日程管理の課題解決 伸びる金型メーカーの秘訣 (その7)

 いくつかの金型メーカーでは、技術面の課題もさることながら、日程管理に苦慮している企業が多いようです。これは、比較的長期に製造する新規の金型と、部品メンテナンスや試作品製作などの短期に対応する仕事がそれぞれ混在しているためであり、日々短期仕事の対応に追われ、長期の仕事については、納期遅れや外注対応が増えキャッシュアウトが増加する、といった問題が常時発生しているのです。
 

1. 日程管理の課題をどう克服するか

 
 筆者が支援しているS社は、溶接製缶業者ですが、この短期と長期の仕事が混在した日程管理にうまく対応しています。彼らが使っている手法を、筆者が支援している金型メーカーにも応用しているので、今回はこれを紹介します。
 

2. S社のコアコンピタンス

 
 同社の事業内容ですが、産業機械や輸送機械のフレームなどを扱う溶接製缶業者です。10メートルを超える製品など、非常に大型の製品を高精度に製作している点が特徴で、中には10メートルを超える製品であっても、1~2ミリの寸法精度に仕上げているものもあります。
 
 さらに同業他社と比較して短納期で対応できる点も特徴で、このため同社には多くの引き合いが集中し、その受注対応に日々追われている状況です。強みならではの課題をどう克服したのかですが、このように、高精度の大型製品を求める顧客は、同社が立地する愛知県のみならず、関東をはじめとして県外他地域まで及び、従業員18名の同社は、納期を堅守するため、短納期の仕事が日々飛び込んでくる日程計画に苦慮していました。
 
 多くの金型メーカーでは、長い納期の仕事と、短納期の仕事、それぞれの混合生産の管理に四苦八苦しています。短納期の飛び込み仕事に振り回され、長期の仕事がどんどん後回しになってしまうためです。しかしながら同社は、大胆な前倒しの日程計画を機能させ、その課題を解決したことにより、徹底した納期厳守と外注に依存しない生産体制の構築に成功しています。
 
 その方法は、「納期による管理ではなく、稼働率優先の管理を徹底すること」です。
 
 
 

3. 稼働率優先の納期管理とは

 
 稼働率優先で日程計画を立てると、極端な場合、来月着手すれば良い仕事であっても、材料がすでに入荷され、図面準備が揃っており、ちょうど空いた時間にピッタリ入るのならば、今月納期のものよりも先に着手することもあります。このように、先の納期の仕事であっても、事前に着手できることは徹底して前倒しで生産するのです。こうした稼働率優先の生産を行うことで、納期の直前に特急仕事が集中して飛び込んできても、事前に分散できる仕組みを作っています。
 
 逆に納期優先で管理した場合、納期に間に合うよう日々順調に生産していても、多くの中小メーカーの受注の特徴である、短納期の特急仕事が、納期直前に飛び込んでくるために、事前に仕掛っていても結局、納期に間に合わなくなるといった事態に陥ることが多いのです。
 

4. 稼働率優先の日程管理実行のポイント

 
 稼働率優先の管理を実行するポイントとしては、徹底した前倒し生産に徹することにあります。これには、現場担当者の理解と納得を得ることが必要で、前述したように、来月作れば良いものを、今わざわざ残業して作ることになるので、その意義を正しく理解しないと、「納期に間に合えばよい」と、個々で勝手に解釈し、たちまち計画どおりに生産する意欲が減退してしまうのです。
 
 そのためにはまず、「標準時間」の設定が有効です。標準時間とは、ある部品等について、一定の技量を持った者が製作するために要する計画作業(加工)時間のことです。この標準時間を設定することで、できる限り隙間なく、稼働率を最大限に高められる日程計画を事前にパズルのように立てやすくなります。
 
 ただし、金型製造のような多品種一品生産において、標準時間を都度いちいち算定するのは手間がかかります。しかし、会社の判断にもよりますが、経営を長期にとらえ、改善によって生産性を高めていくのであれば、こうした標準時間のような「ものさし」をキチンと設定していくことは重要です。
 
 標準時間を部品ごとに設定しておけば、日程計画をつくる時に有効であるし、加工後の予実管理を行い、改善に着手するターゲットを決める手掛かりにもなります。
 

5. 多品種一品生産の山積み・山崩し

 
 長期・短期の仕事が混在する金型メーカーにおいては、次のような計画の山積み・山崩しを行うことになります。
 
 ①部品・作業ごとの標準時間の設定(工数計画)、②その標準時間を使った1、2週間の日程計画の策定(山積み・山崩し)と実行、③特急品の飛び込みにより再び計画の山積み、④短期のみならず長期仕事の納期遵守もできる日程調整(山崩し)といったように、①~④を適宜行っていくことが、多品種一品生産の山積み・山崩しとなります。
 
 当然、飛び込み仕事の量が多い時には、③④の山積み・山崩しを次々行っていくと、日々の負荷量は増加するため、どこまで内製化し、どこから外注対応するか・納期調整を依頼するかの線引きを考える必要があります。また、この負荷量をどう減らしていくかが次の取り組み目標である「生産性の向上」であり、時間あたりの仕事量を増やせる改善や設備投資を行うことで、個々の作業者や機械の負荷を下げていくことができるのです。
 
 同社の現状は、山崩しした日々の負荷の高さが尋常ではなく、労務管理面でも規定内ギリギリで対応している点が今後の課題でした。
 

6. 今後の期待

 
 同社は、その高い技術力・短納期対応力などにより、強みを付加価値に転換できています。今後はこれまでの、図面を受け取りその図面どおりに製作するだけではなく、川上工程である設計か...
らの受注取り込みを推進しており、本年度においては、徐々にその売上シェアを高め、収益率も高める経営戦略をおし進めています。さらに同社は、強みである高精度の大型製缶品を製造する際に用いている自社製のオリジナル歪み修正装置を、今後外販していく計画もあるようです。
 
 同社で行った従業員アンケートの結果が印象的で、たしかに労務面で改善要望もゼロではなかったが、「会社に将来性は感じるか」の質問には、9割以上「はい」と答えていました。中小製造業の受注条件は、必ずしも有利とはいえないものが多く、そのしわ寄せが集中するのは製造現場です。同社が行う前倒し生産は、納期遵守ができる反面、従業員への負担も大きいでしょう。同社の経営者は、それを上回る将来ビジョンを随時従業員に伝えることで、その理解と納得を得る努力をしています。今後さらに、付加価値・生産性を高め、かつ負荷量の低い生産に改善していく同社に期待をするところです。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。  
 
◆関連解説『生産マネジメントとは』

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