どなたさまからもご回答がないようですのでお応えいたします。
ノイズ因子を内側直交表に入れてはどうかというご質問ととらえました。
この考えは間違いではありません。その理由は、実験数の削減と、ノイズ効果の削減なら外側直交表でなくともかまわないからです。
これは、米国では前者を(C,N)、後者を(C×N)と表現しています。
C:制御因子C(control factor), N:ノイズ因子(noise factor)
前者は、数値実験で検証されております。制御因子を指定範囲内で組み替えてノイズばらつき(ノイズ変動)の最小化を図ります。このように考えると直交表L18でなくORで最適化が可能になる範囲です。このために、ノイズ因子の内側割り付けは、品質工学では研究していないです。
実実験でL18の内側のノイズ因因子を割り付けるならば、実験にてノイズ効果が小さくなる制御因子を見つけることになります。これは現在、できておりません。数値実験のように水準変更が困難さがなければいいのですが、実実験では実験数が限定されます。数学が進化して解析方法が見つかるかもしれません。実験数が少なくて済むとする数学的保証が前提になります。
確かに、外側にノイズを割り付けのは実験数が多すぎます。ノイズ因子を直交表、調合に配置する方法がありますが、直交表ノイズと調合ノイズは最適条件が一致しないことは証明され、品質管理学会誌(2019)にも報告されております。
品質工学会は、田口の教えをよりどころにしており、必ずしも検証されての技法展開でありませんが、その枠外を研究することはしておりません。数学・統計・最適化法のご提案を期待しております。
ノイズ因子が内側か?外側??は、下記テキストで議論されております。
C.FJeff and Michael Hamada [Experimental Design](2009) Wiley USA の第12章を見てください。
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実験計画法や品質工学のコンサルをしている村島です。お答えはすでに十分なされているようですので、これからの回答は、別の視点もしくは補足の意味でお読みくださればいいかと思います。非常に初心者向きに説明させていただきますから、ご存じのことと重複する段はお許し願います。
まず、ご質問者の考え方で実験を行った場合、懸念される事項が生じます。
①誤差因子が、母数モデルならよいが、変量モデルであるなら(誤差因子が変量の場合も多い)、検定は複雑。(不偏分散の期待値考慮した検定なので、通常の実験間誤差との比較から開始) ただ、これは、解析に通じた人なら大きな問題でもなく、実験回数からすると、このスタイルはメリットでもある。これは間違いない。
②直交表内側に割り付けられた誤差因子は、当然、他の列に割り付けられた制御因子との交互作用が生じるので、制御因子の効果は、この交互作用がらみで判断しないといけない。交互作用列が確保できない場合には、使えないやり方となる。
③もし、②で解析可能であったとしても、それは、ある一つの誤差水準の場合に対しての最適な制御因子水準をみているることになる。品質工学の場合には、どの誤差水準でも最適な制御因子水準を見つけることが目的なので、品質工学のようなロバスト設計の立場からは推奨できない。
④L12などのように、全ての交互作用が他列に均等配分されるなら、まだよいが、(すべての誤差因子との交互作用を制御因子が受ける)、そうでない場合には、誤差因子の影響を交互作用として受けない列が出てくる。受けた列と、受けない列での比較となって、大きな判断ミスになる。
これを避けるには、全ての制御因子と誤差因子の交互作用を完璧に見ることが必要で、誤差因子は外側割り付けにすべきとなる。
以上より、誤差因子の外側割り付けはお勧めできません。
なお、私は、このご質問の参考文献として、下記をお勧めします。
「品質を獲得する技術」(宮川、日科技連)
この本は、副題が「タグチメソッドがもたらしたもの」とあって、通常の実験計画法と品質工学の違いを、きちんと説明しています。この本の3.2章に誤差因子の外側割り付けの理由が書かれています。p75にはこう書かれています。
(中略)絶対やってはいけない配置は、直交表の列にまだ余裕があるといって、誤差因子Nも直交表に割り付けることである。これは最悪の配置である。直交表の外側に誤差因子を割り付けることで、直交表に割り付けた制御因子と誤差因子の交互作用をすべて検出できる配置になっている。これを確認しよう。(以下略、本をお読みください)
私の回答の④に相当しています。
