時代とともに変化する自社のボトルネック補強は社長の重大任務であり、企業の収益力を伸ばし成長を加速する一点のみへ集中することが効果的です。ここでは某試作部品メーカーでの事例をご紹介します。
1.ボトルネックとは
道路工事や交通事故があると交通渋滞が起ります。これらは本来円滑な道路交通のボトルネックです。ベストセラーになった企業小説「ザ・ゴール」では、「システムはその最も弱い部分の能力で制約される」と述べられ、「制約の理論」と呼ばれています。
製造ラインでもどこかに能力の低い工程があるとそこがボトルネックとなり、全体の能力はその低い能力に制約されてしまいます。「制約の理論」はとりたてて「理論」と言わなくても我が国のものづくりの現場ではよく理解されているといえます。能力の低い工程に対しては、全体の足を引っ張らないように適切な対応がなされます。
製造工程のボトルネックは、誰にでも見えるのでわかりやすいことが多いのですが、企業全体のボトルネックは注意しないと見えにくいことがあります。そこに気づかずに対応が遅れると、そのボトルネックが原因で収益力や成長そのものが停滞することになりかねません。
2.ボトルネックが原因で売上が停滞し始めたA社の事例
A社は大手製造業向け試作部品専門のメーカーです。製造部が主体のシンプルな組織で、その中に営業課があります。オーナー社長のカリスマ営業で創業30年順調に業績を伸ばし、安定した経営を続けてきましたが、ここ2~3年、売上目標の未達成が見られるようになりました。 業界では、バーチャル試作の進行という大きな流れがあり、試作部品は減少または廃止の傾向にあります。現状のままでは、売上の減少は目に見えています。その対応のひとつとして、A社ではアジアB国に海外拠点を立上げました。いまはB国の大手製造業を顧客として獲得し、順調に稼動しています。
それでも、国内の売上目標の未達成が気になります。目標未達成の内容は、実質的な売上の減少です。営業課の陣容・人数はここ数年ほぼ変わらず、必要があれば製造部からの異動で対応していました。このままではまずいと社長から相談を受けた我々は、ボトルネックが営業にあると考えました。
3.見えにくいボトルネック
調べたところ、営業の役割は創業以来ほとんど変わっていませんでした。特に彼らが多くの時間を割いているのは、受注仕様の社内への展開、詳細仕様の顧客への問合せと確認、納品前最終検査の立会い、顧客への納品業務などでした。これらの業務は製造の知識・経験がないととてもこなせません。それでA社の営業課員はすべて製造部の経験者でした。製品の複雑化と種類数の増加が創業時と比べて格段に進行しており、そのために、経験者とはいえ営業課の負担が増えていました。結果として、新規顧客開拓や既存顧客からの受注促進など「営業でなければできない業務(正味営業業務)」に割く時間が30%程度に低下していたのです。売上確保の原動力となる「正味営業業務」で言えば、営業課員が3人いても1人しかいないのと同じことになっていました。
創業時は社長の営業力が威力を発揮していましたので、ボトルネックはつね...
4.社長でなければできないこと
企業の成長や市場環境の変化で、企業のボトルネックは刻々と変化します。どうも何かおかしいと感じたら、ボトルネックが変化しているのではないかと注意してください。企業組織全体を見渡せる立場、社長でなければできないことです。