『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『論理的思考を強化せよ』の章、解説を進めています。
6. リスク対策
朝鮮半島を中立地帯としておきたい日本は、ロシアがそれでいいですよと言っていれば、日露戦争はひょっとすると、なかったかもしれないのです。ところが日露交渉の最後でロシア側は、朝鮮半島におけるロシアの行動は自由であると高飛車なことを言いました。それで日本は開戦を決意することなったのです。
当時の世界は帝国主義の時代です。リスク対策の観点から見ると、日露戦争は予防対策だったと私は思います。予防対策とは、予防注射が良い例で、病気にかからないようにするものです。日本が脅かされないようにするために、朝鮮半島をロシアの勢力圏でなく中立地帯にしたかったのです。そのような予防対策であったように見えます。イギリスにとっても同様で、ロシアの勢力拡大を予防する狙いがあったでしょう。
もう一つは、日露戦争が終わった後の、日露講和条約(ポーツマス条約)の内容に国民が憤激したことです。つまり、単に休戦になっただけで期待の大きかった賠償金は一切なかったのです。それに国民が怒って、暴動に近いものが起こりました。戦争で日本の国力も限界にきていましたが、それは国民には知らされていなかったのです。景気のよい戦勝報道ばかりだったそうです。その気になれば、政府が実態を国民に知らせることで騒動は防げたかもしれないし、もっと小規模に抑えられたかもしれないのです。
「転ばぬ先の杖」は、予防対策です。起こる事象の確率を下げるためのものです。お年寄りは転びやすいので杖を持たせれば転ぶ確率が減ることで、これは予防対策。発生したときの影響を緩和する対策もあるでしょう。「備えあれば憂いなし」は、実際に起こる被害や影響を緩和することの重要性を表しています。たとえば、火災保険。住宅ローンが残っているのにマイホームが全焼すると借金だけが残ってしまい、家計は破綻しかねない。火災保険はこの影響を緩和することができます。この2つのことわざは、現在のビジネスでも有効に活かしたいものです。
7. カンを養う
カンというのは、定義があまり確立していないのでここでは片仮名にしています。カンは、欧米では神様の仕事だという言い方もあるのですが、ここではカンの定義を畑村洋太郎氏の定義【注】を引用させていただく。筆者には一番しっくりしています。
畑村氏はカンを、フィーリングの「感」、見るほうの「観」の2つに分類しました。それぞれに「直」をつけて「直感」「直観」があります。論理的思考と非常に密接なつながりがあるのは、直観の方で、畑村氏はこれを「ショートカット思考」「飛躍思考」と説明しています。
飛躍思考の前に誰もが行う「逐次思考」があります。逐次思考とは、まず何かが起こると、これがこうなって、こうなるとこれがこうなる。ちょっとこのへんで枝分かれがあって、その次は…&hel...
lip;と、順々に全部を考えていくことをいう。チョコッと枝分かれが3つか4つあると、それだけで組み合わせはもうたくさんになります。何百通りにもなるようなことを全部考えて最後に、だったらこれがいいかなと結論を出す。何百通りかになる中からこれがいいかなというのは逐次思考です。
【注】畑村洋太郎『わかる技術』(講談社現代新書2005年)
【出典】
津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載。