1.物流の実力の明確化
業務改善は、おかしいと思っていることを正すという意味で大切なことです。この改善にはスピードがつきものです。個々の調査分析に時間をかけている余裕があるのであれば、それよりも数多くの改善をこなしていった方がよいでしょう。私たちは常に競争社会の中で生きています。そのため業務改善は当たり前のように実施していかなければなりません。
一方で現状の問題点をつぶすだけではなく長期的なビジョンを持って活動をしていくことも重要です。ではこの長期ビジョンをどのように組み立てていったらよいでしょうか。
まずは自分たちの立ち位置を明確化すべきではないでしょうか。業界の中でどれくらいのポジションにいるのかを認識することは基本中の基本だと考えるべきでしょう。そのために必要になってくるのが「ベンチマーキング」です。このベンチマーキングの活動では一般的に世の中でのトップ水準のレベルを把握することが大切になってきます。
陸上競技の世界記録、これがベンチマークの典型です。このベンチマーキングはそのデータを把握できるということがポイントになります。
企業活動では売上高とか経常利益といった財務上のデータは把握が可能です。これは公開されていることが多いので比較的把握することが容易です。しかし公開されていないデータは把握することが困難です。業界として特定のKPI(Key performance indicator :重要管理指標)の調査を行い、業界内で比較し合うのであれば把握ができますが、大抵の場合こういったレベルのデータ把握は困難です。
困難である理由は次の2つが考えられます。
- そもそも社内でKPIを把握していない
- 把握しているデータは秘匿データであり公開できない
さらに困難となるのが会社によって把握しているKPIが異なるということです。ある会社は生産作業を行いながら物流作業も行っており、物流関連労務費が製造経費に含まれている、別の会社では構内請負を行っているため対外支払費になっているようなケースが考えられます。
前者は製造生産性というKPI、後者は売上高構内物流コスト比率というKPIとして管理していることが考えられます。
また取組範囲が会社によって異なることもKPI把握を困難にしています。たとえば調達物流費が部品費に含まれている会社もあれば、自社で引き取り物流を実施しており支払物流費として明確化されているケースもあるのです。
2.物流実力値のスコア化
物流実力値のスコア化として、他社との物流の実力値比較はぜひやりたいところではあります。やり方としては他社に申し入れをして相手がその話に乗ってくれば可能でしょう。あるいは業界団体で研究会を設けKPI比較を実施するという方法もあります。
ここで両方の条件となるのが「意を同じくする仲間が必要」だということです。自社だけでやろうとするのではなく複数の会社で同じ目的を持って活動をすることが必要となるのです。共通KPIを設けてそれを比較することが望ましいのですが会社によってはデータを出したがらないところも多いと思われます。
そこでスコアリングを行うことも考えられます。これは各KPIを設定したうえでその達成レベルに応じてスコア化するという手法です。まさに物流実力値のスコア化です。特徴はKPIのデータズバリを出すのではなくスコア値に置き換えて評価するという点にあります。ただしこの場合でも各社が共通のKPIで管理しているということが条件になります。ということで業界として同様のKPIを取っていない限りベンチマークのデータは非常に限られると思われます。
では次に何を考えていくべきでしょうか。それは「理想形の物流像」を描く作業です。まずは荒唐無稽でもよいので「こうありたい物流像」を考えてみるのです。
アマゾンはドローンでの配送や爆速での配送を描いています。爆速での配送とは顧客からオーダーが入ったら一番近くを走行しているトラックの中に設置されている3Dプリンターで生産して届けるという発想です。つまり他社が実施していない、あるいは考えていないであろう物流像を自社が考えていくことに特徴があるのです。
ベンチマーク活動ではその業界ナンバーワンの会社のデータを把握してその会社にキャッチアップすることが目的になります。しかし「理想追求型」ではその上をいくことも可能になってきます。一度今の固定観念を外して少し飛んだ発想をしてみることも重要ではないでしょうか。
会社内ではもっと足元を固めて直実に向上していけ、と言われるかもしれません。しかし「理想形の物流像」を描く作業でから改革が生まれることもしばしばです。厳しい会社間の競争を勝ち抜くためには他社と同じ発想をしているだけでは不足かもしれないのです。
3.新たな物流商品を生み出せ
通信販売は配送リードタイムを競って成長してきました。以前は3~4日かかることが当たり前でしたが、少し前には翌日配送が常識になり当日配送が出始めたのも最近のことです。しかしそのさらに上を行くサービスが誕生しました。それが楽天の「楽びん!」なのです。
「楽びん!」は、都内の一部で食品や日用品について最短で20分で配送するサービスです。スマートフォンの専用アプリで24時間いつでも注文することが可能で、購入者の自宅などに専用の配送車で届けます。ロジックは簡単で一定の商品を載せたトラックが一定地域内を走り回り、顧客からオーダーが入ったら届けるというしくみです。
ではこのようなサービスをどこかの会社がやっていたかというとそうではありませんでした。当日配送でも驚いていた消費者をさらに驚かすニューアイテムなわけです。このような高次元の物流を目指していくことが厳しい企業間競争に勝ち残っていくポイントになることは間違いありません。
前述のとおり、アメ...
このように物流を差別化のキーにすることで企業は他社を引き離すことが可能となります。「生産しながら届ける」という発想の裏には生産する工場がいらなくなることを意味します。 固定的なコストを防ぐことができ企業にとってメリットは大変大きいものとなります。最初にやったものが利益を享受することができます。
消費者の嗜好は変わってきているものと思われます。ものの買い方も明らかに一昔前とは違ってきています。自分で持ち帰るのではなく届けてもらう、店に出向くのではなくスマホを操作して買い物をする、しかも自分の好きなタイミングでものが欲しいということに変わってきているのです。
このような社会の変化に素早く対応できた物流が魅力的な商品となることは間違いないでしょう。新たな物流商品を生み出していくことが私たちには求められています。自分の周りの声に耳を傾け、常に新しい、そして高次元の物流を開発していきましょう。