前回は製品群(ラインナップ)を一括して開発する方法について紹介しましたが、今回は、テーマを技術者育成に戻したいと思います。
製造装置を開発しているあるメーカーで、約1年半の間、製品開発マネジメントの改善と合わせて、リーダーを育てる取り組みを実施しました。取り組みをはじめた当時は、リリースする製品を大幅に増やす組織方針にもかかわらず、プロジェクトを推進するリーダーが3人しかいないという状況で、リーダーを増やすことが重要な課題となっていました。それが、この取り組みにより技術者が目を見張るように成長し、8人に増えました。今回は、この取り組みを紹介したいと思います。
1. 経営層と開発現場のすれ違い
最近、開発現場を任されているシニアマネジャーからよく聞くのが、開発の仕組みづくりや改善を進めても、肝心の技術者が変わらないという不満です。
「技術者たちは口を開けて指示をまっているだけ」
「他社ではできるのにウチではできないのは技術者に能力がないからか」
「日本の技術者よりアジアの方が技術力も意欲も高い」
一方、技術者たちからは、成長につながらない仕事ばかりで、今後に希望を持てないという声をよく聞きます。
「とにかく納期順守で仕事を通じて成長できるとは思えない」
「失敗できないので経験を積んでいる気がしない」
「割り込みや雑用ばかりで集中して設計に取り組めない」
この製造装置メーカーも同じ状況で、ビジネスを拡大させたい役員や事業部長は、「いつまでも2〜3人のリーダーだけが前面に出て、あとの技術者は何をやっているのかわからない」「指示待ちばかりで成長しているとは思えない」と、現場の技術者が成長しないことを嘆いていました。
しかし現場の技術者たちは、明らかに無理のある納期を守るために、残業につぐ残業で生活リズムは乱れ、身体的にも精神的にも疲労困憊で、ポカミスやトラブル対応でバタバタしてその対応にさらに残業をするという、過酷な状況が続いていたのでした。
2. ネガティブ感情を生むプロジェクト
このメーカーでは、技術者の多くにとってプロジェクトを終えて残っている思いは、マネジャーやリーダー、メンバーに対する不満や不信感でした。
「口にするのはスケジュールを守れということばかり」
「相談しても何も解決してくれない」
「問題を指摘したら解決を任されてしまい仕事が増えるだけ」
これらは、プロジェクトメンバーのリーダーに対する不満です。そして、マネジャーやリーダーも同じで、それぞれの上司やまたメンバーに対する不満やいらだちが募るばかりでした。
「計画や見積を作らせても守れないばかりであてにならない」
「単純ミスによる手戻りばかりで調整が大変」
「指示しないと動いてくれない」
メンバーの不満は、リーダーやマネジャーだけでなく同じメンバーにも向けられていました。
「他人の尻拭いはもう懲り懲り」
「良かれと思って忠告したのに無視されるばかり」
「いつもレビューは長時間でグッタリ」
プロジェクトが終わったときに感想を聞いても、仕事に専念できない、実力を発揮できないというもどかしさや不満というネガティブなものばかりで、リーダーや...
メンバーに対しても、もう一緒に仕事したくないといっている人も少なくありませんでした。悲しいですね。
ここまでひどい状況ではなくても、開発期間短縮、コスト削減などの要求が厳しくなる一方の開発現場では、ここに近い状況となっているのではないでしょうか。当時、役員は技術者の意識が低いことが問題だと言っていたのですが、人の問題ではなく、環境の問題だといえるでしょう。
次回も、リーダーを育てる製品開発の解説を続けます。