クリーンルームに入る時には防塵衣(クリーンスーツ)を着用します。この時、管理監督者からも、きちんととか、ちゃんと着ましょう。ということが強調され、そう言っただけで指導したと認識している場合もあると思います。その前に、なぜ防塵衣を着るのかということをきちんと教えてあるでしょうか。
1.過去の事例から
ある工場でクリーンルームを改造することになったが、工事費をできるだけ抑えたいということで、工場周辺の色々な業者を集めました。ところが、その業者はクリーンルームに入ったことも無ければ、見たこともないということが分かりました。
経理や管理部門などが電卓を叩いて得られた数字で、契約先を決めてしまったということです。本来はコスト優先ではなく、品質も含めて検討する必要がありますが、机上の計算で得られた数字で、ツルの一声という場合もあります。
技術や品質など現場と繋がっているところも含め、全体で検討すべきことですが、トップが決断してしまってからでは、なかなか話を戻すことは容易ではありません。結局、工事に入る時点で技術、品質メンバーが心配し、クリーンルームについて簡単な説明会をするよう私が呼ばれました。契約は現状のままで、少しでもレベルを上げようとしたのでしょう。
具体的な説明の前に、業者の皆さんに、防塵衣は何のために着るのかと聞いたところ、クリーンルームの中では、危険な薬品やガスを使っている。それらから身を守るために着用するのだと理解している人が多かったようです。どうも、「なぜ」の部分からきちんと説明し、ある程度理解してもらう必要性があると感じたので、「なぜ」を強調した説明から始めました。
私も、子供が幼稚園に入る前の小さい頃、「カエルはどうして跳ねるの?」と聞かれたことがありますが、カエルは跳ねるものだ!とも言えずに困ったことがあります。身の周りには、「なぜ」を考えないで当たり前になってしまっていることがずいぶん多いようです。ただそれに気が付かないのです。
防塵衣はなぜ着るのかということですが、クリーンルームの中では、わずかなゴミでも製品の歩留まりや品質を低下させてしまいます。そのゴミは人から発生するものが最も多いのです。“クリーンルームでは人は最大の発生源汚染源”と言われます。
人から発生したゴミをクリーンルームにまき散らさないよう、品質に影響させないよう着用するのが防塵衣です。しかし着用の仕方で、防塵衣からゴミが漏れてしまいます。そこで、きちんと着ましょう。ちゃんと着ましょうと言うことになるのですが、この「なぜ」が省略されてしまっているのです。
クリーン化だけではないのですが、何か指導、教育する時に、大切なことを落としていないか。省いていないか、「なぜ」をきちんと教えているかということに着目しておきましょう。これを意識した教え方をするか否かで、理解する力(深さ、広さ)も変わってきます。
2.「なぜ」の説明、そして考えさせること
指導の入り方の順序を考えましょう。特に、「なぜ」を説明したり、考えさせることが大切です。防塵衣には、クリーンルーム内でゴミをまき散らさないことを考慮した設計思想があります。その設計思想を生かした着脱順序を守ることで始めてその効果があります。
主題の、「なぜ防塵衣を着るのか」を明確に説明し、理解してもらうことで、その次のきちんと着るということや防塵衣の着脱順序を説明すると理解が進みます。ただ白いものを着て安心してはいけないということを、順を追って説明し、理解してもらうことが大切です。「なぜ」を理解することで、ルールを守るようになります...
。そして本来の目的である発塵を抑えることに繋がります。
防塵衣のことを無塵衣という場合もありますが、ゴミの出ない服ではありません。防塵衣はなぜ着るのかを理解し、着脱順序を守ることで、発塵を少なくするのであって、
決してゴミが出ない服ではありません。従って私は無塵衣という表現をしないことにしています。
最先端のクリーンルームでは人がゴミの最大の発生源、汚染源であるということを考慮し、クリーンルーム内へ配置する人を減らしています。その代り合理化、効率化を進め、人がやっていた作業をロボットや機械での作業、搬送などに置き換えています。このようなことにも理解が進むと考えます。
言われたから、指導されたからという受け身ではなく、「なぜ」を教えること、「なぜ」を考えることで行動に繋がります。管理監督者は、「なぜ」を教えられることが出来る努力が必要です。