1. 物流はモノと情報を運ぶ
サプライチェーンマネジメントという言葉が一般的になりました。モノを調達し、それを加工し、運搬してお客様にお届けするまでの全体の管理のことを指します。この中において、物流はモノの流れを俯瞰できる立場にあります。今、どこで、何が起きているのかについて瞬時に認識できる立場にあります。なぜなら物流は工場の中を縦横無尽に動き回って仕事をするという、特殊なオペレーションをしているからです。この立場を有効に活用しない手はありません。ですからどこかで問題が発生した場合、その状況を関連部門へ運ぶ、つまり情報を運んで問題が大きくなることを防ぐことに貢献できるのです。物流というと、その名前からモノを運ぶことだと理解されがちです。しかし実際にはモノと情報を運ぶことが物流の仕事であるという認識に立つべきでしょう。この立場を活用することで、物流の付加価値を大幅に拡大することができます。その付加価値は一言で言うと「生産統制」ということになります。
生産統制というと一般的に生産計画を立案し、その通り実行できるようにコントロールすることです。したがって生産管理部が作成した生産計画を生産現場に提示し、その実行の統制は生産現場に委ねられていることが多いようです。もちろん、自律的な生産運営を実行していくことが望ましい姿ではあると思われます。ですから生産現場では生産計画を遵守し、秩序ある運営を行っていくことが求められます。しかし実際にはそのようにできていない現場がたくさんあります。その実態を生産管理部も把握していないケースが見受けられます。生産管理部は計画を提示したらあとは現場任せ、になってしまっていませんでしょうか。生産現場ではさまざまな運用を行っています。その中には望ましくないような行為も含まれています。たとえば生産計画外の生産。本日の生産計画は100台、明日の生産計画も100台というように提示されているにもかかわらず、本日に明日の分もまとめてつくってしまう。このようなことが実際には発生しているのです。これは先行生産と呼ばれるものですが、いくつかの弊害が生じる可能性があるのです。
2. 物流が先行生産を防止する
「遅れは許されないが先行は問題ない」という考え方は間違っています。先行生産は一時的な在庫増や置場、容器などの物理的影響と共に、それを管理する工数が必要になるからです。そうは言っても長年しみついた習慣はなかなか変わるものではありません。生産進捗を生産現場だけに任せておくと、安心のための先行を行ってしまう事も発生します。ここで物流の出番です。物流は工場の中を走り回り、モノと情報を届けています。この機能を活用して生産統制をすることができないかを考えてみましょう。生産工程が物理的に先行できない仕組みを考えます。皆さんも考えてみて下さい。生産工程が先行できないようにするために物流ができることとは何かを。
生産工程は4Mをベースにものづくりを行います。その4つのMとは人(Man)、モノ(Material)、設備(Machine)、方法(Method)です。この内「モノ」に注目します。では生産工程でのモノとは何でしょうか。それは部品や資材です。これらのモノを使って加工や組立を行うのです。一方で物流はこれらのモノを生産工程に届けることが仕事です。ではどのような届け方をしているでしょうか。生産計画が80台だとしたら、必要な部品はいくつ届けていますでしょうか。仮に6部品で1製品を組み立てている生産工程を例に考えてみましょう。各部品1個ずつ使う条件です。部品Aは「90個」、Bは「120個」、Cは「100個」、Dは「120個」、Eは「60個」、Fは「90個」それぞれ容器に入れられてサプライヤーから納入されています。では皆さんはどのようにしてこれら6部品を工程に届けますか。条件は「先行生産」をさせないことです。いくつかのパターンが考えられます。多くの人の回答は「80台分」だけ納入容器から取り出して届けるということです。そうですね、必要分しか届けませんから、このケースでは80
台を超えた生産はできません。つまりこの方法で生産統制は可能となるのです。また、物流サービス水準を向上させ、1台分のキットで届けるという回答もよくあります。AからFの部品を1個ずつ取り出してトレーに載せて届ける方法です。これはとても望ましいやり方だと思います。物流はサービス業ですから、お客さんの喜ぶサービスを提供することが必要です。
3. 付加価値物流への変化
物流が仕事の仕方を工夫することで、工場での生産統制に寄与できることがお分かりいただけたのではないでしょうか。これは当たり前のことかもしれませんが、物流が生産工程にモノを届けるときには「必要なモノを必要なだけ」届ける必要があります。しかし現実的にはサプライヤーから納入された部品等を納入荷姿のまま、生産計画数を下回らないような分を届けています。物流のサービスレベルの低い工場では、生産工程のラインサイドに納入されたすべての部品等を置いてあるのを見かけます。しかしまずサービスありき。生産工程に余分な動作が発生しないような届け方をする必要があります。1台分をキット化して届けることが理想ですが、生産統制だけを行う場合はもっと容易なやり方があります。前項の例でいけば、部品AからFの内、1部品だけを80台分取り出して届けるというやり方です。たとえば、Eは「60個」入りですが60個入り1箱と20個の端数...
を届けるという方法です。やや手抜きのやり方ではありますが、これでも生産統制は可能です。なぜなら製品は部品が1つでも欠けていれば組み立てられないからです。
物流工数が十分でない工場ではこのようなやり方でも問題ありません。しかし徐々にレベルを上げていくことが必要であることは言うまでもありません。では別のやり方はないでしょうか。実はもっと簡単な方法があるのです。それは完成品を入れる容器でコントロールするという方法です。仮に完成品容器が20台入りだったとしましょう。今回の事例では生産計画は80台です。ということは必要容器数は4個です。つまり物流は完成品を入れる容器を「4個だけ」届ければよいのです。仮に生産工程が90台生産できる余力を持っていたとしても、容器が80台分しかありませんのでここで生産統制がかかるということです。いずれのやり方を採用するにせよ、届けるタイミングは生産計画上の生産着手の直前であることには注意が必要です。あまり早く着手しすぎても一時的な在庫となるだけですから。いかがでしょうか。物流は「モノと情報を運ぶ」ことが目的ではなく、それを手段として生産統制を行うことが役割だと考えましょう。このような物流を付加価値物流と呼びます。言われたことを行うだけの物流から、自ら生産統制を行っていく高機能物流へと変化していきたいものです。