『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、『全体観』のその1です。
1. 全体観を持って判断せよ
さまざまな分析が有効であるためには、全体観が不可欠です。分析だけからの結論に基づく行動は危ういでしょう。全体観を養うためには、どのような考え方や行動が必要でしょうか。個々の症状に惑わされずに根本原因をつかむことです。全体観について、吉田耕作氏は「全体最適を目指す経営にとって、求められるいくつかの要素のうち最も重要なものである」としてその著書『統計的思考による経営』(日経BP2010年)で述べています。
日本で仕事の達人と呼ばれる人は、全体観というものを持っていたと思います。全体最適とは、何らかの評価指標があってこその最適ですが、全体観にはそのような評価指標はなく、もう少しアバウトなものでしょう。便利な概念だと思います。全体観で表現することは、他人や組織に気を配るということにも通じることなので、仕事を進める上で大切です。
業務の背景を正しく理解したり、問題や課題の全体像を把握したりするときには全体観が重要になってくるのです。ある目的を達成するまでの道筋(プロセス)を描くときには、この全体観というものが欠かせないのです。欧米の思考は基本的に分析的であり、部分の総和が全体であるという考え方が基本にあります。一方、日本では、基本的にはまず全体があるとの考え方です。全体観は、ビジネスの感覚として失ってはならないもののひとつであるでしょう。
2. 問題と症状
「問題」という言葉は「症状」という言葉に置き換えるとわかりやすいのです。つまり、問題だと思ったら、それは症状ではないかと言い換えてみることです。病気が一番わかりやすい例です。インフルエンザは、高熱が出れば熱さまし、咳が出れば咳止め、関節の節々が痛くなれば貼り薬という対症療法では治らず、「インフルエンザ」という診断が必要です。治療には専門の薬がなければ治らないのです。対症療法のことをモグラ叩きともいいます。いくら叩いても根本を治していないからいくらでも出てくるのです。つまり何かが起こったらその根本原因をつかむことが重要ということです。
これは全体観ということから出てくる発想であり、モグラ叩きの対症療法では完治しないのです。「問題」の定義は何か。それは「あるべき姿と現実の姿のギャップ」です。出てくる問題、つまり問題だと思っていることは、実は単なる症状のことであったりするのです。たとえば、吹き出物が出るのは問題というよりも何らかの症状です。症状そのものに対処するのではなく、その原因を追求しなければならなくなります。問題に対して「課題」という言い方もされますが、これは意味が違って、課題とは、問題を何とかしようする場合の「アクション」のことです。その意味で問題とは状態です。状態ですから、現在の状態を共有することから始めなければなりません。そして、本来あるべき姿を共有し、現状とあるべき姿とのギャップを共有するのです。ここで初めて問題を共有することができることになります。
たとえば「汚れているじゃないか」という場合、部屋がきれいでなければならないというあるべき姿があります。ところがそんなことどうでもいいと思っている人にとっては、汚れている今の状態は問題でも何でもないのです。一方、課題というのは「きれいにする」という具体的なアクションを言うから、状態とアクションの両者はまったく違うものです。ところが日本では問題と課題がごっちゃにされても許されています。「それは私の問題です」と言った場合には「それは私のやるべき課題です」という意味になる場合もあるのです。
3. ボトルネックに対処する
ボトルネックとは、その名のとおりビンの首のこと...