日本一の物流を実行するために
2018-03-05
いろいろな業界の方に聞かれるのですが、最先端の物流って何でしょうか。多くの方がイメージするのは機械化が進んでおり、構内で高速で荷を仕分けていく状態が挙げられます。しかし、機械化は物流工程において簡単ではなく、またコストもかかります。さらに機械化を通した自動化を行ったものの、状況が変わり投資した設備を使わなくなってしまったという話もよく耳にします。ですから自動化や機械化が先端的な物流だと考えることは正しくはないと思われます。それよりもむしろ物流品質が高く、労働生産性に優れた会社こそが物流先端企業だと考えるべきだと思います。
また、物流オペレーションだけではなく、物流戦略や物流企画が優れている点を見落としてはなりません。たとえば近隣企業からものを購入することで物流コストを下げるということも立派な物流戦略です。 このような視点で見ていったときにどこに物流先端企業が存在するのでしょうか。筆者の目から見ると、日本の物流先端企業は自動車産業の各社であると思います。
なぜならば自動車各社は長大サプライチェーンのホルダーであり、そのチェーンをよどみなく管理していこうという命題を抱えているからです。 運送とか保管といった、ミクロの物流というよりも、まずはサプライチェーン全体の効率化を考えていることが根底にあります。
そんな中で先端的な物流といえるものには具体的にはどのようなものが含まれているのでしょうか。たとえば物流品質管理です。物流品質には貨物損傷以外に誤出荷(誤品、誤数など)や納入時刻遅れ、先行、届け先での配送員の態度など様々です。自動車各社は出荷も納入もきちんとKPI管理されており、その指標が常に向上するように活動を行なっています。
また物流品質不良は部品等の個数を分子分母に取った比率で計算すると、一桁PPMです。エラーは100万個の内の数個レベルだということになります。この数字だけでも「最先端レベル」にあると思われますが、そこに行きつくまでに血のにじむような改善を積み重ねてきたわけです。そして出荷作業の大前提には徹底した標準化が存在します。誰がやっても同じ結果が出るように、作業を標準化しそれを守らせるしくみが回っているのです。
物流はサプライチェーンの一部であり、とりわけ別格のものではありません。メーカーであれば生産の一部であるという認識もあります。この考え方が物流を進化させている一因であると思われます。前回、物流先端企業は自動車会社であるというお話をさせていただきました。ここで気を付けなければならないことは、物流オペレーションを自分たちがやるかどうかは大きな要素ではないことに気づくことです。たとえば輸送はほとんどの自動車会社は自分たちでトラックを保有して運ぶことはしていません。大半がアウトソースです。
このようなことは「Make or Buy」の問題であり、自社でやることの方が有利であればそうしますし、そうでなければアウトソースするだけのことです。大事なことは物流オペレーションの前段階の物流戦略と物流企画にあるということでしょう。これはどういうことなのでしょうか。物流業務は多くの場合、その設計段階で効率が決まってしまいます。拠点と拠点を離して設計すればその間での輸送が発生します。
輸送が発生するということは製品品質を保持するための荷姿が必要になります。輸送分の在庫も発生します。在庫があれば在庫置場が必要になるとともに、その管理も発生してしまいます。つまり物流設計をどのようにするかで、その会社のコストや管理がほぼほぼ決定してしまうのです。これをきっちりとできるかできないかは大きな課題です。
このような検討を行い、工場拠点や発注先であるサプライヤーの場所、物流コストがミニマムになるような荷姿と製品設計、こういったことを真面目に検討し実行している産業が自動車業界なわけです。発生してしまった輸送をどうするか、これは輸送設計の後に行われる改善です。もちろん、この改善自体は必要ですが、根源である輸送設計をおろそかにし改善で何とかしようと思ってもその効果は大きいものは期待できません。ですから、高速仕分け機が動いている様子や、AGVが走り回っている様子を見て、この会社は先端的な物流を行っていると判断することは必ずしも正しいとはいえません。そのような表面面ではなく、その会社の物流戦略を聞いてみることがずっと参考になると思います。
物流を専業としている会社があります。たとえば運送業、倉庫業がその典型です。これらの会社は日本一の物流を実行することで、顧客を獲得し会社を拡大していくことが可能となります。会社経営者であれば誰しも会社の収益を伸ばし、従業員を幸せにしていきたいと考えていることでしょう。これは物流事業者にも当然当てはまります。では彼らにとって「日本一の物流」とはなんでしょうか。明らかに他社と違うということが見た目でわからない限り、お客さんは振り向いてくれません。
最低限これだけは、といえることは「物流品質」だと思います。チルド製品を常温体に置きっぱなしにしたり、顧客の段ボールを蹴飛ばしたりするような物流は論外として、物流品質を他社よりもずば抜けて良好な状況に置くことを考えたいと思います。日本の物流のサービスレベルはグローバルで比較して良好な状態にあると思われます。では物流品質についてはどうでしょうか。筆者から見て「悪くはないレベル」だと思います。たとえば誤配送のデータはおおよそ30PPMだといわれています。
筆者がセミナー等を通して、いろいろな人に誤配送の経験を聞いてみると、実際にはもっと悪い数値だと思いますが、一つの目安としてはこれをベンチマークにしてもよいのではないかと思います...
。つまり、この水準を大幅に上回ることができれば、日本でも高水準の物流品質を維持できていると考えてもよさそうです。物流事業者が自分たちの業務領域をどのように考えているかどうかにもよりますが、顧客の期待値に応えられないようでは「日本一」レベルには程遠いと思われます。
顧客は単純に地点間を運んでほしいとだけ思っているわけではありません。たとえばその輸送のために保有している在庫を減らしたいと考えているかもしれないのです。「在庫を減らしたい」、このような相談があったとしましょう。これに対して弊社の仕事は「運送」なので、在庫についてはちょっと・・・、という答えであれば、そこまでです。でも、今の輸送を行っていて気づくことを顧客にフィードバックするだけでも喜ばれるかもしれません。たとえば、毎日運んでいるけれども、着荷主には5日分程度の在庫が常にある、という情報だけでも喜ばれます。
顧客は物流事業者なら「物流について何でも知っている」と思っています。ですから、運送という領域だけでなく、顧客が定義する物流についてアドバイスできる力量は持ちたいものです。もちろん、これだけで物流事業者として日本一レベルに達成できるかどうかはわかりませんが、少なくとも単純な物流オペレーションにさらなる付加価値を加えていることだけは間違いありません。ぜひ顧客のニーズを吸収し、どうすれば真っ先に自社に声がけをしてもらえるかは常に考えていくべきでしょう。