◆ ハードからソフト・ソリューションへの潮流は本質か?
コロナの影響で多くの事業が縮小や撤退に追い込まれました.複写機事業などのオフィス機器は、在宅勤務の浸透でその需要が改めて問い直されました.ペーパーレス化の方向性は織り込み済みですが,それが当初の想定よりも速いペースで進むことになったわけです.
そして,複写機やプリンタのような単体ハードを売る事業が厳しい状況になる一方で,お客様企業の課題を解決するソリューション事業が伸びています.
実はこのハードからソフト・ソリューションへの事業シフトは2000年代に富士通で経験しております.富士通はハードからソフト・ソリューションへと経営の軸足を大きく変えた国内最初の企業であったと思います.その頃,技術の現場で何が起きたか,そしてあの頃,我々は何をすべきだったのかについて、今回は考えてみます.
何が起きのたか.一言でいえば利益貢献できない事業の縮小,撤退,売却です.
大型プリンタを富士ゼロックスへ,プラズマテレビを日立へ,半導体岩手工場をデンソーへ,化合物半導体を住友電工へ,などなど
私が所属していたハードディスク事業も媒体事業の昭和電工への売却などの様々な施策で撤退となりました.数千億円の売り上げ規模でしたから,社員に与えたインパクトは相当なものです.
朝,いつものように会社の事務所に着くと,全員が食堂に呼び出され,テーブルの上には転職案内のパンフレットがあり,早期退職の説明会が開催されたことを思い出します.多くの社員が社内での活躍の場を失い,社外に活路を見出すことになりました.
そのころの日本のハード系事業の国際競争力の低下は韓国や台湾などの新興国の台頭が要因であって,大規模投資ができなかった日本勢がコスト競争力で負けたのであり,技術で負けたのではない,というような論調が多くありました.ハード事業の主役は欧米から日本へ,そして日本から韓国や台湾,さらに中国へという流れは自然に感じますが,ハードからソフト・ソリューションへのシフトが本質的な解決策ではないと思っています.
ハードディスクで勝ち残った企業は米国のシーゲートとウエスタンデジタルです.
両社ともハードディスク専業メーカーでした.日立,東芝,富士通などの総合電機系の方が専業企業よりもリスクが低いと思っていましたが,日本勢は彼らに勝つことができませんでした.そしてハードディスクなどの回転デバイスから半導体個体デバイスへの大きな流れの中で,かつてハードディスク専業メーカーであったウエスタンデジタルは今では半導体企業としての国際競争力も獲得するに至ってます.
半導体製造の心臓部であるステッパーもかつてニコンとキャノンが市場を独占していましたが,今はオランダのASMLが市場を独占しています.単純な投資競争で負けたのではない欧米も,ハード事業でしっかり生き残っているという事実を認識する必要がありま...
ハードからソフト・ソリューションへの潮流は本質か?(その2)に続きます。
【出典】QECompass HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏)