『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『学習する組織をめざせ』の章です。活動するたびにいつも組織と構成員の成長があること、そのしくみが「学習する組織」です。それをめざすにはどうするのか、この章で解説します。
7. 個人が成長する
個人の成長は、優れた成果を得るためのけん引役になります。人の成長なくして、組織の目標を達成することは望めません。したがって、組織の目標を達成しようとすれば、人の成長を組織の目標にいれておかなければ組織の目標も達成しないことになります。しかし、企業では人材の育成とか個人の成長というテーマは、必ず組織課題のひとつに入れられるが、実際は本物になっていないようです。いろいろと目標管理に書くが、どうも本気で考えていない。考えていないとはそれをやらなくても仕事が進んでいくようになっているから、人の成長が組織の成長とセットになっていないことになるのです。
8. 組織が成長する
人が成長するしくみをつくるというときの成長とは、個人の成長と組織の成長の両方を指しています。そういう意味で、日本は人を育てる美風があるのにしくみづくりは下手だと思います。アメリカが大得意で、組織の成熟度を指数化するやり方があります。プロジェクトマネジメントでも成熟モデルというようなものがあり、情報システムの世界ではCMMI(Capability Maturity Model Integration)というものがあります。つまり組織がバラバラか組織的に優れているかを評価するので。このような商品があることは、個人技のみでは限界があり、組織力には勝てないということを示しています。
9. 組織力を示した七段構えの戦法
組織の成長の例では、日本海軍が目立っています。日露戦争における大きな海戦としては、黄海海戦と日本海海戦の2つがありました。黄海海戦は下手をすると敵艦隊を取り逃がすかもしれないところであったようです。作戦は大失敗かと思われましたが、当時、世界最新鋭の戦艦「三笠」の一弾が奇跡的にも敵旗艦の司令塔に命中し、これで何とか致命的な大失敗は免れたのです。このとき、まったく組織的活動になってないと反省をするのです。いろいろな人も責任を取って辞めさせられました。
次の日本海海戦では組織の成熟度で大きく進化しました。黄海海戦がバツだとすると日本海海戦は二重丸です。先の黄海海戦のとき、ロシア艦隊を危うく取り逃がしそうになったり、苦戦したりした経験から、日本海海戦では秋山真之の「七段構えの戦法」が考えだされました。実際には第2段から第4段までで終わるのですが、もし終わらなかったとしても第5段、6段、7段と続いてシナリオどおりに進めることができたと思います。同じ日本海軍でも黄海海戦のときとはまったく違い、黄海海戦のときは、単なる艦船が集まっているだけでしたが、日本海海戦のときは、機動的に組織として動けることが証明された日本海軍であったのです。
さらにここで注目したいのは、七段構えの戦法を考えたことはすばらしいことであるのは当然としても、その戦法を実...
行できる海軍の組織力の成長がすでにそこにあったということで、これを忘れてはならないでしょう。学習する組織には、個人の成長、組織の成長を引っ張るマネジメントの力など総合的な力が必要になってくるのです。東郷をはじめとする艦隊上層部は、明確な目標設定を行う一方、具体的なやり方は現場に任せるマネジメントでした。
次回も学習する組織の解説を続けます。
【出典】 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行 筆者のご承諾により、抜粋を連載
(その1)
(その2)
(その3)
(その4)
(その5)
(その6)
(その7)
(その8)
(その9)
(その10)
(その11)
(その12)
(その13)
(その14)
(その15)
(その16)
(その17)
(その18)
(その19)
(その20)
(その21)
(その22)
(その23)
(その24)
(その25)
(その26)
(その27)
(その28)
(その29)