さまざまな業界で取り組みが進むSDGs(持続可能な開発目標)ですが、化粧品業界も環境保護やジェンダーフリーなどに向けた取り組みが進んでいます。今回はものづくりのまち・東京都墨田区で化粧用品のパフの開発や製造・販売を行う東京パフ株式会社(鈴木総一郎社長)の環境保護や省エネルギーなどに向けた取り組みを紹介します。
目次
1.化粧用具の製造一筋 国内外で事業を展開
2.「廃棄するより再利用」、メーカーの強み生かしたオンライン販売
3.エシカルな視点取り入れた新ブランド「sumire」
4.唯一無二の技術生かし、ユニバーサルデザインに取り組む
1.化粧用具の製造一筋 国内外で事業を展開
東京パフ株式会社は1950(昭和25)年創業。縫製工場に勤務していた鈴木社長の祖父・久雄氏が、仕事仲間からの勧めで化粧用品のパフの縫製と販売を始めたことがきっかけとなりました。当時は金槌(づち)と金型を使い、生地を叩(たた)いて丸型に抜いたあと、ミシンで縫製するといった手作りで生産を続けるうちに取引先も増え、化粧用具の製造に特化した事業形態に舵を取ったそうです。以来、世界最大の化粧品会社の仏・ロレアル社をはじめ、LVMH(ルイ・ヴィトン)グループ、米・エスティローダーグループといった大手企業の目に留まり、事業を拡大。現在は国内150社ほどと取引も行われ、パフをはじめ、スポンジやブラシ、アイシャドウチップといった化粧用具の製造・販売一筋にビジネスを展開しています。
【写真説明】東京パフ株式会社・東京本社(左)とパフ(同社提供)
2.「廃棄するより再利用」、メーカーの強み生かしたオンライン販売
好調に事業を進めてきた同社ですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による外出自粛などの影響で受けた打撃は大きかったといいます。鈴木社長は「メイクアップに特化した化粧用品(パフ)を製造する企業のため、売上は半減に迫る勢いだった」と振り返ります。その影響は5類感染症移行後も尾を引き「口紅と比べれば、売れている方だが、まだ脱していない。白髪染めなどに使われるヘアケア用容器の売上が伸びたことで助けられた部分もあるが、つらい状況は依然、続いている」と話します。
同社が初めてSDGs対応についてアクションを起こしたのは2021年10月。東京本社と千葉工場の全従業員に対してキックオフミーティングを開き、SDGsの概要説明から日常生活の中ですでに貢献済みの事、これから貢献できる事などを解説し「廃棄物削減」と「省エネ」を同社の目標として掲げました。開始当初は従業員に対し、アンケートを行ったほか、月に1回の勉強会を実施していましたが現在は、数ヶ月に1度のペースで鈴木社長に本社と千葉工場の代表者を加えた3者で話し合い、具体的な行動指針などを各工場に落とし込んでいます。
【写真説明】全従業員対象に開かれたキックオフミーティングで使用された資料から(同社提供)
そんな中、2022年6月には千葉県主催の「CO2CO2(コツコツ)スマート宣言事業所登録制度」に登録。中小企業向け融資制度(環境保全資金)を利用し、千葉工場屋根の遮熱対策を行っています。コロナ禍で事業自体が100%の状態に戻ってはいないものの、昨年7、8月の電力使用量6,049kW、8,115kWに対し、ことしは5,060kW(7月)、7,855kW(8月)と一定の効果がみられ、同社も「以前から節電は心掛けていたが、工場の稼働状況からみても、遮熱対策は有効だったのでは」とみています。
一方、廃棄物削減への取り組みでは、パフの生産時に発生する生地の端切れについて検討。枕やサンドバッグの製造会社から再利用の声が掛かるも、接着や圧縮といった二次加工が必要となることから、対応が難しく、採用を見送ったケースもありました。
【写真説明】千葉工場で行われた屋根の遮熱対策工事(同社提供)
このような試みが続く中、使用されなくなった生地は以前であれば廃棄せざるを得ない状況でしたが、「廃棄するより再利用」とメーカー直販の強みを活かし、オンラインモールを使った販売を開始。店舗より安価な価格で販売されています。さらに原反の端の部分は、加工の際に切り落とされてしまうため、二次加工を施し「テスター用スポンジ」として販売。化粧品販売店で使われるテスターとしても、問題なく使用できるうえ、使い捨ても可能なことから、顧客からの評価も上々。需要も急激に伸び「2020年からの3年間、コロナ禍において、わが社の救世主だった」と振り返ります。社内照明のLED化については、千葉工場は屋根の遮熱対策以前に済ませたほか、本社の方は年頭に実施されています。
【写真説明】「廃棄するより再利用」と原反の端の部分から作られたテスター用スポンジ(同社提供)
3.エシカルな視点取り入れた新ブランド「sumire」
同社の技術開発ですが、鈴木社長いわく「SDGsを考えた時、環境保護の視点は必然的に出てくる課題」のため、社内で検討を重ねた結果、自社ブランド「sumire(すみれ)」を立ち上げ、リサイクル...
パフは生地(外側)とリボン(持ち手)、ウレタン(中芯)から成りますが、ウレタンについては食用ホタテの貝殻粉末をウレタンに取り込んだ抗菌作用と廃棄物削減の性質を持ち合わせた素材を採用。本体の直径を約8センチメートル、リボンの幅も通常品と比べ広く設け、ロゴはコストアップ前提で2色使いとし、ツヤ感のあるデザインに仕上げました。価格は低価格競争に走りがちな国内構造に反し、パフの中では高めの設定になります。販売はオンラインモールを中心に展開するほか今秋には、自動販売機の導入も検討されるなど、本格的な動きに向けた取り組みが進んでいます。
【写真説明】リサイクルポリエステル繊維などから生まれた「sumire」ブランドのパフ(同社提供)
4.唯一無二の技術生かし、ユニバーサルデザインに取り組む
「化粧品といえば、一昔前は女性色の強い商品だったが、今ではメーカー自体もジェンダーフリーを打ち出してきている。また、『誰一人取り残さない』といった点からも、高齢者や身体障害者向けに使いやすさを重視した製品開発も進めている」と、ユニバーサルデザインを取り入れた製品開発も行われています。例えば、一般的にパフのリボンは一文字ですが、これを十字にすることでフィット感が増し、指が細い人でも使いやすいといった効果が期待できることから現在、商品化に向けた試作が進んでいます。また、同社でリボンをセットする作業は縫製ではなく、ホットメルト接着剤を使い溶着されていますが、この技術は世界でも同業他社にはない同社の強みでもあり、鈴木社長も「このような独自技術を十二分に生かしたユニバーサルデザイン製品を考えていきたい」と話します。
【写真説明】左からリボンが十字にセットされたパフの試作品と「ネコパフ」、男性向けの化粧用品(同社提供)
そんな同社ですが、最近ではSDGsに限らず、様々なアイデアが従業員の中から出てくるようになったといいます。一例として、化粧品といえど、安くなければ売れないという市場背景から現在、販売されているパフのリボンは無地一色が多いそうです。そこで、同社ではあえてリボンにチェック柄やレースを付け、オンラインモールで販売したほか、展示会に出品し顧客へのPRに努めています。また、ゴム製のスポンジにネコの肉球をモチーフにしたパフを貼り付け「ネコパフ」として販売したところ、ネコ好きユーザーを中心に評判も上々とのことです。さらには、本社前の空白スペースを活用し『化粧用具の自動販売機』を設置しました。化粧用具を自動販売機で売るという事はこれまでに例のないことで、流行りの製品・普段使いの製品・前述のような開発品の販売を行い、多くの通行人の関心を集めています。このように、SDGs活動を続けることで、アイデア出しをはじめ、5Sなど職場環境の向上に対する意識を高め、社内で共有して行こうといった空気が自然と芽生えてきているそうです。
今後については「廃棄物の削減を第一とし、過剰生産抑制の徹底ほか、将来的には太陽光発電も取り入れていき、自社でまかなっていければ」としています。
【写真説明】本社前の空白スペースを活用し設けられた『化粧用具の自動販売機』
記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