と呼ばれますが、要は最低限「輸送と保管の最適化」を顧客に提供できる会社が「物流会社」だというように考えればよろしいと思います。これは最低限の物流サービスですから、これができるからといって他社に打ち勝つことができるかどうかは分かりません。少なくとも「運送だけ」あるいは「保管だけ」しか提供できない会社よりも、顧客からは喜ばれることは確かでしょう。まずはこの水準をヒットすることで、今までの顧客からの評価は変わるかもしれません。
物流会社の要件としてこのような「実オペレーション」だけでよいのでしょうか。ここで考えなければならないのが、冒頭に記した「ロジスティクス」であり「サプライチェーン・マネジメント」であるのです。
5. サプライチェーン・マネジメント
◆ サプライチェーン・マネジメント ~ 顧客の期待値に応える水準とは
物流は「よくできて当たり前」ととらえられがちです。
指定した時刻に物が届き、品物が間違わず、傷も付いていないのが“当たり前”なのです。これに対し、こんなに苦労しているのだから「当たり前と思われるのは心外だ」という意見があります。気持ちは分かりますが、そのような考え方では、他社に勝つことも物流の地位向上にもつながらない気がします。
残念ながら、当たり前」と思われるのは心外とい考え方が、物流の地位を落としているのかもしれません。もっとプロらしい考え方が欲しいところです。
物流の地位向上についてですが、オペレーションが約束通りにできるのは、当たり前です。最低限の仕事であると考えなければなりません。むしろ物流管理の領域について、質を向上させていくことが必要なのではないでしょうか。物流はロジスティクスからサプライチェーン・マネジメント(SCM)へと発展してきました。
世の中の期待値はSCMに近づいてきています。つまりこの水準の話ができなければ、顧客の期待値に応えることができないのです。物流はサプライチェーン(SC)の全体を俯瞰(ふかん)できる立場にあります。この立場を利用しない手は無いのです。世の中が求めているSCの効率化に寄与することが、物流の地位を向上する絶好のチャンスなのです。
物流管理を考えた時、例えば物流倉庫の仕事をしている立場の人は、次のような発言をします。「在庫のコントロールは荷主が行うことであって、物流会社が口を差しはさむ余地はない」。この発言は従来の「物流業務」からみると、ある意味正しいのかもしれません。
しかし物流の地位向上の観点からは、望ましい発言ではありません。なぜなら、SC効率化の観点からは「在庫コントロール」は極めて重要だからです。物流や在庫は何かしらの活動の結果として表れるものなのです。つまり、物流や在庫を改善するためには、その要因となる「元」を改善しなければならないのです。これに気づかず、与えられた仕事だけをこなしているだけでは評価されません。それを繰り返していても現状が改善されないからです。
仕事は常に向上させていく必要がありますので「要因」について知るとともに、それに対処していくことが重要になってくるのです。
6. ノウハウの提供
◆ 独自ノウハウで地位向上
サプライチェーン(SC)の効率化を最大限にするためには「ものづくりの場」や「物流倉庫の場」についても考慮する必要があります。
この「場所」の問題ですが、一番頭に浮かぶのは物流の効率化でしょう。物流の原理原則として「運ばない」ということを考える必要があるのです。消費地でものづくりを行うことは鉄則です。今や中小メーカーであっても海外進出する時代です。顧客の近くで生産することでSCの効率化を担うことになるのです。
このような現地化のニーズに応えるべく、現地物流について的確なアドバイスができるとよいと思います。まさに頼られる物流会社ということになり、物流の地位向上につながることは間違いないでしょう。また、消費地でものづくりを行う原理原則以外に「関税」の問題も考慮する必要があるのではないでしょうか。FTA(自由貿易協定)などにより、関税がかからない国間で貿易するように最初から考えていくということです。
物流会社の中には国際貿易に詳しいところもありますので、この点でのアドバイスもまた、顧客にとってのバリュー(価値)となります。当然、物流の地位向上に寄与することは言うまでもありません。どこで作りどこへ送ることがベストなのか、物流の視点、関税の視点、その他さまざまな要因を組...
以上のような活動は実作業ではなく無形のノウハウです。今必要とされているのは、このようなスペシャルなノウハウなのです。「実物流業務では差別化できない」というお話をさせていただきました。つまり、どこの会社でもできる仕事は価格競争になるということで、顧客からバリューとして感じてもらえないということです。そこで「他社が容易にまねできない」ノウハウを顧客にそれなりの価格で提供できれば、物流も見直される余地があると考えられるのです。
このような状況になって初めて「物流の地位向上」を図ることができます。「物流の認知度を上げる」「物流の地位を向上する」「物流の対価を適正化する」これらはすべて「物流提供側」で実施すべきアイテムなのです。「国がこうしてくれれば…」「荷主がこう変わってくれれば…」など、他力本願の姿勢ではいつまでたっても物流の地位向上は夢のまた夢です。アクションすべきは物流に携わる一人ひとりなのです。