人的資源マネジメント:意味づけする脳 (その1)

1. 「意味づけ」をやめることができない人間

 
 今日は朝起きてからどんなことを思いましたか?
 
 いきなり変な質問で失礼しました。今日はどんなことがあって、それによってどんな気持ちになったのかを、ちょっと思い出してみてくださいという質問です。起きて家を出るまでどんなことがあってどう感じたでしょう。会社に着くまでにはどんなことがあり何を思ったでしょう。会社に着いてからはどうだったでしょう。
 
 思い出してみると、「今日は雨が降ってて憂鬱だな。会社行きたくないな」とか「電車また遅れてるよ。ツイてない」とか「あの人と一緒はいやだな。後にすればよかった」とか、ちょっとしたイヤな出来事で気持ちが沈んだことがあったのではないでしょうか? また反対に、天気が良くて「よし、今日もがんばるぞ」と気分がよくなったり、気になってた人から声をかけられて「今日は調子がいいぞ」とウキウキしたりしたかもしれません。
 
 自分の気持ちが、天候や交通事情などの環境の影響や、好き嫌いや言われた言葉などの他人の影響という、自分ではどうしようもない外部状況によって、左右されていることが多いことに気づくのではないでしょうか。これは、外部状況に対して意味づけをするという人間が持っている基本メカニズムのひとつで、太古の昔、外部状況に対して、それがどういう意味を持つのかを正しく判断しないと生死にかかわることから備わったものだと考えられます。また、基本的に生死にかかわるリスク回避が目的ですから、保守的、あるいは、ネガティブな意味づけになる傾向があります。
 
 この外部状況に対する「意味づけ」は非常に強力で、人は意味づけをやらずにはいられません。天気の良し悪しは単なる自然現象ですし、電車が遅れたり信号が赤ばかりなのはたまたまです。ツイテルわけでもツイテナイわけでもないのです。その事実に淡々と対応すればいいだけです。また、他人のことはいくら悩んでも、その相手はこちらの感情にまったく関係なく過ごしているわけで何も変わりません。それなのに、人はネガティブな意味づけをして自分のココロの状態を悪くしてしまいがちです。必要のない意味づけはやめて、気分良く過ごしましょう。
 
図10. 意味づけする脳
 

2. わかっていないのは意識だけ

 
 この意味づけは脳が行っている処理で、出来事を理解するために「意識」を作っているわけです。この意識について面白い脳科学の実験があります。次のようなルールでゲームをやってもらい、被験者は点数に応じて賞金をもらえるとします。
 
 ・ゲームをやる前にランダムに1円と100円のコインが表示される
 ・1円が出たときは点数どおりの賞金
 ・100円が出たときは点数の100倍の賞金
 
 100円のときはやる気が違うので、MRIで脳の活動を調べてやる気がどこで生まれるのかを調べた。その結果、やる気に関与する脳部位は「淡蒼球」であることがわかりました。次に、1円か100円をほんの一瞬だけ表示するサブリミナル映像で見せることにしました。実験者は「どっちが出たかわからないから気合いの入れようがない」と不満を言っていたにもかかわらず、脳の反応を調べると100円の時は淡蒼球がちゃんと反応していることがわかりました。
 
 さらに、ゲームをやるときのコントロールパッドを握る手の握力を測定してみると、100円のときは力が入っていることがわかりました。驚いたことに、「意識」は1円なのか100円なのかわかっていないけれど、淡蒼球という「無意識」はちゃんと反応しているし、身体も1円なのか100円なのかわかって反応しているわけです。つまり、無意識も身体もわかっていて、知らない...
のは意識という自分だけということになります。
 
 もっというと、わかっていない「意識」が1円か100円かという事実を知るためには、自分の手を見て力が入っているかどうかを確認すればいいということになります。これは、意識として認識できるというのは、外部で起きている事実を直接判断しているというよりも、自分の手や皮膚などの身体に表れた変化を観察して認識している可能性が高いということです。意識は、無意識や身体が感じ取った事実を観察し解釈しているわけです。
 
図11. 意識は後付け
 
 次回は、「ココロの状態は自分で決めることができる」を解説します。
 
  
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者