人的資源マネジメント:モチベーションとは(その1)
2017-09-29
会社や組織レベルでいろいろな取り組みが行われ、個人の能力向上が行われています。一方で、開発現場では、一人ひとりの能力の 50% も引き出せていないのではないかと思います。今回は、モチベーション・コンサルティングを通じて感じたこと、考えたことをお伝えしたいと思います。現場の「やる気」を引き出すための何かしらの気づきを共有できればと思います。
モチベーション・コンサルティングは、前回の図37で紹介した5段階のステップからなります。その中でも、モチベーション・コーチングは、モチベーションの源泉が一人ひとり違うこと、解決したい問題も一人ひとり違うことをいつも認識させられます。意識改革というのは簡単ですが、結局は一人ひとりと向き合うことが大切なのだと思います。
この表はあるメーカーでモチベーション・コーチングを実施したときのテーマです。13人を対象に解決したい問題は何か、何がやる気を阻害しているのかをそれぞれに聞いた結果なのですが、一人ひとりに個別のアプローチが必要なことがわかります。分類の欄にある「案件」とは担当しているプロジェクトなど直近の課題、「現職」とは担当している仕事や役割全般の課題、「キャリア」とは3~5年後の将来についてという分類です。この分類で興味深いのは、目の前の問題が気になっている人もいれば、自分の仕事全般が気になっている人もいれば、自分の将来が気になっている人もいるというように、見ている範囲、時間も違うということです。
モチベーションのように個人の意識やマインドに関係することは、見ている範囲や時間、解決したいと思っている課題が一人ひとり違うのですから、組織方針の徹底やスキルアップのための集合教育などでは大きな効果は期待できないことがわかると思います。
実際、「案件」を気にしている人に対して、3年後の目指すべき姿やいわゆるビジョンを強調したり、明確にしたりしても効果は薄いのです。彼らに必要なのは、常に今自分が抱えている開発業務や仕事を、自分が満足できる形(やり方)で取り組むことだからです。反対に、「キャリア」を気にしている人に対して、今のプロジェクトや今抱えている業務についてその価値を強調したり、課題を聞いたりしてもやる気にはつながりません。彼らが必要としているのは、自分の将来に対する確信であり、進むべき道についてのアドバイスなのです。
「案件」「現職」「キャリア」という分類でみても、個人によりモチベーションに関する傾向の違いがあることがわかったと思いますが、もっと個人にフォーカスするとモチベーション向上について傾向があることがわかります。ご紹介しましょう。モチベーション・コーチングでは、原則として一人3回のセッションを実施します。3回のセッションを通して同じテーマの人もあれば、途中でテーマが変わる人もいます。
図39はある6人について、それぞれのセッションで扱ったテーマを並べたものです。この6人は「キャリア」がテーマの中心となっていることがわかりますが、共通しているのは、ありたい姿が彼らのモチベーションの素になっているということです。ただ、そのありたい姿が漫然としたものなためモチベーションにつながっていないのです。モチベーション向上には、納得感を伴いながら自分の将来像を具体化することが大切になります。未来志向といってもいいかもしれません。
図40は別の5人についてのセッション・テーマです。この5人は「案件」がテーマの中心となっていることがわかります。彼らに共通しているのは、自分が今抱えている課題を解決したいという思い...
が強いことであり、一つひとつ解決したという成功体験の積み重ねがモチベーション向上につながります。そして、その解決したという成功体験のポイントは自分らしさが発揮できたかどうかです。モチベーション向上には、自分らしさを明確に認識できて、自分らしく行動できることが大切なのです。自分らしさを積み重ねることという意味では、過去指向といってもいいかもしれません。
モチベーション向上の方法には、このように大きく2つの傾向があります。モチベーション向上を考えるときには、一人ひとりについてどのようなタイプなのかを知ることと、そのタイプにあったアプローチを取ることが大切なのです。
次回は、自分の居心地がよい環境のこと「コンフォートゾーン」についてです。