補足ですが、この質問は非常に重要だと思います。1989年ごろ、まだ品質工学がそんなに有名でもなかったころ、日本規格協会の大阪で、実験計画法の大家(名前は差し控えますが、京大名誉教授で、デミング賞の審査員でもありました。タグチメソッド派というよりは、批判的な立場の集まりでした。)を中心に、タグチメソッドの研究会をされていました。私は、会員ではなかったのですが、いっぺん説明しに来い、と言われて、お邪魔したことがあります。その際、その大家に質問されたことの一つが、ご質問の内容とまったく一致していたので、懐かしくなりました。帰り際に、その大家に「タグチメソッドやってる連中にこういう質問しても答えられないやつばかりで、わかってやってるのか、実験計画法知らんからタグチメソッドに逃げてるのか、と思ってたけど、君の説明聞いてよくわかった。本当にありがとう。」と言っていただけて、ほっとしたのを思い出しました。当時、まだ宮川先生の本も出てなかったわけですが、基本的なことで実践的に考えていたことが、役に立ったように思います。
いろいろやってみることが、一番わかりやすいと思います。理論式なんかで、検討されるのもわかりやすいかと思います。
以上です。よろしくお願いします。
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村島です。評価欄に、再質問と受け取られることが、ありましたので、少し補足説明させていただきます。
③誤差因子の水準毎の最適水準を見ることになるので、どんな誤差水準についても最適な制御因子水準を見ることにはならないという、くだりで、全ての列に対して、誤差因子が関係しているので、全体最適化は可能ではないのか? という意味であろうと思うのです。間違ってはいないのです。すべての水準に平等にかかっていきますから、全体に影響しているわけです。ただし、誤差因子は通常、強い交互作用を与えるわけです。(そうでなければ、誤差因子にならない) たとえば、車の走行性能(スピード)の安定性を調べるとき、湿った道をN1, 乾いた道をN2とします。制御因子をサスペンションの硬さA1(柔らかい),A2(硬い)とします。Nを外側割り付けすれば、N1、N2に対する走行性能の安定性は、N1に対しても、N2に対しても安定した走行性能を有するA水準が解析できます。ところが、これって、よく考えると、N1での最適条件も、N2での最適条件も別々に出せるわけです。(Nが標示因子の時などがこれに匹敵) 余った内側直交表の列にNを割り付けるのは、このことと同じです。それでも、L12などのように、交互作用が各列に均等に配分されるなら、これでも目的は果たせるのですが、たとえば、L8やL16に割り付けると、交互作用列が特定されるので、N1に対する最適水準、N2に対する最適水準を見ることになります。割り付けを失敗すれば、これもみられませんね。交互作用列をきちんと確保した場合には、Nごとの最適水準をみることになります。交互作用がなければ、割り付けたことは意味がありません。又、Nとの交互作用が現れない列へのNの効果はでてきません。
要するに、Nは他の列全てに影響を与えるのだけれでも、その軽重はまちまちだということです。
たとえば、L8で1列に因子A(制御水準)を2列に誤差因子Nを割り付けた例が簡単です。2列に割り付けたNは、他の列の実験水準(BとかC)にも影響しているはずです。しかし、このNとAの交互作用は第3列にしか出てきません。第4列には、Nの効果は何も出てきません。もし、第4列に因子Bを割り付けていても、Nの効果はでてきません。第三列の効果が大きければ(通常大きくなります。ならなければ、誤差因子水準が不適切)、NとAに交互作用があるので、Nに寄らない最適水準はAでは出ないということになります。Nを制御因子だと考えれば、わかりやすいかもしれません。これが、コメント②で交互作用云々と関係していることの意味です。
わかりにくい文章ですいませんが、以上です。
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ご質問の意図から、実際に内側に制御因子と誤差因子を割り付け、ばらつきを低減した事例を紹介します。
第26回品質工学研究大会研究発表大会予稿集:発表番号32「パラメータ設計における設計効率化の方法の提案」ソニーセミコンコンダクタソリュウション株式会社 里秦雄(16761)田中靖人(14267)
この論文中では、数値シミュレーションペンレコーダサーボ機構(理論式あり)を使いD計画とL18で制御因子ADEGH,誤差因子Bを内側に割り付けています。 SN比で結果を見ますと約19dbの改善となっています。
この発表は、静岡研究会の会場で報告され、意見交換をしました。
理論式でありますが、内側に誤差因子を入れてもばらつき低減ができることを証明しています。
上記論文の一読をお薦めいたします。おもちさんによる本論文の拡張を期待しております。
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