1. 人材不足への対応
企業はどこでも同様ですが、環境変化に対応できなければ衰退していくばかりです。まだまだ科学技術の発展は続きますので、物流もそれに応じた形で変化していくことが求められます。最近の大きな変化は「人材不足」です。あらゆる業界で事務職を除き人材不足の状況にあります。私たちは重々承知していますが、この状況変化に対応できているでしょうか。この状況は一時的なものでしょうか。だとしたら臨時社員で対応することも考えられます。しかしかなりの確率で当面継続すると考えるべきだと思います。
なぜなら高齢化と少子化は日本の構造的な現象であるからです。物流関係の仕事では原則として外国人労働者を受け入れることは入国管理法で禁止されています。製造業では人員不足を外国からの「実習生」で賄っている会社が多数存在します。この是非はともかくとして、実習生が生産を支える貴重な戦力になっていることは間違いありません。
比較的生産性が高いといわれる製造現場でさえ人不足です。しかも製造現場の仕事に就きたいと考える若者は減ってきています。各社とも人が来てくれるような活動を行なっています。企業の魅力をPRしたり、会社説明会やインターン制度を活用したりして若者の注目を集めようとしているのです。
では物流を主業務とする会社はどうでしょうか。人材不足は製造業以上です。この要因はやはり仕事に魅力がない、危険だ、給料が安い、長時間労働などネガティブな要素がたくさんあります。しかし製造業に比べて人材不足の解消につながる「今すぐできる活動」が物流にはあります。それは生産性向上活動です。
たとえば倉庫内作業であればIE手法を導入して科学的に人に作業を割り付けたり、人のムダな動きを無くしていったりする余地が残されています。トラック運転者が足りなくなるといわれていますが、現時点でのトラックの活用度は4割程度です。荷台の6割は荷物を積んでいないことになります。つまりこの状況をとらえて活動をすることです。活動をする前から言い訳をして逃げている経営者がたくさんいますが、これはむしろ会社の自殺行為です。泥臭い努力、製造業では当たり前に取り組んでいる活動を着実に実施することで、物流現場の人不足はかなりの部分で解消が可能となるのです。
2. 輸送のムダへの対応
特に荷主、着荷主の方には最近のトラック運転者不足の傾向についてもっと敏感になっていただきたいと思います。物流における人材不足は大きな課題です。しかし荷主、着荷主と物流事業者が共同で改善していくことでこの問題の解消が可能になります。その一つがトラック運転者を本業に専念させる環境づくりです。トラック運転者の本業とはトラックにモノを載せて運ぶことにあります。
これ以外の作業があると、その時間だけ運ぶ時間が短縮されてしまいます。製造業では生産作業者がモノづくり作業に専念できる環境を整えることと同様、運転者にも専念させてあげたいものです。そこで荷主、着荷主の方にはトラック運転者にどのような作業を行わせているのかについて考えていただきたいと思います。たとえば次のような作業を行わせていないでしょうか。
・荷の仕分け作業
・棚入れ作業
・積荷のピッキング作業
・荷の生産工程への運搬作業
荷主、着荷主都合によるこれらの作業は自分たちの効率化になるかもしれませんが、トラック運転者にとっては本業以外の作業になります。物流事業者との契約で対価を払って行ってもらっているのかもしれませんが、ここはお互いに見直すタイミングだと思います。いつも申し上げていることですが、荷主、着荷主の都合によるトラックの待機時間はまったくのロスタイムですから、すぐにでも解消することが求められます。
また、トラックが同じ距離を走る場合にも時間帯によってかかる時間が変わってきます。渋滞があるからです。このような時間帯を避けて輸送してもらうことが可能であるならば、その配慮も必要です。渋滞も輸送上の大きなロスになるからです。輸送をアウトソースしている会社は輸送ロスを解消するために、物流会社といろいろな話を進めるべきです。同業他社と混載をすることで今空いてしまっているトラックの荷台の6割を埋めることが可能になるかもしれません。この活動がトラック運転者不足解消の方策となることは間違いありません。
3. 物流業の魅力を向上させる
人材不足となるとどのように人を集めるかは大きな課題であることは間違いありません。業種間、企業間での人の取り合いとなるからです。物流業をどこまで魅力あるものとするのかは、私たち物流に携わる人自身で何とかしなければならない問題です。決してイメージがよいとは思いません。トラック運転者が人身事故を起こしたり、宅配ドライバーが顧客の荷物を蹴飛ばしたりすることが社会問題化しました。
私たちが一生懸命にイメージ向上を図ろうとしている矢先にこのような事例が起きると、間違いなく物流のイメージは悪い方向に向かいます。「なぜあなたの会社なのですか?」私たちはこの質問に明確に答えられなければなりませんよね。明らかに物流関係の求職者は会社を選べる時期に来ています。運送業は仕事がたくさんあっても人がいないから運べない状況にあります。特に物流の中でも運送業はなり手がいません。
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そこで私たちは運送の魅力を120%アピールしていく必要があります。大雪でサプライチェーンが途絶えると運送のありがたさが身に染みると思います。大地震の時も同様です。このような有事は運送のステータスを上げるには絶好の機会でもあるわけです。何とか求職者に振り向いてもらえるしかけを考えていきたいものです。今後の環境変化には外資系企業の参入も考慮する必要があります。外資系は特に大きな値引きをしてまで仕事を取ることは考えません。
物流をシステムとしてとらえて実行します。行き当たりばったりの仕事はしません。荷主ごとの収支もわかって取引をします。さらに安易に仕事を引き受けて自分たちの首を絞めるようなことはしません。このような視点は学ぶべきポイントであります。
また、今後の法改正で運転職にも外国人労働者が入ってこられるようになる可能性もあると思います。建設業がそうしてきたように。私たちは環境変化に対応するという課題に向けて、同じように苦しんできた建設業を学ぶことも必要ではないでしょうか。ということで、物流は昨今の環境変化に柔軟に対応し、他産業よりも一層の努力を行うことで難局を乗り切る必要がありそうです。そのためには視野を広げ、固定観念を外し、今までの常識にとらわれない動きをしていくことが求められるのです。