経営マネージメント、お客様の期待を超えることが組織の目指す方向

  
【目次】

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    今回は、品質工学会主催の企業交流会で,参加者に最も大きなインパクトを与えた未来工業の山田社長の講演からの振り返りです.ホウレンソウ禁止,終身雇用,70歳定年など,多くの日本企業が取り入れているひと昔前の北米企業の合理主義マネジメントと真逆の経営マネジメントを実施して,業界トップの利益率を実現している未来工業です.

     

    1. 未来工業のマネジメントの本質

    未来工業のマネジメントの本質は以下にあります.

     

    ほとんどの日本企業は馬(社員)の顔の前にニンジンをぶら下げて,一番早くゴールに到達した社員に報いるマネジメントを採用しています.未来工業はその逆で,最初に社員全員に美味しいニンジンを与えて,全社員に気持ちよく走ってもらうというものです.普通の会社が実施している成果に応じて報酬を与えるやり方の根底には性悪説があるように感じます.最初に全員にニンジンを与える方法は性善説の発想です.

     

    では「成果を上げた社員に報いるマネジメントを実施し,経営トップから一般社員までそのルールにアジャストしてしまっている日本企業が,未来工業流のマネジメントを取り入れれば社員のやる気が急上昇して,業績が向上するのか??」という疑問がでてきます.私はそれはあり得ないと感じていました.そこで企業交流会の総合司会の特権で山田社長に質問をしたところ,やはり予想どおりの回答でした.あるイベントで山田社長が講演をされたとき,司会を務めていた経営コンサルタントの方が,会場の参加者に「皆様の会社が未来工業のマネジメントを実施したら逆効果です」と発言したそうです.

     

    未来工業の経営スタイルは日本企業が目指すべき理想の姿の一つであると思います.ただし,このマネジメントを機能させるためには前提条件があると思うのです.それは,経営...

    者と社員の信頼関係,チームワーク,内発的動機付け,等々の組織文化なのではないかと思うのです.これらは簡単に短期間で実現できるものではありません.中長期視点での取り組みが必要でしょう.これこそが他社が真似できない最高の戦略だと思います.

     

    2. 未来工業の経営理念とは

    未来工業の経営理念である「社員全員が常に考える」について考えてみたいと思います.

     

    常に考えると似たような経営理念を掲げる企業は少なくないでしょうが,ここでも未来工業の”考える”は一味違うと思うのです.例えば,製品設計段階で試作品を作り,品質評価をしたところ不具合が顕在化したケースで,その原因を考えるのは当然のことであり,こういう意味での考えるを日常的に実施するのは当然のことでしょう.しかし,このような見えている問題を分析するような帰納的なアプローチや,理論から結果を推定する演繹的なアプローチの次元を超えた”考える”を実践しているのが未来工業だと思います.

     

    それはお客様のニーズを考えることであると思うのです.ここでのニーズはお客様が言葉にしない,あるいは気づいていない潜在ニーズです.実際に製品を使ってみて見えてきた不具合,つまりクレームに対応するのであればニーズを考える必要はありません.帰納的あるいは演繹的なアプローチで考えて不具合現象を把握し,対策を打つことで問題を対策できます.未来工業の”考える”はそのような次元ではなく,お客様の利用シーンの想像し,さらにシーンから真のニーズであるVOCを創造し,最後にVOCを実現する技術手段を考案する.この想像,創造,考案の3つのステップを”考える”と表現しているのだと思うのです.これができるからこそ,提案型の事業が実現し,会社が成長するのです.

     

    最近はAIやビッグデータのような流行りのツールと使えば,お客様のニーズを抽出できると思われている方が多いと感じますが,私はそのような魔法のツールは存在しないと思います.

     

    このことをソニーのウオークマンで考えてみます.当時は自宅の中でカセットテープレコーダで録音した音楽を聴くスタイルが当たり前でした.その当時に,仮にAIツールが存在していたら,お客様の発言に関する膨大な言語空間から「この製品は音質はいいけど,大きくて重いな」という情報を抽出することは容易でしょう.このようなお客様の生の声を原始情報と呼ぶことがあります.この原始情報を,何も考えずにそのまま受け入れてしまうと,実現手段は小型で高音質のスピーカーを開発するという方針となり,各社横並びの当たり前の製品しか提供できなくなってしまいます.これは提案型の製品とは言えません.

     

    この原始情報からシーンを想像し「外で歩きながら高音質の音楽を聴きたい」という真の潜在ニーズのVOCを創造できれば,その手段としてのウオークマンを考案できる可能性が高まります.これを全社員が実践しているのが未来工業です.信頼ベースの社員の自律と同様に,そう簡単に真似ることができません.これもまた、当たり前だけど気づかない,また簡単には真似できない経営戦略だと思います.

     

    未来工業がこのような経営戦略を実現できている大きな要因が,元々は劇団から出発した組織だったことではないかとも思うのです.劇団はまさに提案型の事業であり,お客様からストーリーや振り付けを聞いて,それを忠実に再現するようなアプローチではお客様に感動を届けることはできません.お客様の期待を超えることが劇団という組織が目指す方向であることは当然のことのはずです.多くの企業で当たり前となっている,お客様企業やお客様からの要求に対応した製品を提供するビジネススタイルでは事業を成長させることができない,そのことはおそらく劇団文化の未来工業からすれば当然のことのように見えると思うのです.

     

    【出典】QECompass HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

    ◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏

     

    ◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

     

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