「親子の時間をデザインする」をモットーに、オリジナル商品の企画・製造や販売などを行うmizuiro株式会社(代表取締役社長 木村尚子氏)は2014年、主原料の米油と地元青森県の廃棄野菜の粉末を配合した自然由来の「おやさいクレヨン」(10色、2200円・税込)を開発。万が一、子どもが口に入れてしまっても安全な天然素材で作られ、これまで国内外で累計約17万セットが販売されています。おやさいクレヨンを中心に「おこめのクレヨン」や「青森りんご スケッチブック」など、子どもや環境に配慮したアップサイクル製品の提供を続ける同社の取り組みを紹介します。
青森県の特産品や魅力を活用した商品を
mizuiro株式会社は2014年に設立。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動していた木村さんですが、日ごろから地元青森県の特産品や魅力を活用した商品化を視野に構想を練っていたといいます。元々、描絵や文房具が好きだったことに加え、娘さんが小学校低学年だったことから、親子で一緒に使える文房具の商品化に着目し、当初は藍の色を使ったインクの開発を検討していましたが、県産野菜や果物の持つきれいでカラフルな色を表現したいとの思いが強くなり、親子で使える描画材を開発する方針に変更。おやさいクレヨンの誕生となりましたが、製品化にたどり着くまでは生産工場の調査や原料の確保など、試行錯誤が続いたといいます。「カラーバリエーションを考えた時、野菜の色を基としているため、自然と緑色が多くなってしまい、緑や黄色以外の原料を探し出すことに苦戦しました」と振り返ります。
廃棄野菜を利用、素材すべてが天然由来
・食品ロスの削減にも貢献
一般的なクレヨンは主原料を石油系ワックスとしていますが、おやさいクレヨンの特徴は、食用の米ぬかから採った米油とライスワックスに、廃棄されてしまう野菜や果物の皮の粉末と顔料を配合している点です。素材すべてが天然由来のため、子どもが口に入れてしまっても安全なうえ、食品ロスの削減(SDGs目標:12)にも貢献しています。
色は、ホウレンソウやネギ、パプリカ、ムラサキイモ、リンゴなど、利用されている野菜の名前が使われています。また、これまで10色(おやさいクレヨン・スタンダード)の中に青色がなかったため、発売10年を機に内容をリニューアル。藍染用の藍色を取り入れたクレヨンセットが販売される予定です。おやさいクレヨン以外にも米油とライスワックスを主成分とした「おこめのクレヨン」や花の粉末と蜜ろうワックスが配合された「おはなのクレヨン」も販売されています。
【写真説明】米油とライスワックスを主成分とした「おこめのクレヨン」(左)と花の粉末と蜜ろうワックスが配合された「おはなのクレヨン」(同社提供)
・原材料の調達から製造、出荷までOEMを活用
クレヨンの製造は、東一文具工業所株式会社(愛知県名古屋市)にOEM[1]として委託しています。ライスワックスや野菜の粉末など4種を溶かした原料は手動成形機に流し込まれ、十分に冷やされたあと職人の手で押し出されます。流し込みから温度管理、押し出しまで、すべての工程が手作業で進められています。完成したクレヨンは岐阜県内の障害者就労施設で、クレヨン磨きからパッケージの組み立て、梱包が行われ、市場に送り出されます(SDGs目標:8)。製造についてはJIS規格に沿った工程で生産され、安全性の基準検査に...
【写真説明】原料の流し込みから温度管理、押し出しまで、すべての工程が手作業で進められています(同社提供)
企業とのコラボやイベントを通じた地域貢献
同社では、おやさいクレヨンのようなアップサイクル[3]以外に、イベント開催を通じた地域貢献にも力を入れています。
最近では、青森県産農産物の加工・販売を行うJAアオレン(青森県農村工業農業協同組合連合会)において、リンゴジュースの生産時に出た残渣(ざんさ)と古紙などを配合した「青森りんご スケッチブック」を開発したほか、同様の工程で生産された「有田みかん スケッチブック」を販売しています。
【写真説明】リンゴジュースの生産時に出た残渣(ざんさ)と古紙などを配合した「青森りんご スケッチブック」(同社提供)
これら原紙は様々な加工が可能なうえ、アップサイクルとしての付加価値も付くため、企業の記念品やノベルティとしても利用されています。例えば、岡三証券株式会社(三重県)では、特産の長ネギを使ったスケッチブックを、ハウス食品グループ本社とは、スパイス製造時に発生した不適合品を原料としたクレヨンを共同開発しています。
一方、地域貢献活動では2016、17年に青森県立美術館で「100人のおやさいクレヨン画展」を開催。おやさいクレヨンを使い、国内外の作家100人が描いたクレヨン画を展示したほか、ダンボールや壁に貼られた模造紙に子どもたちが思い思いの絵を描くワークショップが行われました。同様のイベントはシンガポールでも開かれ人気を博したそうです。また、国内各地で塗り絵コンテストのほか、食品ロスを学ぶ講座などが行われています。
【写真説明】全国各地で同社のクレヨンを使ったぬりえコンテストや体験会を開いています(同社提供)。
現在は、ダンボールなどの包装資材に廃棄野菜を配合した新製品を開発し、拡販に向けた準備を進めているという木村さん。アップサイクルを軸に、これからも地域課題の解決や親子の時間をデザインするための取り組みは続きます。
記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂
【用語解説】
[1]OEM:Original Equipment Manufacturingの略。他社ブランドの製品を製造すること。
[2]CEマーク・EN71-3:2013:EUで販売される指定の製品がEUの基準に適合していることを表示するマーク。EN71-3は、玩具の安全性-特定元素の移行として、玩具製品中に重金属類が、接触や誤飲により健康影響を与えるレベルで含まれているかどうかについて調べる試験。※mizuiro株式会社サイトから引用。
[3]アップサイクル:廃棄物となる資源に手を加えることで、もとの価値より高い新たな製品に生まれ変わらせる方法。
【会社概要】
名称:mizuiro株式会社
所在地:青森県青森市
HP:https://mizuiroinc.com/