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QUESTION 質問No.33

市販プラスミドベクターを材料にした「ものづくり」について

企画戦略/マーケティング |投稿日時:
市販のプラスミドベクターを正規の方法で購入し、このプラスミドのマルチクローニングサイトに遺伝子配列等を挿入することにより、ものづくり付加価値を創出し、プラスミドベクターごと顧客に販売しようと考えております。この方法によって製造された付加価値産物は、不特定多数に対して販売されるものではなく、あくまでカスタム品として一人の顧客に対して販売する形態を考えております。ここで考えられるのは、市販のプラスミドベクターの知的財産権でありますが、プラスミドの場合でも「正規の方法で購入」したことにより、製造販売者等の権利は消尽したと考えて差し支えないでしょうか?プラスミドベクターは、容易に増幅することができるため、不安に感じております。

仮に、権利消尽するとして、一人の顧客に対してプラスミドベクター改変物を販売する場合には、都度プラスミドベクターパッケージを購入する必要はあると考えられますでしょうか?

ちなみに、市販のプラスミドベクターパッケージには二次的な商用利用を禁じる記載が書かれていますが、そもそもこの文言に権原はあるのでしょうか?

専門家先生方、ご助言のほどよろしくお願い申し上げます。

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ANSWER
回答No1 | 投稿日時:

質問者の方は、プラスミドベクターを改変した場合には、消尽論が適用されるかという問題意識をお持ちと思います。消尽論をご存知とは、特許法に大変お詳しい方と拝見いたします。

消尽とは、ある物について権利者が知的財産権を一度行使することによって、その知的財産権がその物については目的を達成して尽き、権利者がもう一度知的財産権を行使することができない状態になることをいいます(Wikipedia)。

したがって、市販のプラスミドベクターを正規の方法で購入した場合には、その知的財産権がその物については目的を達成して尽きておりますので、その後の市販のプラスミドベクターの販売行為は特許権の侵害とはなりません。

ただし、プラスミドベクターを改変した場合には、消尽論が適用されない可能性があります。

近年の判例では、「特許製品につき加工されあるいは部材が交換され、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が『新たに製造』されたものと認められるときは、特許権者はその新たに製造された特許製品について、特許権を行使することができる(最高裁平成19年11月8日判決 平成18年(受) 826号【インクカートリッジ事件】)」とされます。

したがって、プラスミドのマルチクローニングサイトに遺伝子配列等を挿入することが『新たな製造』に該当する場合には、消尽論は適用されず、特許権の侵害となる可能性があります。

そこで、以下の手順で確認作業を行ってはいかがでしょうか。

STEP1:プラスミドベクターの製造者が有する特許権の調査
まず、市販のプラスミドベクターに関し、製造者がどのような特許権を有しているか調査を行います。調査は特許電子図書館(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)で行うことが可能です。

特許権が無い場合には販売OKです。特許権が有る場合にはSTEP2に進みます。

STEP2:プラスミドベクターの製造者が有する特許権を、カスタム品が侵害しているかを調査
カスタム品が、製造者が有する特許権を侵害しているか確認をします。

特許権の権利範囲は、特許請求の範囲(いわゆる請求項)の記載を基準に定められますので、各明細書の請求項をすべて読んで、質問者の方のカスタム品が、請求項に記載された構成要件をすべて含むか否かを確認をします。

特許権の権利範囲に含まれない場合には販売OKです。そうでない場合にはSTEP3へ進みます。

STEP3:消尽の適用の判断
消尽論が適用されるためには、カスタム品が『新たに製造』に該当しないことを証明する必要があります。

特許製品の『新たな製造』に該当するか否かについては、当該特許製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様、取引の実情等が、総合考慮され判断されます。

特許製品の属性としては、製品の機能、構造および材質、用途、耐用期間、使用態様等が考慮される。加工及び部材の交換の態様としては、加工等された際の当該特許製品の状態、加工の内容及び程度、交換された部材の耐用期間、交換された部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮されます(最高裁平成19年11月8日判決 平成18年(受) 826号【インクカートリッジ事件】)」。

STEP1~STEP3と進むにつれて判断が難しくなりますので、セカンドオピニオンとして、バイオに詳しい弁理士に調査・鑑定をお願いただければさらに安心と思います。